laisser faire,laisser passer

人生は壮大なヒマつぶし。
楽しく気楽につぶして生きてます。

BAD WORSE WORST WORSTEST(失笑) 

2010-01-15 | kabuki a Tokio

ときどき、聞かれます。

「なんで海老蔵の舞台見に行くの?どうせ文句たらたらいうってわかってるのに」

だよねぇ。

「本当は好きなんじゃないの?」

なんて聞かれたことすら。

さすがにそれはないけれど、たぶん歌舞伎好きとしては成田屋の御曹司がいつまでもアレじゃ困るよって気持ちはあると思う。顔も声も、好き嫌いを超えていいものを持っている役者だから、いつか突然大化けしてくれるんじゃないかという期待もある。いや、あった、というべきか。

 

まずは順番に感想を。

 

対面

 

様式美と役者の華を楽しむだけの舞台なのに。

とにかく、舞台に満ち満ちていてほしい正月気分、めでたい感じが皆無なのが致命的。
個人的に段治郎がいないとはいえ、肩入れしたい、おもだかチーム主体の舞台なんだけど、これはいただけなかった。
笑三郎の大磯の虎は行儀がよくておとなしいだけ。春猿の化粧坂少将に至っては終始退屈そうにしか見えない。猿弥の小林朝比奈もひととおり。
後列並びでいちばん目立っていたのが成田屋弟子の新十郎というのも、おもだか贔屓にとってはこんちくしょう、である。

なんでああ、海老蔵公演になると借りてきた猫状態になっちまうのかね。

で、主役は海老蔵、ではなくて獅童の五郎。対するに十郎は笑也。笑也は彼なりによくやっていたと思う。十郎のやわらかさはなかったけれど、さすがに女形だけあって、優雅さはあったし。彼の白塗りは嫌いじゃない。
問題は獅童。なんじゃありゃ。

所作がことごとく現代劇。荒事の張る発声はことごとく怒鳴り声。
荒事は稚気で、っていうのを荒事は幼稚に、と誤解してないか?
妙にクレヨンしんちゃんしてる部分も多々。
荒事の稚気とはなにか。今月歌舞伎座車引の吉右衛門梅王丸を見て少しは勉強してもらいたい。

lavie的に最大級の罵声を浴びせたくなった。

つまり

「海老蔵より下手」!」

海老蔵=WORSTという基準があるわけで(あるんです!)WORST以下ってことですね。WORSTESTの称号を贈ってしまおう。

 

こんななかけなげに座頭を努めていた右近。お供の猿三郎・弘太郎を含めて三人のみががんばっていたかな。

右近に祐経の大きさが出せるとは実に意外だった。終始落ち着いていて、五郎十郎がアレだったせいか、本当に堂々と、父性さえ感じさせるいい祐経だった。

だけど周りがあの雰囲気じゃなあ。気の毒。

 

 

黒塚

 

ずーーーーっと前に猿之助で見たことがあって。

そのときの印象。

「ススキの原っぱをばあさんがうろうろしてるだけの退屈な芝居」

 

そのときのあたしに教えてあげたい。

 

「もう少し注意深く見てごらんよ。すげー面白いから!」

 

たしかにススキ原をうろうろしてる舞踊なんだけれど、右近の熱演もあって、そこに鬼女になってしまった女の悲しみや、絶望、ひょっとして救われるのではないかと思う希望の光、など本当に女の心持が切々と描かれていて。

あのうろうろが本当に面白かった。三階からオペラグラスでずっと目で追ってしまった。うろうろだけでも一階かぶりつきで肉眼で見たかった・・・

冷静に判断してあの部分の心理表現が、右近よりはおそらく猿之助のほうが優れていたのであろうから、初心者時代のあたしはすっごく面白いものを見逃していたことになるぞ。痛恨。

しかし、普通なら印象に残るはずのひとつ家の場面や後ジテの派手な立ち回りなど忘れていて「原っぱでうろうろ」だけ覚えていた自分も変わり者というか、ある意味見所あるぞ、とも思ったり。はい、自分で自分をほめたいタイプです。

後ジテはもうすごい。たぶんここは猿之助よりすごかったんじゃなかろうか。何せきっちり所作ができている上に若くて身体能力があるので、ジャンプも回転も半端じゃない。スピード感もあって。

鬼になってしまった女の悲しみが後シテから感じられなかったのが唯一の欠点だけど、あれだけ隈取して、女の悲しみを顔の表情以外で出せって、40そこそこの役者には無理な注文だろうし。

今の市川右近としては最高の水準、つまり今見られる黒塚としては最高のものを見せてもらったと思います。

おもだかの家の芸らしいけれど勘三郎とかでも見てみたいと思った。

ここでは猿弥も大活躍。滑稽味大爆発でしかも踊りも見せてくれた。
門之助が持ち味爆発の高僧役。お供の猿三郎弘太郎(前幕に引き続きコンビだ!)もよかった。

もうひとつ、特筆すべきなのが囃子。

特に三味線は最近の歌舞伎囃子のなかではぬきんでた技量だったような。筋書きを買っていないのでどなたの演奏かわからないのだが、三味線と長唄に、ここまで感動したのも久しぶり。小鼓に傳左衛門がいたりして、囃子からも猿翁十種復活に力が入っているのがよくわかる舞台だった。

 

安い三階席だったので、まあこの一幕に満足しただけでもよしとすべきなのだろうけれど。

 

 

鏡獅子

 

 

WORSTEST(ないから)よりもっとBADがあるとは人生ってわからないものですね。
MOST WORSTってか。(ないってば)

 

さっきの「海老蔵より下手」の最大級の罵倒をご本家の海老蔵にもいわなくちゃ。まさに海老蔵より下手な海老蔵、でした。

どうしてこいつは見るたびにだめになるんだよおおおおおおおお。

 

局に引っ張り出される弥生を見た瞬間

だめだこりゃ

と思いました。

 

めちゃめちゃ大また、体は棒立ち。
華奢になったから背を盗む必要ないとでも思ってるのか。
どう見ても両側のつぼね(歌江右之助)を蹴散らしそうな勇ましさ。

踊り始めてもその印象は変わらず、どころか悪化。

弥生の踊りのキモは二枚扇をいかに落とさずに操るか、とでも思ってるんでしょうかね、この人は。
歌舞伎見始めて一年程度の素人ならともかく、まさか、と思いますが。腰のばねを十分に使って(失笑)曲芸のような扇使い。なんだか全体に水芸でもやりそうな雰囲気でした。

とにかく、足の運びが雑というか、浮いてるというか。重心が上下にゆれまくりというか。まさか仁木の引っ込みを弥生でお稽古してます?(もちろんすげー皮肉です。今月仁木は宙乗りで引っ込むんだよね?)

手先は大雑把、袱紗の扱いは乱暴。もう目を覆いたくなる惨状です。

獅子頭を持ってからはもう見るのをやめました。獅子頭をならす派手な音でだいたい所作は想像できましたから。

 

引っ込んでほっとしたところで胡蝶は子役ちゃん二人。ほっそり系とぽっちゃり系。ぽっちゃり系は男の子?
ふたりとも御曹司系よりはきっちり踊れていて、まあなんつか、ここで気を静めるしかないって感じ。

 

後ジテはさすがにダイナミックで前ジテほどいらつくことはなかったですけど。

 

毛振りの回数が多いほうがいい、という変な概念を客に(役者にも?)植えつけちゃったのは中村屋だよねぇ。三人連獅子で100回振るなんてのを当たり前にしちゃったからなあ・・・

ここでも海老蔵くんは勘違いしてる。中村屋親子(少なくとも2人/3人)は、100回振ってもきっちり重心が安定していて最後まできれいに振れているんだよ。だからこそ100回の価値があるわけで。

 

海老蔵、ちゃんと振れていたのは最初の20回くらい。後半半分以上は体が斜めになって足はずれまくり、もう上半身の力で振り回してるのが見え見えな見苦しい振り方で。

あんな形で60回(くらいだった?)やるなら、きっちり30回のほうがどれだけ潔いか。

 

まあどんなんでも回数多いのを喜ぶ客が多いからなあ。

勘三郎、あんたっていろいろ罪な役者だよ。

 

ってことで、結論としては

海老蔵くんも「家の芸」を大切にしたいなら、「やらない勇気」を持ってほしい、と心から思いました。

やればやるほど「家の芸」を侮辱してることになると思うよ。

どうしてもやりたいなら後ジテだけの特別ヴァージョンで頼みます。

あんた、永久に女形の舞踊は無理だよ。きっと。