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「美しくないもの」の排除
9・11から5年たった。
以後のアメリカ社会の変容については、さまざま論じられてきた。そうした変化の一つを取り上げ紹介してみたい。
アメリカではテロ以後、音楽規制が進んだ。たとえば、アメリカのカントリーグループのディクシー・チックスがブッシュを非難し、その結果、彼女たちがバッシングを受けたことは有名だ。こんなアメリカの規制に着目し、存在したといわれる「放送自粛曲リスト」について考察した報告が『放送レポート』9月号に掲載されている。
その報告によれば、なんでもディクシー・チックスはバッシング・キャンペーンによって全米ラジオ局で20%もオンエア回数が減ったらしい。そのバッシングを行ったラジオ局の多くが、ブッシュ家と深い関係にあるクリア・チャンネル・コミュニケーションズ(CCC)という大手のラジオ・チェーンに属していたという。
先の「リスト」は163曲にのぼっている。
報告は、なぜこれらの曲が選ばれたのか、歌詞を一つひとつ検討している。また、9・11を想起させる曲調や音源にも着目している。
その結果、9・11を想起させる以下の単語が曲のなかに多いことを紹介している。
fire/plane/bullets/knives/bombs/destroy/suicide/
dust/die.death.dead/crash/burn/kill/Tuesday/
September/fall/NY/blood/tower/war
だが、歌詞分析や単語、アーティストのプロフィールなどの詳細な調査をへてもなお、決定的な選曲基準を見出すことはできなかった。ここまでなら、なーんだ、それだけのことじゃないか、となりかねないが、報告は以下のように一つの結論を出している。
「噂の曖昧さ」こそが、今回CCCが利用したかった最大の理由だったといえる。噂は確かめられることがないため、多くの人に波及する。そして見えない圧力を持つようになる。「見えない敵」が発する圧力を各メディアに加えることを可能にした。CCCの罪はまさにここにあった。「自粛を強いる」という矛盾を社会の中に生み出したのだ。
ところで、山口二郎(北大教授)が『朝日』紙(9日付)に「安倍氏は歴史認識を語れ」という一文を寄せている。山口がいおうとするのは、安倍が「戦後レジームからの脱却」を口にするが、それは民主主義の擁護と矛盾するし、同時に民主主義が歴史認識と密接不可分であることから、安倍が民主主義をどう考えるのか、歴史認識を示せと求めているのだ。
安倍は周知のようにこの問題について明言を避けている。わずかに村山談話について言及したが、総裁選まで安倍がこの問題にふれるとは私は考えていない。
私が着目したのは、この山口の文章のなかにあるつぎの部分である。安倍が政権を仮に握った場合、直接国民に与えるであろう影響を考えれば、横に置いておくことはできない課題だと考えているからだ。
山口はこうのべている。
そもそも、政治家が「美意識」を前面に掲げること自体に違和感を覚える。「美しくないもの」の排除につながり、ブレーキが利かなくなる危険をはらんでいる。 |
山口のこの懸念を無視してはならないと思う。
『美しい国へ』で安倍が強調しているのは、山口がいうように「戦後レジームからの脱却」という名のもとの、戦後民主主義を形づくる憲法と教育の敵視である。この限りでは、日本国憲法や教育基本法は安倍によれば美しくないものとして葬り去る対象なのだ。この本のなかでも堂々とダメ教師は辞めてもらわなければならないなどと、自らのものさしで臆面もなく語っている。
自民党のなかは、いまや安倍へ安倍へと雪崩をうって流れている。安倍政権が誕生することは避けられないだろうが、この山口が指摘する新政権による「排除」を率直にいって懸念せざるをえない。その可能性を指摘するには、これまでの安倍の言動をもってすれば十分だろう。一昨日のエントリーで指摘したNHK番組改ざん事件もそうであった。
しかし、法規制などによる直接的な排除だけではないだろう。立教大学ゼミ生のこの調査が教えるように、アメリカのメディア企業がねらったのは曖昧さゆえに不特定多数に広がる、無言の圧力である。マスメディアの現在や日の丸・君が代をめぐる問題などを考えれば日本も例外ではない。「見えざる自粛」はすでに進行している。
「見えざる自粛」という排除、これにどう抗するかは重要な課題といえる。
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