勘九郎襲名中村座楽、昼夜行って来ました。
怒涛のごとく通いまくった先月とは一転、なんだか力が抜けたまま楽を迎えた襲名二ヶ月目。
まあ一言で言ってしまえば「あたしの好きな勘ちゃん」じゃなかったってところなんですが。いや、そう思ってたんですが、と一部訂正しなくちゃ、の楽でした。
結局昼は1.8回(暫途中から)、夜は2.8回(元禄花見踊一回パス)、と先月の半分程度の鑑賞だったけど、まあいっか。
暫
途中から見たので、多くは語りませんが、えびぞーくんのアパッチの雄たけびのような引っ込みは、とりあえず近くの席ではひゃっとことぉ・・・ふんこしゃー・・・、と聞こえました。つまり、やっとこ→ひゃっとこうんとこ→ふんこになってるので、くっつけると遠くからはひゃっほーと聞こえたんじゃないかな、と分析。
見得の前にのどをぐるぐる~~~~と鳴らしてたのにも笑った。この人、本当に高麗屋の家の芸、「咽頭で鳩を飼う」を身に着けつつあるのかも。
実は花横の席だったので楽だし、壊しまくられるかとおびえてたのですが、割とおとなしかった。
あとは、丸っこくなったものの美少年お小姓最後の時代に突入中の梅丸くんを堪能して、おしまい。
しかし、ばかばかしい芝居だけど、中村座には舞台装置がよく似合うなあ、と。
一條大蔵
初日に見て、勘九郎の大蔵卿がまだまだよのぅ・・・とちょいがっかり。その後追加しないまま楽を迎えたのだが。(途中試演会があまりによかったので、もう一度見たくなったけど、都合も合わなかった)楽は、本当にすばらしかった。特にわざとらしかった前半の作り阿呆が、なんともチャーミングでかつ品を失っていない、勘九郎独自の阿呆ぶりで。ああこの人はあたしが見守っていなくてもちゃんと着実に進化し続けていたのだなあ、とうれしいようなさびしいような気持ちでごく当然のことを確認したのだった。そして進化後の姿を見ちゃうと、進化途中も見届けたかった、というファン心理。後悔先に立たず。いや、でも初日がイマイチだったせいで、お財布の紐を緩めずにすんだのは、神のご配慮なのかもしれない、などと。
勘九郎だけでなく、共演者すべてが初日より充実していた。仁左衛門と夫婦の七之助もちゃんと夫婦の情愛が出せるようになっていたし、もっと年の差カップルの小山三と亀蔵ですらちゃんと夫婦に見えたし。小山三はただ年取って舞台に出てるだけ、みたいなときもあるが鳴瀬は本当に身体にはいっている役で、きっちり勘解由への妻としての心もあり、その上でお主への義理で死を選ぶ葛藤みたいなものまでちゃんと背中で表していて、いや、実は今回本当に凄い役者だな、と改めて実感。茶屋女みたいのが巧いだけじゃないんだね、この人。
そして何より感心したのが常盤御前の扇雀。この人の丸本物でここまで感心することがあろうとはおもっても見なかった。試演会の嶋之丞もすばらしかったが、まったくタイプの違う、タカビー(死語?)、上から目線な常盤。鬼次郎お京のことなどなんとも思ってない、わが道をいく感じの奥方様。強い、だけどもろい、みたいな感じ。本当に素敵な、そして新しい常盤だったと思う。
というわけで本当に全員すんばらしい一幕でした。これ、見納めなんて惜しすぎる。
とはいうものの、もともとそんなに好きな狂言ではないので、すぐに再演とかは望みませんがw
舞鶴雪月花
ここでも七之助がいい。なんというかようやく「見せることを覚え始めた」感じ。特にこういう綺麗綺麗な踊りでは、ただ綺麗なだけのグラビアアイドル的、いや、それ以下の「無自覚の美」って感じだったのがようやく自分の美に覚醒したというか、どうやって美しく見せるかの工夫をはじめた、という感じ。
後でも書くが、五郎蔵の逢州も含めて今月とてもいい。勘太郎(当時)が父親の襲名で覚醒したように、七之助も兄の襲名でようやく遅い覚醒が始まっているのかも。まあこの人の場合いい月とダメな月のばらつきが烈しいのでまだ期待半分不安半分というところですが。
松嶋屋爺孫のは、まあ、はい、仲良しでよかったですね。
文句なしの圧巻は勘三郎の雪だるま。だが初日のほうがよかったかなあ、個人的には。滑稽味と哀愁のバランスが微妙だと思うのだが、初日はちゃんと哀愁が漂っていたラストも、なんだか中途半端に沸きかえった客席が、溶けてゆく雪だるまの振りをみても笑っているのが・・・ああ・・・中村屋の嫌な部分まで勘三郎の回復とともに戻ってきちゃったのかなあ、といういやーな予感が。
頼むからへんな部分まで回復しないでくださいな。勘三郎さん。
吃又
巷では大絶賛らしきニザ勘コンビですが。
この狂言に関してはあたしは、最後まで好きじゃなかった。特に仁左衛門の又平。
やっぱり甘えている、というか、はしばしに「バカ」に見えてしまう。ドモリを大げさに作りすぎてバカに見えてしまう又平ってのも見たことがあるが、仁左衛門は別にそこまで大げさにやっているわけでもないのに、存在そのものがバカっぽいんだよなあ。たれ目で愛嬌のある甘いマスクってのがことごとく裏目にでてるような気がする。むしろ二枚目を作るときのようにきりっとした顔に仕上げてやってくれたらまだよかったのかも。個人的に又平は悩める芸術家であってほしいんだよぅ。
勘三郎のおとくが母親に見えてしまうほどの甘えっこぶり、すぐいちゃいちゃするバカっプルぶりがどうしてもなじめないままだったなあ・・
幕外の引っ込みも、客は大うけだったけど、バカっプルがますますバカに見えて、ちっとも好きじゃなかった。
もう何回も同じことかいてるような気がするが、このおとくは、孤高の吉右衛門又平に尽くさせてやりたかったなあ。
土佐将藍宅の女中が嶋之丞で、数日前にあれだけおっとり気品高い常盤を演じていた人とは思えなかった。って当たり前なんだけど改めて芸達者な役者さんだったんだなあ、と。
口上
すんません、あたし本当に役者のしゃべりに興味ないw
七之助の口上で(襲名が終わっちゃうのがさびしくてしょうがないとかなんとかかんとか)、前列の中村屋ご贔屓ご一行様がたが号泣していたのを冷たく眺めていましたwww
そういえば中村屋ご贔屓ご一行様方は吃又でも号泣してらして、さぞかしハンカチがぬれたことでございましょう。
なんだか涙の量コンクールでもやってるの?と思ってしまったのはきっとあたしの根性がねじくれているからなのでしょう。てか涙腺緩んでないか?大丈夫?
あと仁左衛門がご贔屓様がたにオカサレマシテハ、って口走ってなんか変だとは気づいたけどどこが変かわからなくてしどろもどろになってたのも面白かった。
やっぱりいぢわるwww
御所五郎蔵
勘九郎がかっこよければいいほど、何もこの狂言じゃなくても、と思ってしまう。
役者がかっこよく見えること以外に何が面白いの?誰にも感情移入できないじゃん?と思っちゃうんだよなあこの狂言。で、かっこよく見える役者は何も勘九郎じゃなくても他にたくさんいるわけで・・・
そしてあたしの好きな勘ちゃんのかっこよさはこういう類のかっこよさじゃないわけで・・・ぶつぶつぶつぶつ。
逢州との殺し場はそれでも綺麗でかっこよくて、堪能しました。ここでも見せることを覚えた七之助とのカラミが本当に素敵。今まで七之助と絡むときは、兄の脚をひっぱらないでーーーと常に心配していたのが、今回(楽)初めて、ああ、この女形に引っ張られて勘九郎がより素敵に見えてるかも、と思っちゃった。いやあ。今後このまま兄を引っ張れる立女形に化けてもらいたいものです。
扇雀の皐月も哀れで綺麗でとてもよく、今月この二人の女形がいちばんよかったんじゃないかなあ、と。
元禄花見踊
相変わらず巧い子と下手な子はそのままなんだけど、不器用ながらだんだん舞台なれしてきてる橋之助の長男が楽は目に付いた。三男はとても色っぽく「何か」を持ってる役者だと思うし、次男もそろそろでてこないかなあ。三人寄れば文殊の知恵、三本の矢。となることを祈ってます。たぶん芝翫じいちゃんも。
芝翫じいちゃんがいちばん心配してるだろうあそこのあの子は、本当にマイペースで。あれだけダントツに下手だったら、あたしだったら恥ずかしくてとてもでられないんだけど、なんだかすげー堂々としててw。ある意味尊敬してしまいます。えびぞ^-くんと同じように「あんたは天才だ」とマインドコントロールされてるんだろうかw個人的には絶対嫌いになれない父子なので、ひそかに(あくまでひそかに)応援するぞ。
虎ちゃんは気づいたら口元が従兄にそっくりに。ここらへんはまだ本当に海のものとも山のものとも・・・ですね。
逆に出来上がりすぎてて心配なのが鶴松。
ひよこの行列が、いつの日か見事なスワンレイクに昇華するのを楽しみにしてます。って、鳥の種類変わっちゃってるけどw