久々の三階後方、しかも体調不良での観劇なので、ちょっと辛めかもしれません。
猩々
数年前、カンタと七のきびきびした踊りで見たのとはだいぶ印象がちがう。
梅玉は本当に基本がきちんと出来ている(なんて失礼だが)踊りだな、という印象。比べたら気の毒なのだろうが、染五郎はやはり腰高、不安定。
どちらも白塗りはよく似合う典雅な外見なのだが、三階からオペラグラスなしでみていると、梅玉が、木目込み人形が動き出したのか?と思わせるのに、染五郎はオートマタのからくり人形を見ているよう。同じ振りをすると、圧倒的にぎこちないのが分かる。
こんな染五郎が、夜の部の連獅子では巧く見えるんだよなあ。あれ、相手誰だっけ?
閑話休題
梅玉、いいな。なんか最近頓にいいよ。
と基本的に梅玉を見つめて、得意の梅玉妄想(なぜか妄想をそそられるのよねこの人。詳細はこちら)にふけりながら、たまに後見の梅之くんを見たり、松江さんはいつでもなんか固いよなあ、生締めものとかやらせてあげたらいいんじゃないかな、とか例によってボーっと考えているうちにめでたい踊りは終わったのでした。
一條大蔵譚
特筆すべきは、福助。
実はとても心配していた。
揚巻よりもっと。
だって、常盤って品と風格と情と高潔さと、そしてなによりかなりの義太夫風味を必要とする大役。かといって主役ではないから、目立ちすぎてはいけない。
個人的には三姫より難しいんじゃないか(とくに福助にとっては)と思っていたのだもの。
結果オーライというか、いやはやすばらしい出来だった。
やれば出来るじゃんあんた!
品と情は文句なし。でしゃばらないけどちゃんと存在感もあったし、嘆きのクドキも、綺麗に糸に乗っていて十分のでき。
風格はまだまだ物足らないけど、これはこの役で場数を踏んでいけば自然とおおきくなってくるでしょう。高潔さは・・・ははは。そこまで求めちゃ悪いか。
あたしの中でこの役のデフォルトは雀右衛門だから、永遠に高潔さは届かないんでしょうね。まああんまり福ちゃんには高潔になってほしくもないし
吉右衛門、悪いはずもないのだが、期待しすぎたか、つくり阿呆の声が高すぎて、なんだか酔っ払いのように聞こえた。ちょっと気持ち悪かった。
見顕し後は大きさといい台詞回しといいさすがだったけれど。
最近プチマイブームの梅玉だが、鬼次郎役に関してはなんだかなあ、だった。
以前ずっとなんだかなあと思っていたころのサラリーマン風段取り芝居で、敵(だと思っている)屋敷に踏み込む緊張感とか、主君を思う熱血ぶりとか、ほとんど感じられなかった。
魁春は、梅玉よりはよかったんだけれど、あたし、この人の台詞回しがどうにも好きになれないんだよなあ。歌右衛門直伝なんだろうけど、歌右衛門とはニンも味も違う人なんだからもう少し普通に、歌い過ぎずに(それも独特の節回し)台詞を言ったほうが似合うと思うんだが。
ほかに良かったのは吉之丞の鳴瀬。一時体調を崩したのかあまりでなくなったけれど最近、播磨屋の芝居にはほとんど一座して、ぴしっと脇を固めてくれている。こういう人がいるといないとで、一座の芝居が大きく変わるから怖い。
段四郎勘解由、手堅い。
勘三郎襲名のときと同じ太刀持ちで芝のぶ。コレがおそろしいほど綺麗だった。夜の並び傾城よりずっと。勘三郎のときも感心したが、太刀が微動だにしない。華奢に見えて筋肉を鍛えているのだなあ。
常盤御前と一條大蔵はそのままで、勘三郎襲名時の鬼次郎仁左衛門、お京玉三郎で見たい(常盤とお京の格からいってありえないけど)なあ。
福助の歌右衛門襲名興行あたりならありえるか。
女五右衛門
三階の雑踏は凄い。お昼ごはんの後のこともあり、長唄が鳴りはじめてもどんどん人が押し入ってくる。そもそもおばちゃまたちは、置きの長唄を落語家の出囃子かなんかと勘違いしているのだろうか。役者が出てくるまでは声をひそめる必要すらないと思っているらしく、大声でしゃべり続ける。
浅葱幕が切って落とされてもあちこちでおしゃべりは続く。
おいおい、雀右衛門が「絶景かな絶景かな」の名台詞を言ってるじゃないか。静かにしてくれないかなあ。
90近いんだから三階まで朗々と響き渡る声を出すなんて無理なこと。耳を澄まして聞き入りたいのに、耳を澄ますと、聞こえてくるのは後方からの弁当の感想話。
ああ、けちらずに一階席を取ればよかった・・・
雀右衛門、初日近辺は台詞が入っていないどころか、プロンプが聞き取れず、えらいことになっていたらしいが、今日は、よどみなく、勢いこそないが表情豊かに女五右衛門を演じていたと思う。たぶん。
後ろのおばちゃんの弁当の卵焼きが辛かったことのほうが確信を持って断言できるが。
吉右衛門が競りあがってきて、見得、あっという間に幕。
「あららもう終わっちゃうの?」
っておばちゃんたち、10分という上演時間知らなかったのか?あなたたちそのうち7分はしゃべってましたもんね・・・実質3分。そらびっくりするわ。
…けちらずに一階席とればよかった×2
雀右衛門、二重の金ぴかが似合うなあ。生涯姫なんだなあ。
無理な望みとはいいながらもう一度雪姫が見て見たい。亀治郎に見せてやりたい。福助にもみせてやりたい。
魚屋宗五郎
前半、意外と面白かった。
幸四郎、顔は怖いし、声は重々しいし、絶対ニンじゃないだろ、と思ってたんだけれど、生活に鬱屈していて、だからこそ酒癖の悪い、ちょっとひねくれた町人って感じで、新しい宗五郎のイメージを見せてくれた。
ただ、やはりインテリに見えちゃうんで、この人がやるときは前進座風に、大詰めの磯部屋敷の場はカットしたほうが芸風に合うと思った。
ラストに殿様に謝られてキゲンを直してへいこらしちゃうのは、菊五郎や勘三郎がやるとさもあらん、とも思えるのだが、幸四郎だと、「そんなことでこの人は納得するはずないだろう。理屈に合わないことは抗議しなきゃいかんだろう」と思っちゃうんだよね。
酔っ払って屋敷に殴りこむところでチョン、なら、かなり高評価をつけられたと思うんですが。
だけど、その屋敷での殿様役の錦之助と家老役の歌六がよかったんだよな。特に錦之助は、本気で反省していて情け深い殿様で、品もよくて、今後この人の当たり役になっていくんじゃないかと思わせる出来。
前後するが、ほかの役者では、おなぎの魁春と近所の娘京紫に惹かれた。
魁春は、前述した節回しが好きになれない時代物より、かえってこういう世話物のほうがいい味をだすように最近思える。
また京紫は今月目覚しく美しい。助六の並び傾城でも芝のぶより目立ってたし、この芝居でも、品よく初々しい娘を好演していたと思う。
染五郎の三吉、なんか全然目立たなかった。宗五郎が酒を飲むのを本気で止める気ないんじゃないのこの人?って感じ。
…磯部屋敷で、宗五郎といっしょにだいぶ寝ちゃいましたので、部分的に記憶が飛んでいることを付け加えさせていただきます。
お祭り
三箇所大事なところで團十郎にからむ左十次郎が個人的に最大の見せ場。助六の肩貸し男はなんだかかっこよくなくて老けたように思ったんだけど、この若い衆は、目覚しくかっこいい。
唯一の不満は、とんぼを返らないこと。昨年の何月だったかに見たとんぼが最後のさとぴーとんぼだったのだろうか。
これで一度でもとんぼ返っていてくれれば再見決定!だったのに。超残念。
雀右衛門の雪姫とさとぴーのとんぼ、どっちも見たいよぉ。見たいよぉ。
どっちかひとつだけならさとぴーのとんぼだけど。
…主役についても少しは書かなければ。
少し痩せたのか、すっきりイナセな鳶頭でした。
踊りについてはどうこういってもしょうがない。
おかめひょっとこの面をつけて踊るところが新鮮でした。
そうそう、お祭り前で帰る客多すぎますよ。
短縮バージョンで15分で終わるんだし。せっかく團十郎がめでたく打ち出してくれるんだから最後まで見ようよ。
…そういうあたしも、左十次郎が出てくることを知らなかった開幕前は
「どうして15分だけの踊りを最後にくっつけるんだよ、しかも團十郎かよ」
と思っていたことをここに懺悔いたします。
余談1舞台写真が出ていました。
福ちゃんの揚巻の世にも美しいプロフィール(冒頭の画像)と、さとぴーとの2ショットの二枚購入しました。福ちゃんの舞台写真を単品で買ったのは初めてです。
お祭りでの團十郎さとぴー2ショットを買おうか買うまいか、激しく悩んでいます。
余談2
体調不良につき、食事抜きでヒマだったので、幕間、久々に三階西ロビーの思い出の歌舞伎役者たちのコーナーを見ました。
ここって、かなりの大幹部じゃないとかからないんだな、ということを改めて確認。まさか源左衛門さんがいるとは思わなかったけど、松助さんも(坂東)吉弥さんも、いわゆる脇の役者は全部カットなのね。
現在のスペースのままだとあと二人しかスペースないし、余計狭き門になってるのかもしれないが。
だって、あの人とあの人あたりは、歌舞伎座建て替え前に来ちゃうかもしれないもんねぇ場所明けとかないと。
…ってな不謹慎なことも考えたのですが、いちばん思ったことは、あたしが好きな役者の大部分は、ここには載らずに、客の心の中にだけ残っていくんだな、ということ。
勘太郎と福助以外は載りそうもないもんなあ。
まあ、あたしゃどっちにしても亀鶴や段治郎より早く死ぬ(はずだ)から関係ないけど。