好きにすること

好きなようにしてごらん、と言われてそうすることの難しさを感じ
る。

船に乗り始めて二年が過ぎた。横浜のヨット教室にお邪魔して、お
世話になったオーナーさんの船に、そのまま乗せてもらっている。
通い始めは東京に住んでいたのに、今は横浜を住処にしている。

陸に置かれた三十フィートのクルーザーは、初めて見たとき、とて
も大きく見えた。台車の上の大きな船が、ゆっくりとリフトに運ば
れていく様子に、いつもわくわくする。横浜の発電所の脇にある小
さなハーバーから東京湾に船を出す。東京湾だけあって大きな船が
たくさん行き交っている。自動車運搬船、石炭運搬船、液化天然ガ
スの運搬船...沖出ししてビール、枝まめ、近所の港でビール、昼ご
はん、昼寝...そして帰航、大きな船体に水かけながらスポンジで磨
く、白い船体の上をスポンジの軌跡がついては消えていく...

海は広い...

好きなようにしていいよ、そう言われて舵を渡されると少し不安に
なる。帆に風はらませて進む、強い風、弱い風、波、潮、陽射し、
微妙なバランス、風向きや風の強さみながら引いたり押したりの試
行錯誤、いろいろな場面で絶えず快適に船進ませるのは、なかなか
に難しい。

風をつかむ感覚...

たまに、舵を動かすタイミングと、船の上吹き抜ける風とがバラン
スしたときの幸福な気持ちよさ、見上げた帆の形の美しさ、束の間
の...

まだまだ時間はかかりそうだけれど、いつかは自分の船持つ希望を
抱きながら、港通いはしばらく続くでしょう...