開演5分前。定式幕にチェンジ。
幕間の社交風景。あれ?開幕前だったかも。イタリア人は招待客が多数の印象。上のほうの安い席には一般イタリア人もいたけれど。
イタリア語のプログラム・チラシ・問題のチケット。
画像はまとめてしまいました。これからいろいろグチグチ書きますんで、気分よく終わりたい方はここでお引き上げください。
まずは開幕前の愚痴。
劇場HPからとんだ現地チケットサイトでチケットをゲットしてたわけです。
高い席で見て腹立てるのもばかばかしいので、下から二つ目のランク、まあまあ旅の土産話として許せる範囲の席を予約。イタリア式当日ピックアップで遅刻するのもいやだったので前もってチケットオフィスで発券も済ませ、用意万端。
当日、指定された4階ボックスにいくと、係員が立ちはだかり、「この席はダブルブッキングされていて、移ってください」と。
話を聞いてみたら移動先は一階正面ボックス席。いいじゃんいいじゃん、二つ返事で移りましたよ。
開幕○分前、の写真はそこから撮ったもの。ねぇ、見やすいでしょ。たぶん一番高い席。イタリア式ダブルブッキング(おそらく、急に取材カメラが入ることになって、カメラ席にしちゃたんだと思われます)もこれなら悪くない、とまんざらでもなかったんですが。
開演5分前、どころか、キまで入って幕が引かれる寸前になって、またまた係員登場。この席もまたダブルブッキングで、再度移動しろ、と。
その時点でボックスにいたのは現地駐在員家族三名、イタリア人女性一名、日本人女性(あたし)一名。
今度は三階の袖席に移れ、と。考えてみれば元は四階だったのだからいいっちゃいいんだけど、四階でも正面に近い席から三階でも袖ってのはどうも納得できない。だけどもめてると開幕しちゃうし・・・ってんで、イタリア人女性と当方はとりあえず三階に移り、あたしは東袖方面、彼女は西袖方面に案内される。(西袖方面だったら拒否しようと思ってたけど、まあ東袖だからいいか、と。ここらへん日本人の甘さ?)。
現地駐在員家族は最後まで抵抗していたんだけど、後で見たら一階ではあるが普通売らないような超はじっこのボックスにいた。「一階じゃないとだめ!」ってごねたんだろうね。どっちがよかったかといえば、芝居の見易さでいえば、三階東袖、だったような・・・
しかし、劇場が悪いのか、松竹が悪いのか、現場の係員がだめなのかしらないけれど、チケット買った(安いにしても)客を二度も移動させるって、日本じゃめったにありえないよねぇ・・・
そうそう、完売とか満員とか言われていますが、招待席に空席はぽつぽつありましたし、ボックス席は最前列しかもともと売ってなかった(オペラ座などでは三列目まで売る)らしく、大入り感はなかったですねぇ。
招待客(大統領閣下夫妻)関係者は三つ目の『四の切』のみのご臨席でしたし。
さて、ここから芝居の内容。
ここでバイバイしたほうがいい人はバイバイ。
鳥居前・吉野山
この二つは一言で「退屈」。
個人的に珍しかったのは、たぶんこの二つも猿之助型で演じられているのだろうか、演出や詞章に見慣れない部分が散見されたことくらいで、もちろんイタリア人には何の関係もないことだろう。
鳥居前の忠信は荒事仕立てなので、えびぞーくん的には得意なんだと思うけれど、メン玉むき出して威嚇するのも一度や二度ならガイジンも喜びますが、ああ始終やられたんじゃ飽きますわな。
吉野山は、型が違うせいもあるだろうけれど、忠信の戦物語になんの迫力もなく、あのうるさいまでの存在感が消えうせてなんだかとってもちっちゃなえびちゃんでした。
そして何より残念だったのが静・義経の京屋コンビ。特に芝雀に関してはかなり好きな役者なんだけど、あくまで歌舞伎座で、歌舞伎好きの客に囲まれたときに実力を発揮できるタイプなのかな、と。
外国・歌舞伎初めて客・そして相手役がえびぞーくん、という大アウエイ環境のなかで、彼の兄弟は、なんとも薄く、地味で、本当につまらなく感じてしまいました。
これは四の切についてもいえることで・・・
四の切
いよぉ、気持ち悪いえびぞーくんカムバック!!!
って喜んでどうする。
ここ1.2ヶ月、やや影を潜めていた感のある「調子っぱずれの音痴節」が100パーセント、いやそれ以上にパワーアップしてよみがえってました。
偉い人が誰も見てないんで油断したのか。いや、それもあるだろうけれど、これって結局「猿之助型」の弊害だと思います。
猿之助型が悪い、というのではなくて、猿之助の台詞回しは、えびぞーくんにはまったく無理ってことで。
とにかく、超気持ち悪いはずれっぱなしのせりふの裏に、猿之助の台詞回しが時々見え隠れしてたことは事実なので、えびぞーくん的には教わったことをなんとかなぞろうとはしてたんでしょうね。それが裏目にでた、としか。
狐言葉だけでなく、忠信の素のせりふも、猿之助には独特の癖があって、あれは、よほどの技術の人がやらないと、こっけいに聞こえると思うんだけど、よりによって、えびぞーくんですよ。
悪いことは言わない、もう猿之助型はやめて、素直に音羽屋さんか中村屋さんに習いなさい。それでも狐言葉は気持ち悪いことになるだろうけれど、まだえびぞーくん的初心者(敢えて言ってます)が大失敗する率は低いと思う。
どうしても宙乗りしたいなら最後だけ、オモダカさんと音羽屋さんにおねだりして、宙乗りつきにさせてもらえばいい。えびぞーくんが頼めば、きっと誰もNO!とはいえないよ。
客席の受けとしては、静まり返っていた鳥居前・吉野山よりはこちらのほうが乗っていました。特に狐へのぶっかえり、アクロバティック的な動きなどにはがっつり沸いてましたね。「出があるよ!」はそもそも花道の意味がわかってないのと、日本語がわからないからか、受けが少なかったけど。周りの歌舞伎初めてと思われる日本人はびっくりしてましたけど。
共和国大統領ナポリターノ(本当にこんな名前!)ご夫妻がここのみご観覧になったのは誰の判断か知らないけど正しかったかも。
それにしても、あの台詞回しの気持ち悪さは、日本語話者にしか通じないのかなあ。三味線とのずれとか、テンポの悪さは万国共通で通じると思うんだけど。そのずれも「異国情緒」として受け入れているんだとしたら、「本物のカブーキはこんなに気持ち悪くないぞ!」と一人ひとりに教えて回りたかったです。
えびぞーくん個人にはなんのうらみもないし、むしろ歌舞伎の一人者としてがんばってもらいたいと思っているのですが、こういう歌舞伎まがいのカブーキを、あちこち外国回って見せてる間に、世界的にカブーキとはこんなもの、なんて共通認識ができちゃったらどうしよう、とごく普通の歌舞伎愛好者としては思わず危惧してしまうのであります。
いや、実際に外国だけではなく、日本にすらこういう派手なだけのコケオドシカブーキのほうが面白いっていう層はいるわけで・・・
歌舞伎は時代によって変遷する、というけれど、えびぞー的カブーキがスタンダードになる時代が万一来るとすれば、あたしは確実に歌舞伎を見るのをやめるでしょう。
もうひとつ、これはあまり書きたくないんだけど、正直になりたいので敢えて書きますが、「ごく普通の歌舞伎」代表としての京屋兄弟があまりに魅力がないのです。
何が悪いというのではない、いつもどおりに淡々と義経と静をやっているんだけれど、外国で、エンノスケで、自由自在にやっているえびぞーくんのほうが、確かに気持ち悪さと下手さがあっても、存在感や魅力はあるのよね。困ったもんだ。
あるいは稽古途中、ロンドン公演中あたりで、えびぞーの酷さにさじを投げ、いやいや付き合ってたからやる気がなかったのか、あの二人。それはそれでいかんだろう。
狐言葉の身の上語りのときは、あまりの気持ち悪さに、久々に席を立とうかと思いました。席を立たずに舞台よりの耳をふさいでしのいだのは、アクロバットは見たかったからなんですが。
ラストの宙乗りは舞台機構の都合か、客席には出て行かず、舞台を横切るだけの比較的おとなしいものでしたが、それでも客席は大喜び。
土間席は半分くらいスタンディングしてたかなあ。ボックス席はほとんど座ってましたが。
あ、ナリタヤさんファンらしき着物のおばさんが二列目あたりでやたら拍手扇動してたのも気持ち悪かったです。外人はどこで拍手していいか戸惑ってるじゃないですか。「ほら、ここよ、ここで拍手するのよ!」ってポイントがいきなり役者の出入りだったりして。それ違ってるだろあんた。役者も役者ならファンもファン。
スタオベしていきなり最初に「BRAVO!」って言ったのもそのおばさん。それにつられてイタリア人も言ってましたがね。
イタリア人が、BRAVIではなくてBRAVOっていってたのも、なんだか失礼な話なんだけど。spettacoloがbravoという解釈でまあいっか、と(あくまで文法的に)。
そういえばフランスでもベルリンでも幕間に現地人から話しかけられたんだけど、イタリアでは誰からも話しかけられなかった。幕間は鳥居前・吉野山終わりで一回だけだったんだけど、鳥居山・吉野山の出来じゃ、ニッポン人にお愛想いえないもんねぇ、さすがのイタリア人も。
四の切終わりだったらきっと「面白かったぞぉ」って言ってくる人がいたんだろうな。そしたら「気持ち悪くなかったですか?」って聞けたのに・・・
しかし、えびぞーくんの気持ち悪いせりふには慣れているはずのあたしが、現場でなんであそこまでいやーな気持ちになったかを今になって振り返ると、
結局そんだけ気持ち悪い、へんなパフォーマンスをやってる役者のほうが、まじめにごく当たり前の歌舞伎をやってる役者より、求心力が上だってことが、なんだか不条理なような許せないような、そしてそういう求心力のある役者によって自分の好きな歌舞伎が冒涜されているような気がしたってことなんだと思います。
だって、ただ下手なだけのYとかSとかKとか(お好きにご想像ください)にはそんなに腹が立たないもんねぇ・・・
個人的に、さとぴーが駿河次郎やってたのと(でもやる気はなさそうだった)、京純くんが見られたのだけが救い。
だらだら書きました。
あくまで一歌舞伎ファンの私見ですんで、読み流してくださいませ。