恵比寿、写真美術館ホールでシネマ文楽(っていうのか?)『冥途の飛脚』見てきました。お江戸で観劇っぽい活動をするのはなんと今月初めて。
不安材料はなくなるどころか増えるばかりですが、とりあえず平常心を装ってみるw
すごく楽しみにしていた杉本文楽が休演になっちゃったので、その埋め合わせって感じでもあります。
冥途の飛脚というのが、封印切や新口村のもともとのオリジナルだと知ってはいたのだけれど、ここまでストーリーが(特に封印切までの部分)違うのかとまずはびっくり。
歌舞伎の封印切だと、これでもかこれでもかと八右衛門にたきつけられ、男の誇りと梅川への愛がずたずたになって、ぎりぎりのところで封印を切っちゃう・・・って感じで、まあだめ男なりに、忠兵衛にも同情すべき点はあるように描かれているのだが、冥途・・・での忠兵衛、これ、だめでしょう。
そもそも前段の淡路町の段でも、友人(八右衛門)をごまかして商売の金を梅川の身請け金に横流し、それを義理の母親にばれそうになって、八右衛門の優しさで救ってもらうというていたらく。そのあげくに、急な仕事で300両という大金を懐にいれたとたんに、行こか戻ろかした末に梅川に会いに行っちゃうってんだから救いようがない。
封印切の場面では言ったこっちゃないってか、そんな大金持ってるせいで、ほんの少し八右衛門に意見されただけで(それも至極筋の通った意見)、「金もっとるわい!」とばかりに勝手に封印きっちゃうし。切れてるのは封印じゃなくてあんたの頭だよ、といいたくなる。
これ、やっぱい文楽でも歌舞伎から逆輸入ヴァージョンの封印切のほうを多く上演するようになったの、わかるわ。
いくら文楽の男にだめだめが多いといっても、これは論外でしょ。
もう、見ていてイライライライラ。
忠兵衛さえいなければ梅川だって死なずにすんだし、意外と八右衛門に身請けされて幸せだったかもしれないのに。
忠兵衛さえいなければ、年老いた孫右衛門だって、あんな悲しい思いをしないですんだかもしれないのに。
そうそう新口村は割りと見慣れたパターンでしたが、これも原作だともっと衣装は小汚いし、雪じゃなくて雨だったりして、最後に忠兵衛は捕まっちゃうんだってね。新口村に関しては文楽でも原作どおりはほとんど上演されなくなってるとか。
これもわかるわあ。あんな酷い忠兵衛のせいで、泥まみれになって逃げ回る梅川なんて見たくないもんね。
えっと、筋はそんなわけで、珍しい面白さを除けば絶対歌舞伎版、というか現行の恋飛脚大和往来のほうがずっと出来がいいと思ったのですが、そんなものは実はどーでもいい、というくらいにすばらしい演者陣でありました。
淡路町の段を演じた現綱大夫の若さ、封印切の越路大夫の美声、新口村の現住大夫の芝居心。三人の義太夫語りが本当に絶品。なかでも初めて動いてるところを見た越路大夫は、特にくどくど語りこむjわけでもなく、本当に素直に語ってるだけなのに、こちらの心にまっすぐ入り込んでくる声質で、ああ、やっぱり名人といわれるだけはあるなあ、と感動した。そして、越路さんに抜擢されて合い三味線をやっていた若き日の清治さんの天才っぷりにも惚れ惚れ。三味線の世界で天才だと思うのは今のところ清治と梅吉だなあ。好みはあるだろうけど。
越路大夫のあとで聞くと、住大夫がよくインタビューなどで「私は悪声ですさかい」というのがああこういうことか、とうなずけた。決して声に恵まれていた人ではないのだな、と。だからこその彼一流の芝居心、なんとも言えぬ間が生まれたのだ、とも。
人形遣いではなんといっても玉男。もう超おじいさんになってからの彼しか知らなかったのだけれど、壮年?初老?の玉男の色っぽいこと!いやはや人形だけじゃなくて、人形遣いもやっぱり顔が命、かもね、なんて思ってしまった。
そして品がある。ダメダメ忠兵衛を演じていても芯が通っている。
梅川の蓑助はいい意味で今と同じ。あの色気は天性のものなのね。
八右衛門と孫右衛門をともに使った勘十郎、やっぱり息子と同じ悪人面だけど、息子が悪徳政治家っぽいのに比べて、やくざの親分的雰囲気。ふとしたときの表情がそっくりなのはなんだか懐かしかった。息子を知っていて親父をみて懐かしいって言うのもへんな話だがw
個人的にごひいきさんの玉也さんもちらっと映ってうれしかったけれど、玉也さんは今のほうがずっと素敵!!!
…と、いろんな意味で勉強心もミーハー心も刺激され、とりあえず東京暮らしのリハビリスタートとして楽しめました。
しかし1979年ですか!
なんかそんな昔に感じないけれど、30年以上経っているのですね。主遣いの2/3、三味線の2/3、義太夫の1/3はもういないのだから。
ところでこちら、正確にはカナダ人製作の外国映画なのだがタイトルが「THE LOVERS’ EXILE」
うーむ。そう訳すか。やっぱり冥途の飛脚って、いいタイトルだなあ。
興味のあるかたはこちらをどうぞ。4/1には監督のアフタートークもあるみたいです。
画像は忠兵衛を遣う玉男。ね、いい男でしょ?
タイトルは勉強心ゼロ、ミーハー心100になっちゃいましたw