森羅万象、政治・経済・思想を一寸観察 by これお・ぷてら
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養老孟司氏のいちばん大事なこと
著者養老孟司氏はいまや、売れっ子だといえる。どこの本屋にも著作が並んでいる。
本書はサブタイトルにあるように解剖学者の養老氏の環境論である。
タイトルは『いちばん大事なこと』。つまり、いちばん大事なことは環境だということであろう。氏はそれを「環境問題こそが最大の政治問題だ」という。著者の言葉を借りれば「35億年という途方もない年月を経て作り上げられてきた環境を、人間が急激に変えていることも事実」なのだから、しかも人間の予想をはるかに超える規模なのだから、これは紛れもなく政治問題といえる。その養老先生は、つぎのようにいっている。
人はいったん握った権力をふつうは放さないものなのである。そうした権力闘争は、人間社会のいたるところで行われているであろう。それが狭い意味の政治である。その意味の政治は、私は大嫌いなのである。それもあって、重要なのは環境だと、ここで繰り返しているのである。環境はモノの話であり、だれに「権利があるか」という、人間のあいだの話ではない。
こういい切っている。だが、まてよ。政治は権力闘争であって、環境のありようは、これまでも、これからも政治と大きくかかわっている。まさに養老氏自身がいうように、途方もない年月を経てきた環境を、たちまちのうちに変化させてきた背景には人間の政治という営みがあった。体制のいかんにかかわらず環境を変化させてきたのは事実だ。ならば、政治が嫌いであっても環境が大事だと思うのであれば政治のありように関心を寄せざるをえないのではなかろうか。
たとえば、京都議定書にまつわる問題を著者はとりあげている(64ページ)。養老氏は、議定書からの米国の離脱に関してたしかにブッシュの思惑にもふれ、アメリカ議会の対応にもふれたが、結論は、「ネズミは鈴をつけるといったのだが、ネコはいやだといったのである。二酸化炭素の排出抑制が環境問題ではなく、政治問題であることがよくわかる例だ」というところに落ち着いてしまう。
このように、著者の主張には乱暴なところがあるように私は率直に思う。とにもかくにも環境と「政治」とは別物だといいたいらしい。「環境問題こそが最大の政治問題」と著者はいうのだが、これからどうすればよいかの回答は珍奇である。参勤交代、つまり都会の人が田舎にいくシステムを考えるというわけだ。「私が提唱する現代の参勤交代には、何の政治的意図もない」。まさに、これは養老流の環境観、「小さな環境」観ではなかろうか。私はあえて、長い年月を経た環境を一気に変えてきた歴史なのだから、ある意味では地球規模の、人間的な世論形成が不可欠だと考えている。大きく構えないといけないだろう。この意味で政治的なのである。
本書は、分かりやすく、面白く、をたぶんねらっているのだろう。だが、分かりやすく、面白くだけではどんな害悪を人びとにもたらすのかも本書は示しているように思う。
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養老孟司『いちばん大事なこと』(集英社新書)
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それだけに、どこがまずいのか、科学的根拠にどこが欠けているのかを読者が見抜かないといけないし、大事だということですね。