同じキャストによる下町日和を先週見ました。感想はこちら。
けっこう好きだったし、右近さんのベストロールが苫小牧トオルだと思っていたので、いきなり、ガイジン芸術家の役で来られたときにはちょっと面食らいました。
はい、例によってなんの前知識もなく見ています。
そのショックから立ち直るまでちょっと時間がかかりました。正直右近さんの台詞回しは臭すぎて、赤毛物(古すぎ)とは合わない気がして・・・
しかしそれに慣れてしまえば、とても面白い作品でした。
後半は、この台詞回しまで、この芝居の世界観を表わすためには有効かも、とまで好意的に受け取ってましたよ(たぶん意図してない。ただの癖)。
傑作といっても過言ではないんじゃないでしょうか。感心しました。最近のあたしの観劇の中では『コンフィダント』に次ぐレベルといってもいいんじゃ?
なにがよかったって、音楽を含めた構成。
ポーランドの夭折作曲家ヴィエニャフスキー(例によって無知蒙昧なあたしは知らなかったけど、実在するのね)の幻の作品をめぐって、ちょっと暗号ミステリ+ゴシックロマン風なストーリーが展開するのだけれど、幻の作品がフレーズごとにちょっとずつベールを脱いでくる様が、ライブのヴァイオリンで再現されていく。
ライブコンサートとミステリの謎解きとちょっとしたゲーム感覚を一度に味わえる。こんな贅沢なつくりの芝居、めったにない。
ヒロインの女性(春猿)がヴァイオリンを演奏するという設定で、実際はヴァイオリニスト(宮本笑里。これまた,寡聞にして知らなかった)が弾くんだけど、構成がいいからか、二人の役割分担が実に自然で、春猿の分身がちゃんと弾いているように感じられた。
宮本、とても美少女なので、音はあまり期待してなかったんだけど、どうしてどうして、かなりいい演奏家です。これでもう少し筋力というか体力がついて、音に厚みが出てくると、かなりいい線いくんじゃなかろうか。
うちに帰って調べたら宮本文昭の娘なんですね。カエルの子はカエルってことか。
去年の中村中といい、このシリーズの音楽関係はすごくいいところを衝いてるように思う。
壮大なロマンでありながら、暗号を解読するように、段治郎演じる留学生と春猿扮するヴァイオリニストが幻の作品をフレーズごとに探していくあたりのプロセスはまるでRPGのようでもあり、炎のような赤い幕の使い方は、これまたまるでスーパー歌舞伎を彷彿とされるようでもあり、段治郎まで女形の声を操ってみせる(なかなかのセクシーボイスでしたわ)ところは、歌舞伎役者の本領発揮でもあり。
音楽と芝居(それも歌舞伎的なものを多分に含んだ芝居)の融合という意味ではとても面白く実験的で、しかもかなり成功した例だといえると思いました。
今日が楽でなければ、きっと買い足していたでしょう。
正直、先月今月歌舞伎座でやってる作品(いや、磯異人館は大好きですけどね)のどれよりも、PLAYとしての質は上だと思いました。
と、ここまではまじめ路線。
ここからはミーハーコーナー。段ちゃんキライな方は読まないでね。ひひひ。
段ちゃんが超超かっこいいです。黒ずくめのスタイルにブーツだけが赤。これがいろいろな属性を暗示しているわけなんだけど。
黒主体の舞台に炎の赤幕が翻るなかにすっくと立つ段治郎、もう眼福。
朗読劇でも下町日和は、ずっとすわっていたので、彼の最大の魅力(lavie調べ)である立ち姿が見られなかったのですが、ミッシングピースでは何回も立って台詞を言う場面があり、もう、うっとりっす。この人、やっぱ立ってなんぼ、動いてナンボの役者はんやわ(なぜかうっとりすると関西弁になる)。
メフィストとかルシフェルとかいろんな名前であらわされるあの属性を表現するためか、強めのアイメイクをしてたのもポイント高いです。目をちょっと吊り上げるだけで本当にいい男になる。いや、普段のタレ目もかわいいっすけどね。
…というわけで、いい作品でいい男ぶりを見せてもらったのでミーハーファン的には大満足です。
たとえ、段ちゃんが大詰め近くすっごく大事な台詞を致命的に間違っていたとしても。(あれ、間違いだよね、絶対に)←誰に言ってる?
カーテンコールで一度も笑顔を見せなかったのは反省してるから、でしょうか?
まあかなり凄いミスではあったけど、気づいてない人も多かった(と思いたい)。
8/14追記
台詞の間違いについて、やはり具体的に書いたほうがいいと思いますので、ちゃんと書くことにします。
ラスト近く、おそらく自殺を決意した桧森の台詞で(一字一句は覚えてませんが)
「ボクがいたら(いれば?)最後のピースは見つからないんだ」というのがあるんです。その結果、彼は自分の存在を消すことで、周子が曲を完成させるのを邪魔しないことを選ぶのです。
そこの台詞を段ちゃんは「ボクがいなければ」と言っちゃったんです。
言った瞬間ほんの一瞬蒼白になって、(あたしも蒼白だったと思う)どう切り抜けるかと思ったら、結局後の台詞をそのまま言っちゃったので、ストーリー的に繋がらなくなっちゃった。
ちょっとは変でも「ボクがいなければ最後のピースは見つかる」と肯定と否定を入れ替えればよかったのに、と思いましたけど。もちろん後で思ったことでとっさにそれが出来れば本物の名優ですよね。