美術と本と映画好き...
徒然と(美術と本と映画好き...)




中野のSAIスタジオでパパ・タラフマラの公演を観てきました。パパ・
タラフマラ
は二十年以上の歴史を持つダンスカンパニーです。名前
だけは知っていたのですが、この劇団は今回が初めてでした。

チェーホフの三人姉妹とベケットのゴドーを待ちながらをダンスに
仕立てているそうで、とりいそぎ『三人姉妹』を読みながら会場へ
向かいます。なにせ昨晩、急に思い立ったので...

チェーホフの『三人姉妹』は1900年頃に書かれた作品です。時代の
移り変わりに翻弄される三人姉妹を中心に、裕福な階級の人々の生
活が少しずつ変わっていく様が描かれています。まじめ故にいろい
ろなものを背負い込み、背負い込まされてしまう長女。昔は素敵に
見えていた夫に幻滅を感じつつ、妻子ある男に恋心抱く次女。働く
事に目覚めながら、いざ働いてみるとその厳しさに音をあげる三女...

今だって、どこにでもいそうな人々を織り成す悲喜こもごも。昔か
らチェーホフは馴染みやすいと思っていたのですが、生活の中に描
かれる人々の考え方が、今の私たちのそれと全然変わっていないと
ころに共感したのだと思います。

そんな戯曲がどんな風に料理されているのか、とても楽しみでした。

会場に到着すると長蛇の列です。会場は六十人も入ればいっぱいの
ようなスタジオです。私は当日券で一番最後に並んで入場しました。
どうみても三人分しかない長椅子に四人目の客として案内されまし
た。私と左となりの男の子は細身なのですが、その二人が並んでい
ても窮屈です。さらに右手にはゲストの中沢新一さんが座っていて
居心地悪そうにしています。これは申し訳ないなぁ...というわけで、
勝手に一列後ろの座席に移動してしまいました。

一本目は『ヲg』です。紙袋をかぶったダンサーが静かに動き始め
ます。紙を震わせる息遣いが緊張感を強います。舞台の上のモニタ
ーには呼吸する木の葉のCGが映っていて、その映像と呼吸のタイ
ミングが響き合って、どこか生々しい感じ。ダンサーの動きは同じ
動作を繰り返したり、急に小刻みな動きを混ぜたり、とても不思議
です。

そこからだんだんと登場人物がみえてきます。

ダンスの基本は反復運動。そこから様々なバリエーションを生み出
されます。6人の登場人物が6列にならんでああでもないこうでも
ないと体を動かしつつ呪文のように台詞を唱える場面。動作を急い
だり遅らしたり、台詞を早めたりゆっくり言ったり、飛んだり跳ね
たり歩いたり。それぞれの役者さんのアドリブもはいっているので
しょう。とても不思議な感覚です。

gがくるのかこないのか。待つようなふりをしつつ、遊びながら時
間を過ごしている人々に、自分を重ねたくなりました。
# もっと遊びたいな~と...

十分の休憩を挟んで二本目は『三人姉妹』です。これはのっけから
チェーホフが(というより私のチェーホフ観が)ふっとびます。どこ
か古びたスカートを履いた三人姉妹がスカートめくりあったり夏の
虫と対決したり、料理を作ったり欲求不満を吐き出したり。どれも
誰もが心あたりあることばかり。それをダンスという表現で示して
行きます。

最初はどうしてこんなになったのか戸惑いを感じたのですが、だん
だんとそんなことはどうでも良くなります。幸せなんだか不幸せな
んだか判らない登場人物たちは、それでも劇の合間に『生きていか
なくては...』とチェーホフの台詞を吐きます。それって戯曲の登場
人物たちと重なるのだな...

ダンスの方は、ボンテージなところまですっ飛びます。前半はもっ
さりとした印象のあった女優さんたちが、洋服を脱いで黒いゴム製
(?)の衣装になった時のインパクトは凄かった。とても妖しく、挑
発するような、自信に満ちた表情。先に電球光らせたコードをぐる
んぐるん振り回す様子は圧巻でした...

というわけで、『三人姉妹』を読むことは、この公演を理解する役
には全然立たなかったのですが、『三人姉妹』を読み解くには重要
な鍵がたくさんみられた公演だと思いました。

そして、演出の小池博史さんと中沢新一さんのトークショー。

私は公演を観終わったあと、しばし呆然として言葉になりませんで
した。この後にどんなトークをするのだろうと思っていたのですが、
そこは中沢先生。三人姉妹の何気なさや舞台芸術のこれからのあり
方などをそこはかとなく散りばめつつ、シャボン玉ホリデー、トム
とジェリーなどのお気に入りの話から、都はるみを経由して、村上
隆、松任谷由美にいたるまで、どうしてそんなに話題が出てくるの
でしょう。道頓堀劇場で清水ひとみのストリップの台本を書いたな
んて話もされていました。二十年も活動しているのは伊達ではない、
ということなのでしょう。

その中で興味深かったのは、表現する側の人たちに対して、『売れ
ない本が良い本だと言う人もいるが、そんなことはないだろう』と
いった言葉です。大勢の人が観たがるものにはそれなりの理由があ
るだろうというのが趣旨なのですが、その例として韓流が日韓の友
好に役立っているのではないかという論法は、かなり強引なのでは...
# そういう風に利用している人はいるだろうし、それはそれで悪
# くないと思いつつ...

また、これからの演劇に必要なのは、演じる空間と演出家の趣味と、
換金システムとの繋がり方である、という件は示唆に富んでいます。
あくまで表現する人は自分の直感でやらないといけない。無自覚に
換金システムに乗ってしまうと、表現が制約されてつまらなくなる
だろうという主張です。なるほど...

これは、あくまで換金システムには趣味を解せない人たちが支えて
いる、ということを前提にしていて、そんなのに迎合すると悪くな
るというお話です。演出の小池さんも昨今の芸能人を前面に売られ
る芝居を苦々しく思っているようでした...

表現したい気持ちを強く持つ人と、観たい人との幸福な出会いの場。
それは中野の小さなスタジオかもしれないし、そんな出会いをこれ
からも沢山経験できたらな、そんな風に思いました。

公演はもう少し続きます。もしかしたら幸福な出会いがあるかも...

13日(日) 14:30★/20:00
19日(土) 14:30★/20:00
20日(日) 14:30★/20:00

★印の回は終演後、小池博史と日替わりゲストによるアフタートー
クがあります。

13日(日)港 千尋氏 (写真家、美術評論家)
19日(土)渡辺 保氏 (演劇評論家)
20日(日)後藤繁雄氏( クリエイティブ・ディレクター)

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
ご来場ありがとうございました (sachiko)
2005-02-21 23:30:22
ご来場ありがとうございました。

初見のパパタラフマラにここまで、いろんな感想を持っていただけてうれしいです。

 なんか私は勝手にライサンダーサンを女性だと思っていたので、えっ男性なの?とちょっと驚きでした。

 でもうれしいです。トラックバックありがとうございました。
 
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