昼の部は河庄につきます!
とりあえず順番に。
毛抜
團十郎のおおらかな弾正とはまったく違った、探偵のような三津五郎弾正。
ハンチングかぶって虫眼鏡を持たせたほうが似合ったような。
ある意味新鮮だったけれど、やはりインプリント効果なのか、歌舞伎の毛抜は團十郎のおおらかな猥雑感のほうが似合う気がした。
巳之助萬太郎団蔵秀調とくればなんとなく座組が薄いようでもあるが、若菜と巻絹を割ってまで吉弥と魁春を出すところはあまってる感じもしたり、妙な座組だった。
魁春、こことだんまりのみのあまりに小さな役。なんだかもったいないよ・・・
座頭のカラーなのか、全体に淡彩色の印象。
豊松緑に教わったということで、あちこちちょっとずつ成田屋型と違って面白かった。
この型の継承者は三津五郎じゃなくて、やはり現松緑だと思うので、しっかり学んで近々見せてもらいたい。
蜘蛛拍子舞
前シテがあんなに長く感じたのは初めて。
頼光の菊之助の生彩のなさはどうしたことだろう。松緑の綱は悪くないのだが、ペアの片割れがあそこまでつまらないとどうしても・・・
玉三郎の踊りはもともとあまり好きではないし(個人的に四角い部屋を丸く掃く・・・って感じで。好きな人はそこがいいんだろうけれど)、どこを見ればいいんだろうと思っていたら、イケメン発見。
一瞬だれだかわからなかったけれど右近だった。所作がきれいなのは相変わらずだが、ずいぶんすっきりきれいになったなあ。
隣のちびっこは萬太郎、いやあ今月昼の部大活躍(このときはまだ知らなかったが三演目連続出演だったのね)。なんというかとても素直で、いかにも教わったとおりにきっちりやってる感じで、おばちゃん、好きです。
てことで脇の二人をながめて退屈しのぎをするしかなかった前シテ。
間つなぎの蜘蛛の立ち回り。こういう演出は初めてだった。
これが、すばらしい。
ただの飛んだりはねたりではなくて、蜘蛛役者(三津之助だと聞いた)がちゃんと芝居ができているから、迫力もリアリティもあって。
この一幕の最大殊勲者は蜘蛛役者だと思った。
で、後シテ。
まあ糸撒いて足踏み鳴らして見得して・・・だから退屈はしないけれど。
ここでも菊之助に一切迫力がない。あれじゃ蜘蛛にやられちまうだろうよ。
ってわけで(そういうわけじゃない)助っ人押し戻しにまたしても三津五郎。
三津五郎は今月、成田屋月間なのか。
押し戻しもやはり成田屋のほうが好きだけれど、まあきっちり型がきれいなので安心してみていられた。
蜘蛛の立ち回りがなければ正直がっかりの一幕ではありましたなあ。
河庄
三回目くらいなのだけれど、いつも途中で撃沈してしまっていた。
今回初めて意識を失わずに見たら・・・・
いやあ、すばらしい!
冒頭の小春と丁稚の掛け合い(丁稚にまたしても萬太郎。ご苦労様)の部分で小春の心理がきっちり理解できたのがまず勝因かな。
最初に見た小春は雀右衛門だったのだが、風情はまことにすばらしいものの、残念なことに当時から若干せりふが聞き取りにくくて、初心者だったあたしにはいまいち小春がどういう立場なのか(なんせ勉強ゼロで見に行くだめな客なので)理解できなかったのだと思う。
今回時蔵の小春の芝居(見事)から、実際に登場はしない治兵衛の妻おさんの姿まで容易に想像できて、芝居に奥行きと深みが増したと思う。
それは、孫右衛門の段四郎の芝居の手柄でもある。上方芝居に段四郎ってどうなの?と思ったけれど、実のある、ただただ弟を思う実直な男の像がくっきり浮かび上がって、見事な芝居だった。後半に見たのも、段四郎の唯一の?欠点であるせりふが入りにくいことをクリアしていてよかったのかも。
滑稽仇っぽい役で亀鶴。
がんばっていたけれど、この座組ではいかんせん力不足。でも歌舞伎座でこの役をやれてよかったね、亀鶴くん。ひい祖父さんの当たり狂言だもんね。
で、なんといっても藤十郎。
こんだけくだらない、こんだけだめな役を、ある意味魅力的に見せられるのはすごいとしか言いようがない。
近松の男は本当にだめ男ばかりなのだが、その中でもこの治兵衛はだめんずぶりから言ってもナンバー1ではなかろうか。
女房を泣かせ、借金つくりまくり、周りの人の心配をよそに色狂い、相手の女郎の真実の心にも気づかずに嫉妬に狂ったり、特にこの河庄の段ではいいところゼロなのである。正直小春がこいつのどこがよくて、こんな尽くすのか、あんた正気に戻りなさい、と説教したくなるほどなのである。
だけどね・・・
藤十郎という役者の芝居を見ていると、なんだかそんなことはどうでもよくなってしまう。
世話物といえば決定的に世話物なのだけれど、この芝居は、ストーリー云々ではなくて、藤十郎という役者の「色」だけをめでればいいのだ、という気になってきてしまうのだ。
こういう見方はきっと「正しく」はないのだと思う。
世話物なのだからストーリーを芝居として楽しむのが「正しい芝居の見方」なのだと思う。
まあ、そんなことは素人客としてはどうでもいいわけで。
もう、ひたすらに藤十郎のじゃらじゃらとじゅるじゅるを目を皿のようにして(正確にはオペラグラスを駆使して)楽しませてもらいました。
しかし、この芝居、藤十郎ができなくなったら、誰もやれないだろうなあ。
同じ上方狂言でも油地獄や曽根崎心中は松嶋屋系や、藤十郎の息子たちが受け継げる気がするけれど、治兵衛は・・・
翫雀じゃ魅力なさすぎ、愛之助じゃ地味すぎ、ひょっとして亀鶴が化ければ?という気がしないではないが少なくとも数十年後のことだろうし。
うーん。そういうことを考えれば考えるほど、今の「藤十郎の治兵衛」をたっぷり愛でたいという気持ちにさせられてしまうのだった。
音羽嶽だんまり
松緑息子大河のけっこういい面構えがみられたのと、
超ひさしぶり?に田之助さんの女形(大好き!)が見られたのが
大収穫だったけれど、あまりにあっという間で、あれれれれという感じ。
藤十郎と田之助だけもう一度見に行きたいけれど・・・
久々の幕見でもしてみようかな。