博多座前楽、楽日見てきました。感想はいずれ。
いずれ、と書いたまま門司下関そして大宰府と遊びほうけ、東京に帰ってきてからもなぜか東京でもふぐ食ったり桃の節句やったり遊びほうけていたら、歌舞伎の感想、すっかり忘れてしまった・・・とりあえず良かったことは確かですw
ので詳細な感想を待ちわびていた方(恐らく皆無w)には申し訳ないのですが、昼夜二度ずつ分まとめて簡単にメモでまとめちゃいます。
特に勘ちゃんが出てない演目については二度目以降ってことですごーく適当に見てたので、ほぼ割愛w
1.身替座禅、初日近辺は不必要なまでに父親に寄せてなぞってきたなあ、という印象だったのですが、楽日はびっくりするほど父親から離れたと思った。おそらく意図的に、最初は教わったとおり、最後は自分らしく、と思ったのだと思う。
父親右京に比べて若いのはもちろん、ずるさが少なく、妻にも花子にもまっすぐ向かい合っている右京。具体的には出てこない花子への愛情がいっぱい感じられたのは父親にはなかった新しい右京の顔。
いわば「浮気じゃなくて本気」って感じね、タチ悪いw
仁左衛門の玉の井は本当に絶品。やりすぎず怖すぎず、でもやっぱり怖いw
この玉の井を得て、勘九郎の右京はまた一回り大きくなった、というか父親のそっくりさんから脱皮できたのだと思う。
七之助の太郎冠者はひたすらに軽い。存在感もない。それでいいのかもしれない、この役は。太郎冠者が主張しすぎると主題が薄まるような気もするのだ。そこを踏まえてあえての存在感のなさなら七之助天晴れ。
2.口上
楽だけに特別なことを言う人が何人か。内容はよく覚えてない。w
七之助が泣いて、めろめろになっていたのと、それを眺めて勘九郎が心配そうにしていたこと、弟に「いてくれてありがとう」と言ってたのが印象的だった。斜めから物を見ることしかしらないlavieのような人間すらちょっとほろっとしたのだから芝居ならたいしたもんだw
中村屋ご贔屓筋の方々が滝のような涙を流していたのはご推察どおり。
3.渡海屋・大物浦
渡海屋の颯爽とした大きいながら軽い感じは最後までちょっと出きらなかったかな。ちょっと重い。
まだまだ必死感が・・・
初役31歳の銀平にそこまで求めるファンのあたしがいけないんですね、はい。
大物浦の知盛はもはや何もいうことはない。良し悪しでいえばいいのか悪いのすらわからない。芝居じゃなくてそこに六道の苦しみにあえぐ知盛、そこから逃れて救われて行く知盛、そして潔く身を投げる知盛がいて、それをどうすることもなくただただ呆然と見守っている客のあたし、という図式。
六段目の勘平を初役で演じたときの勘太郎を見ていた気分にちょっと似てる。
とにかく、「こんな知盛みたことない!」の連続だったわけだが、中でもこれすげーと思ったのが、碇の縄を身体に巻きつける前に槍を海に投げるところ。じーっと槍を見つめ、思い入れの後に海に。この一瞬の小芝居(とあえて言おう)によって、荒れ狂った知盛が、武器を捨て、すべての雑事から解き放たれて仏の世界に向かうことが見事に表現されていたと思う。
綱を巻きつける間も、楽日以外はずーっと荒い息を派手に表現していたのが(うぅとかあぁとか)楽日はなぜか一言もそういう表現がなくて。息をつめて芝居する知盛を、同じく客も息をつめて見守る感じ。まさに息詰まる数分間だった。
ずーーーーーっと息をつめてみていた客席が知盛が碇とともにジャンプした直後に何かから解き放たれたように万雷の拍手を送り、その拍手は知盛の魂を救ってくれた義経と弁慶への感謝の拍手へと続いて、素晴らしい幕切れだった。これ、たまーに義経と弁慶の引っ込み前に帰っちゃう客とかいてとてもしらけるのだけれど、そんな人は誰一人としていなかった。そして梅玉と彌十郎が本当にすばらしい義経弁慶だった。勘九郎含めてこの三人で勧進帳みたいと思ってしまった。
特筆すべきなのが七之助。初日近辺はお柳がいいのに典侍局はまだまだ硬いなあと思っていたのだけれど、十二分に局になりきっていて。子役に向ける愛情のまなざしは、甥を可愛がっている日常から出てくるのかなあ。とにかく七之助も大人になった。丸本物ではいつも兄の足を引っ張っていた印象だったのに、ここに来て見事に相棒として成立しているのに、感謝および感心。それこそ「いてくれてよかった」。
4、その他雑感
吹雪峠はやはり巧い役者がやると面白いという初日の感想に変わりなし。ただ梅玉さん主役の狂言が朝イチのこれかよ、という不満もあり。微妙なところ。
河内山は勘ちゃんでてるのに寝てしまったw勘九郎が舞台にいるのに寝てしまった経験は恐らく過去1-2度あるかないか、なのに。襲名興行なのに。なんかしつこくて長い狂言なのよね、これ。嫌いというわけじゃないけど、客に寝る隙を与えすぎというかw
俊寛はもうこれ、完成された、という領域ですな。仁左衛門も体調いまいちらしくその必死さがカブって見えるのは彼自身にとっては痛し痒しなんだろうけど、俊寛のタイプわけでいえば、まもなく死んでしまいそうな、だからこそ悲劇感の強いドラマチック俊寛だった。
芝翫奴。橋之助好きな人にとってはたまらないのかな?「顔で踊る」役者の踊りの典型のような橋之助の機嫌よさそうな笑顔は、大悲劇の大物浦から現実に戻る箸休めにはちょうどいいのかな?ハシノスケだけにw
個人的にはどよーんとしたまま外にでて歩き回るのも好きなのだけれど、楽は友人と一緒だったので、気分良く打ち上げて、巧い魚と酒を飲めてよかったのかな・・・
全体として本当に「捨てる演目」がほぼなくて、良質な公演だった。これ、東京だったら相当通っただろうなあ。いや、パリに行ってなければたぶんもう一度通ってただろう、福岡でも。
襲名最後がいい興行で本当によかった。「勘太郎改め」が取れて名実ともに勘九郎になった勘ちゃん、楽日の右京のオリジナリティに彼なりの覚悟を見たし、弟くんの成長ぶりにも頼もしさを感じ、たくさんの不安はあるものの、この役者の将来がまた楽しみになった。よかった。