変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     掲載済 (17、18、19、20)
 第5章 回帰     掲載済 (21、22、23、24)
 第6章 収束     ○ (26:2/4)
 第7章 決戦     未
 終 章          未
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第6章 《収束》  (続き 2/4)

「前に王が偽者だって言ったろう? 親衛隊もそれを嗅ぎ付けたんだとさ。」
国王に忠誠を誓う親衛隊として、王が偽りであると判明したのなら、王の長兄であるルナに同調しようとするのは道理に適っている。しかし、である。少し冷静になってルナが切り返した。
「三つ説明してくれ。一つ、なぜ今の王子でなく俺に接近するのか。一つ、王が偽者と分かったのなら、なぜ親衛隊自身でそれを正そうとしないのか。一つ、これが一番重要だが、なぜお前はその親衛隊とやらを信用したのか。」
「全て理由があるさ。今聞くか? 時間は無いんだぜ?」
ブルータスが優秀であることは、誰よりもルナが認めている。しかし、王族とは孤独なもので、誰であっても疑ってしまうという側面を持つ。全面的にブルータスを信用して良いものか、と暫し考え込んでしまった。そんな様子を見抜いたブルータスが付け加えた。
「そのままローマに行ってくれてもいい。それならそれで、俺がお前を全面的にバックアップすることに変わりはないさ。だが、今は俺を信用して進路を変えてくれた方がもっといい。」
ブルータスを傷つけてしまったと思った。これが今まで献身的に仕えてくれた者への仕打ちかという思いと、情に流されてはいけないという理性が、ルナの心の中でぶつかっている。そして、それには冷静な部分が決着をつけた。
「いいさ。どうせこのままローマに行っても、それでどうするってのは無いんだからな。お前の言う通りにしてみるさ。」
「いい決断だ。きっと俺に感謝することになる。」
「言ってくれるぜ。で、俺はどうすればいい?」
「これからの進路を送るから、詳細はそれを見てくれ。要は、暫く行ったところで親衛隊の編隊に出くわすことになるんで、合流して一端ここに戻れ。」
「俺達を探している王国軍を連れて帰ることになるかもしれないな。」
「それは困る。そんなのは振り切ってから帰って来てくれ。ついでに、お前が見て信用できないと思ったら、親衛隊の編隊も落としちまえ。」
ルナは一瞬でもブルータスを疑ってしまったことを恥じていた。この男は信用していい。一蓮托生、いい言葉だ。仲間とはこういうものだ。
     ◆
 「問題は、我が王国に共闘を求めて来た西ケルトに攻め入るということ、この理由をどうするか、ですな。」
既に西ケルト侵攻の作戦はできていたし、皇帝との交渉カードも概ね準備ができた。残ったのはこの問題だけだとの認識を宰相が披露したのである。それを受けて軍の統帥が不思議顔をして応えた。
「何を心配することがありますか。西ケルト公爵は、畏れ多くも『王』を名乗っているのですぞ。それだけで万死に値する。」
王が続きを受け取らざるを得なかった。
「しかし、彼が名乗っているのはケルト民族の王だ。帝国の皇族を謳っているのではない。」
「それは認められないでしょう、陛下。ある程度の主権を持った民族は他にもあります。それを統括するための爵位ではないですか。ケルト民族の元首として、公爵のままであるべきだったのです。王を名乗った時点で、それは皇位への侮辱以外の何物でもない。」
「それは分かる。余とて同じ意見だ。しかし、民がどう受け止めるか、というのが問題なのだ。」
宰相が諦めた様子で言い放った。
「恐らく民は、西ケルトへの侵攻を王国の暴挙と断ずるでしょうな。助けを求めた者を踏みにじったと。」
軍の統帥が何か言おうとしたが、宰相の言葉が続くのが先だった。
「少々乱暴ですが、ここは勝者の論理で押し通すしかありますまい。」
王も心中では同じ結論に至っていたのか、すぐに同調した。
「ブリテン王国には伝統がある。王国が西ケルトを攻撃したことを民が知る頃には、既に皇帝を屈服させているはずだし、リメス・ジンの圧倒的な破壊力を見せ付けてもいる。これらを以ってすれば民は黙らずを得まい。民の声は王権が弱腰になると大きくなる。強権発動でいくしかあるまい。」
「その通りです。皇統が統一されれば世も平和になりましょう。さすれば、平和が民から怨念を取り払うに時間はかかりますまい。」
この結論には軍の統帥も満足な様子であり、話題を変えた。
「リモーの艦隊は、既に巡洋艦艦隊と合流し、空母にも新たに航空編隊が着艦しております。これからドーバー海峡に向かわせます。」
「よし、リメス・ジンの編隊は後どれくらいで出撃できるのだ?」
「ニ日後には。」
「ルナ隊の整備士を招聘して、リメス・ジンを強化する件はどうなったのだ?」
「進めてはおりますが、それは次の機会で宜しいかと存じます。既にリメス・ジンは無敵ですので。」
「良かろう。明後日にはケルトの地で帝国に圧力を掛けるというわけか。」
「そして明々後日には、皇帝が庶民に落ちぶれて陛下の前に跪きます。」
王も満足顔になった。
「その後には、神聖同盟の解体に取り掛からねば、な。」
「忙しいことですな、陛下。」
「全くだ。」
王室の笑い声が扉の外にまで漏れ出た。ブリタニアを焼き払ったリメス・ジンが、その帰途においてたったニ機のタイガー・ルナに撃墜されたということは、彼らには興味がないことなのだろう。
     ◆
 ルナの驚異的な検知能力は、親衛隊の飛行隊を誰よりも早く見つけさせた。高度の取り方と雲を利用して、親衛隊が気付いた時にはルナ隊が彼等の後ろに付いていた。
「お前達の機体は親衛隊の専用機と見たが、こんな所で何をしている?」
後を取られて親衛隊は動揺していたが、懐かしいルナの声を聞いて襟を正して応えた。親衛隊という立場上、皇太子時代のルナを皆が知っていたのだ。
「ルナ殿下とお見受け致しましたが、間違いありませんか?」
「質問しているのは俺だ。勘違いするな。」
「は。失礼致しました。我々は親衛隊の有志です。殿下とご一緒させて頂きたく推参致しました。殿下の斥候殿からお聞きになっておられませんか。」
「俺が質問してるって言ってるんだぜ。」
ルナの機銃から銃弾が放たれそうな勢いにもめげず、親衛隊は一糸乱れず隊列を組んで飛び続けていた。
「重なる無礼をお詫び致します、殿下。」
「いいだろう、俺に何の用だ?」
「殿下、冷静にお聞きください。父君が自死されました。」
「王が? なぜだ!?」
「王室に不正が蔓延っております。陛下はその御命を以って不正を是正されようとなさったのです。」
「今は国王不在ということか?」
「はい。しかし、王室には王を名乗る者がおります。」
最悪の結果と思えた。国王が自ら命を絶つなど、千年来無かったことで、あってはならないことだった。
「陛下の御意志、くれぐれもお汲み取りください。陛下は殿下に後をお任せになられたのですぞ。」
あの親父はいつもそうだったとルナは思う。結局、ルナには過剰の期待を寄せ続けるのだ。父親の息子への思い、皇族と言えどもその気持ちに変わりはないということか。
「殿下、王国を立て直さねばなりません。」
「宰相は、あの男はどうしているんだ? あの男もその不正とやらの一味なのか?」
「我々はここに来る前、王室の前で王室憲兵隊と一触即発状態にまで陥りました。その時点では未だ王が偽者と気付いていなかった国王派の我々親衛隊と、宰相派の憲兵隊です。」
「ということは、宰相は王が偽者だと気付いたということか? それで争いになったと?」
「もし、親衛隊と王室憲兵隊が衝突すれば、私はもうこの世にはおりますまい。」
「両派に協定が成った、ということだな。」
「はい、宰相の人柄からして、王を名乗る男に与したものと確信しております。」
「王子は、あいつは無事なのか?」
「不自由ではありましょうが、ご無事です。親衛隊がお守りしております。」
「そうか。無事なのだな。しかし、王宮に残った親衛隊もいるということか。親衛隊も分裂したということか?」
「そうではありません。決して!」
「それなら、貴様達がここに来てしまったことが明るみに出れば、残った親衛隊は大変なことにならないか?」
「残った者はそれも覚悟の上です。」
言葉の上では、この親衛隊員の言うことは辻褄が合っているし、熱意も伝わって来る。あとは目を見て話してみなければならない。この段階でルナは、ブルータスの進言に従うことに決めた。
「よし、進路を指示するからその通りに飛べ。俺達が親衛隊の後から着いて行く。」
その時、遠くに飛行隊を見つけたのはまたしてもルナだった。そして、回避して身を隠す前に先方もこちらを見つけたらしく進路を変えて近付いて来る。それを確認したルナ隊の隊員が反応した。
「隊長、見つかっちまったぜ。ありゃ、王国の空軍編隊だ。叩き落すかい?」
それも止むを得ないが、どうも様子がおかしい。攻撃や防御のフォーメーションを取っていないし、増装も切り離していない。そうこうしているうちに空軍編隊はある程度まで近付いて来たが、すぐに去って行ってしまった。それを見て親衛隊が口を挟んだ。
「殿下、ご心配なされますな。我々がお供しております。」
そうだった。ルナ隊は今、親衛隊編隊の後を飛んでいるのだ。どこから見てもすぐにそれと分かる親衛隊の専用機編隊。後に空軍の編隊を率いて作戦稼動中の親衛隊にしか見えないはずである。親衛隊の作戦は指揮系統が違うので通常の軍には知らされないし、そもそも国王直轄の親衛隊にいちゃもんを付けるような物好きはいない。というわけで、安心してブリタニアに帰れるわけである。
 誇り高き親衛隊に守られながら、ルナ隊は再びブリタニアに向けて進路を取った。ルナ隊も親衛隊も、これはあたかもルナを王に戴いた直営編隊のようだと思い、これからのルナを暗示しているものと考えていた。ルナの決意に同調してローマに向けて飛び立ったにもかかわらず、王国の領空から出る前に引き返すことになった。ルナ隊の隊員は、詳細は分からないがルナのことだから特別の理由があるはずだと思いながらも、肩透かしを食らったような気持ちになるのを押さえられなかった。団結していることが最も大事な時期にあって、それは好ましくないものであったが、ローマに行く前から親衛隊を侍らしてしまうルナの力量と運に、隊員達の心は再び昂ぶるのであった。

<本だるみ? いやいや。>

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