美術と本と映画好き...
徒然と(美術と本と映画好き...)




学生の頃は映画が好きで、年に二百本とか観ていた年がある。子ど
もの頃は体が弱く、空気の悪い映画館に行くなんてとんでもない、
というわけで映画鑑賞は禁じられていた。

映画館は行けない、午後九時からの映画を観てても十時には寝かさ
れてしまう、そんな小学生の頃から映画へのあこがれみたいなもの
があって、親に断ることなく勝手気ままに遊べるようになってから
は映画三昧。

暗闇の中で息をひそめる。

開演前は真っ白いスクリーンに、映し出される様々なドラマ、広い
劇場もあれば狭い劇場もあり、名画座もあればミニシアターもある。
座り心地良いソファのような椅子もあれば、小便臭い劇場もあって、
実に様々な小屋で様々な人たちと、同じスクリーンを見つめながら
時を過ごした。

そんな営みを繰り返すうちに、ふとしたイメージが頭を過った。銀
幕を見つめる多くの観客たち、その屋根を切り取って外の光が入っ
てきたら、白い画面を見つめる人たちの画ができあがる。暗闇の中
に映し出される移ろいやすい幻から、そうした場面を想像すること
があった。

そんなイメージが作品として展示されている。

今回の杉本博司展でもっとも印象に残ったのは、やはり劇場の写真
だ。長時間露光されたスクリーンにはまっしろな光が映っている。
レンズの前には確かに存在していたであろう風景、人物、物語は溶
けている。アメリカの造りが立派な映画館、昔は劇場だったのであ
ろうオーケストラピットを備えた劇場、左右に白い彫刻が置かれた
劇場、天井に星が瞬く劇場、左右に広がるシャンデリアの影が贅沢
な劇場、あるいは星や飛行機の軌跡がゆるやかなカーヴを描くドラ
イブ・イン・シアター、屋外の映画館には強い風に木々がざわめく
様子も写りこんでいる。

不思議な、とても不思議なイメージ...
# どんな映画が上映されていたのだろうな...

杉本博司の作品は何度か観たことがある。水平線を写した写真だ。
美術館の写真コーナー、あるいは現代美術のコーナーに、いつも控
えめに展示されていた。一度観たら忘れる事はないが、そんなに面
白い作品ではない。それが第一印象だった。

少し見方が変わったのは直島のベネッセハウスで観た屋外での展示。
海が見えるテラスに何枚かの水平線が同じ高さでならんでいる。い
くつかの水平線が横一直線に続いている様子が面白かった...

今回の展示では、規則的にならべた白くて大きな柱にかけた数理模
型のシャープな形態、四方を水平線の写真で埋めた黒い部屋、まる
で生きているかのように見える蝋人形、そしてピンボケのイメージ
の中で特徴的な形をとらえた建築物の写真、いくつかのアイデアか
ら派生する様々な変奏が観られる。一点一点の写真だけ抜き出して
もあまり面白さは感じられない。しかし、これだけの量が集積する
と力が出てくる。今回の展示の構成には本人も様々なアイデアを出
していて、この展覧会自体が杉本博司の作品である、と紹介されて
いた。ひとつの作品として、とても充実した展覧会だと思った。

杉本博司 時間の終わり(森美術館) 2006/1/9 まで...

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コメント
 
 
 
TBさせていただきました! (ROO)
2005-09-25 10:39:57
こんにちは!TBありがとうございました。

わたしも、いただきました♪

全体が作品…たしかにおっしゃるとおりです。

一つ一つだと「?」と思わせる写真が多いですね。

とくに蝋人形やジオラマは、

その正体がわからなければ「?」ですよね。

かなり圧倒されました。

とくに、Seascapesの部屋が印象的でした。

あの耳鳴りのような音。

最初は頭が痛かったけど、そのうち癒されてしまいました。
 
 
 
おはようございます。 (Tak)
2005-10-02 08:09:32
TB・コメントありがとうございました。

「シアター」シリーズ完成度高いと思いました。

自然を相手にした「シースケープス」と対照的に

思えましたが、実のところそんな単純な比較は

できないものだと思いました。



もう一度行きます・
 
 
 
Re: おはようございます。 (lysander)
2005-10-02 21:38:09
Takさん

こんばんは。



Takさんの記事を読んで、同じ展覧会を観ても、

琴線に触れるところって人それぞれなんだな、

と思いました。



面白いですよね。

 
 
 
TBさせていただきました (K-FUNK)
2005-10-03 23:09:16
TBさせていただきました。

またTB&コメントありがとうございました。

僕はまだ観に行っていないので、早く行きたいです。
 
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