森羅万象、政治・経済・思想を一寸観察 by これお・ぷてら
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「お前の代わりはいくらでもいる」。
ある案件を抵抗もなくとおしてしまうためには、暗黙の了解が得られていなければならないだろう。根回しが常態化するのも、了解をとりつけることにほかならない。
案件が理不尽なものである場合、なおさら「暗黙の了解」状態をつくり出すために四方八方からの力と全神経とが注がれることになる。
80年代に入って、「行革」の名で新自由主義的施策がとられ、その後とくに小泉構造改革では、隠すことなく「改革」には痛みをともなうことが喧伝された。
その際、自己責任と言う言葉が大いに効力を発揮した。
新自由主義は、それを推進していく上で、国民の中に必ず推進していくためのしかけを構築する。それは端的にいえば分断と差別という形で、弱者に牙を向けてくる。医療においては、医師と国民、あるいは医療従事者と国民、さらには社会保険加入者と国民健康保険加入者などのように。加えていえば、老人と現役世代、生保受給者とそのほか、という具合に枚挙に暇がない。政府・厚労省、財務省は、自らの医療費抑制、社会保障切り捨てを守備よく成し遂げるために、階層間の対立と軋轢を生み出す宣伝と組織に血道をあげてきたといっても過言ではない。因みに、税制の面では、いわゆるクロヨンという、裏づけのない政府の宣伝が長らく中小零細業者を苦しめてきたことも我われは知っている。 なぜ共同戦線か。 |
このように新自由主義的改革は、格差社会ともよばれるような日本社会のなかに亀裂をつくりだした。
その際の亀裂は何によって生じたのか。それを小森陽一が説いている。
『理不尽社会に言葉の力を』。副題に、ソノ一言オカシクナイデスカ? とある。
明らかなように、小森は、新自由主義的改革がすすめられていく過程で駆使された言葉の一つひとつを取り出し、論理的な矛盾を衝く。
言葉は、私たちの周りに、どこにでもいる部長が、あるいは課長が、先輩が吐きつづけたものだ。
なかには「改革」に加担しているという意識はないのかもしれないが、何気なく使っているようなものもある。
逆に、この現実があるから、これほどまでの格差社会が形づくられてきたといえる。
たとえば、目次からひろって列記すると、
- お前の代わりはいくらでもいるんだよ
- 君はこの仕事向いてないんじゃない?
- 空気読めよ
- 派遣は責任とらなくていいからいいよな
というふうになる。
しかし、格差社会は容赦はしない。われわれ社会人だけのものではない。すでに小中学生のなかにもそれは貫かれている。
- こんなこともわからないの?
- ○○ちゃんはできるのに…
- あんたにはすごくお金をかけているんだからね
- いじめられる側にも問題がある
私たちの周りに氾濫する言葉たち。言葉の力は大きいのである。列記した言葉は、ときには鋭利な凶器にも変わりうる力をもつ。
言葉の力が大きいのならば、異議を申し立てよう。ソノ一言オカシクナイデスカ? という具合に。そうして小森は、これらの言葉に対置すべき言葉を語っている。
他者の存在を認めるのならば、一読に値する。
われわれは、あらゆる制度やルールを外されて、自己責任ですべてをやることはできない。
言葉を操る生きものとしての人間は、まず自らが使用する言葉のシステムに内在する、制度やルールにしたがって自分を社会化し、他者との社会的なかかわりの中で生きていく |
のだから。(「世相を拾う」08040)
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