laisser faire,laisser passer

人生は壮大なヒマつぶし。
楽しく気楽につぶして生きてます。

こいつぁ春から・・・

2010-01-04 | kabuki a Tokio

久々の雀右衛門、初役!桜丸の芝翫、当代一の道成寺ともうじゅるじゅる(藤十郎はいないけど)ものの演目が揃った歌舞伎座夜の部。可能な限り早く、雀右衛門が出てるうちに!ととった日程は三日目。
雀右衛門には会えなかった(初日から休演・・・)けれど、マスコミ関係者の観覧日だったこともあって、三日目というちょっとだれ気味かと思う日の割りに役者さんみなさん大熱演でした。今日あたりから力尽きてないだろうか、特に吉右衛門さんw

 

春の寿

雀右衛門を見るためだけに作られた一幕といっても過言ではない。長唄にも雀の詞章が盛り込まれ、襖絵も雀・・・福助梅玉がヒトサシ踊ったあと、友右衛門と親戚の子供たちに取り囲まれて競りあがってきたのは・・・魁春さんだった。

魁春さんは気の毒だなあ。雀右衛門用の振り付けだから、ずっと座ったままで手をあちこち動かすだけ。体が動く人にとってはかえって難しいと思うし、もっと動きたいだろうし、何より、客席がどうしてもがっかり感に包まれた中でやらなきゃいけないんだから。

がっかりの一人だったあたし、しかたないので、なかなかきれいだった福助と、あとは子供たちをぼんやり見つめていた。見慣れない子供が多かったので、隣の人の筋書きを盗み見たら友右衛門の子供二人(廣太郎廣松)、歌六の子供(米吉)、あと歌昇の次男(種之助)、隼人・・・あれ、もう一人だれだっけ?六人いたんだけど?シンゴだったか?

正直、踊りも容姿もこれは?というのはいなかったような。近すぎたので全体が見えにくかったせいかもしれません。再見のときはもう少し引きで見るので、そのときは踊りの手がよく見えると思いますが。

とりあえず超ラッキーな人は雀右衛門を拝めるかも?という新春運試しだと思ってればいいのではないでしょうか。

 

車引

 

いやあもう・・・すごいとしかいいようがないっす。

 

何がすごいって、あんなに力の入った吉右衛門を生まれて初めて見た。
うまいのに下手。下手つーか一生懸命でまっすぐで素朴。あれだけの名優がすべての技術をいったん忘れたかのように、必死になって足を踏ん張り鼻を鳴らし、声を張り上げる。このさまに圧倒されました。荒事は子供の心で、ってこういうことなんだ!って確認。

しかしその圧倒的迫力をしのいだのがなんと八十歳の初役!!!芝翫の桜丸。

そりゃ、ところどころせりふはつかえる、動きはとろい、舞台行儀が悪い、などいっぱい欠点はあるんだけれど、何しろ所作ひとつひとつを見ているだけで本当にこれぞザ・歌舞伎なのだもの。

これまた吉右衛門とは一味違った感じであの大役者が「必死」なのよ。必死なんだけど「自由」なのよ。自由にやってるんだけど「ザ・歌舞伎」になってるのよ。

あたし興奮しすぎですか?

これでも、その場の興奮に比べればずいぶん冷静になったと思います。

梅・桜が花道を引っ込んで、また出てくる場面、ででででっかい吉右衛門のあとをちょこちょこ必死で走ってついていくちっちゃいちっちゃい芝翫丈(座ってると立派なんだけどね)を見ていたら知らず知らずに熱いものが・・・

今年の初泣きは袖萩のはずだったのにそこで泣けずに、まさかの車引でじいちゃんに泣かされるとは。人生とは先の見えない階段のようなものだ(おおげさすぎ)。

 

梅・桜に釘付けだったのですが松王の幸四郎も決して悪くない。時々手を抜くこともあるけれどさすがにこの座組ではね。梅とのにらみ合いも、いろいろな裏話など思い浮かべられてちゃんとにんまりしながら見られたし。

そして、時平に回った富十郎。足さえ丈夫ならこの人の梅王で芝翫初役桜丸が見たかったという気もしないではないが、まあしょうがない。
うっすら青隈を引いただけで、藍隈は一切なし。それでも十二分に時平の怪しさ、大きさが出ていたのはさすが。ただ、声量は衰えたねぇ・・・さびしい。

杉王が錦之助という贅沢な配役。錦ちゃんは偉いねえ。なんかどんな役でもきっちりこなす。不器用だけどきっと新歌舞伎座では花開くんじゃないかな、こういう地味な努力が。

 

とにかく、一月にして早くも今年のベストが決まっちゃったんじゃないかというほどの久々の大感動。

すごいです。

お暇とお金がおありのかたは、ぜひとも歌舞伎座夜の部へ。お金がないかたは車引の幕見だけでも。

本当にすごいです。たぶん二度と見られません。

 

 

道成寺

 

車引のど迫力に圧倒されて、ご飯ものどを通らず、弁当のおかずを日本酒で流し込んでるうちに始まりました。

そんなゆるゆるした気分は勘三郎花子の出と同時にぴーんと張り詰めた緊張感に変わり・・・

客をこんだけ集中させてどうするの!と怒りたくなるほどの気の入り方でした。

玉三郎を代表とする女形の道成寺があらら、きれいね~~~とうっとり眺めるタイプの踊りだとすれば、勘三郎の道成寺はその対極というか。

いや、そこそこきれいなんだけど、きれいとかなんとかうっとりしている暇がないのですよ。そこには常に恋する娘がいたり、恨み骨髄のアヤシのものがいたり・・・

襲名のときの花子もすごかったけれど、あのときはまだ「勘三郎が踊ってる」「上手だろ、ほら、俺を見ろ」みたいな感じがあった。素直に感動できないくさい部分が・・・

昨夜の花子は、もう全身ただ花子。
長唄の詞章とかほとんど勉強してないあたしですが、花子の表情を見てれば、その踊りの気分が手に取るようにわかる。正直、引き抜きとかのご趣向が邪魔!と思ったくらい。
たとえば山尽くしでの海老ぞりなんてあっという間に終わっちゃうくらいのけれんみのなさ。これがあの勘三郎?と思うくらい。なのになんの不満も感じないの。

踊りのすごさは今後おそらく少しずつ衰えていくんだろうし、内面描写はますます研ぎ澄まされていくんだろう。
見た目のすごさ(時分の華)と内面の充実(本ものの華)が共存している奇跡の瞬間に今、勘三郎はいるのではないだろうか。
またまた興奮しすぎ?

いや、マジそう思うんですよ。

踊っている花子の顔が時々森光子(全盛期の)に似てると思った。勘三郎のことを以前は藤山寛美に似てると思ったこともある。優れた舞台人の表情はどこか似てきてしまうものなのだろうか。

 

あまりに花子の踊りが濃密ですごかったので、正直今回に限り押し戻しは蛇足に思えました。

團十郎の元気な声にはもちろん安心したし、塔尽くしの隊長(ちがう)でサトピーこと左十次郎も見られたので、普段だったらもっと喜んだんだけど、とにかく花子の余韻で楽しむどころじゃなかったというのが本音。

そして、鬼女に変身してからの勘三郎本人もそんな感じ。へとへとで鬼としての迫力はほとんど感じられなかったなあ。

鐘入りで完結してため息ついていたかった・・・

 

とにかく濃い濃い濃い濃い二つを連続して見せられて、疲労は頂点。いや、こんなに心地よい疲労感ならどんだけでも味わいたいのですが。

 

周りで二組ここで帰っていく客が。そのうち一人のおばさまは「なんか疲れちゃって・・・」と。その気持ちわかる!!!

あたしも帰ろうかと思ったんだけど、福ちゃんの気持ち悪い(予想)お富を見届けねば!という責任感?で居残り。

 

切られ与三

 

いや、これが結論からいえば結構よかったのよ。

見染の場はいまいちだった。予想通りへらへら笑いのお富がちょっと気持ち悪い年上の性悪女で、あほぼんの与三郎をたらしこもうとしてる・・・風に見えてしまい。
しかーし。である。

ここでもまた若いやくざの役でさとぴー登場!!!

これが超超超超超∞かっこいい!このまま与三郎やってくれ!と思った人が客席に少なくとも3人は(少ない!)いたと思う。
着流し姿日本一はさとぴーで決定ね。(小姓姿日本一の梅丸に続く独断)。

てことでさとぴーを追いつつ、いまいちだった見染の場を乗り切ったあとは意外なまでに出来がよかった源氏店。

藤八の錦吾(まじめな感じが新鮮でよかった)、女中の芝喜松など脇も手堅くて、何より福助がいい。

しどけない湯上りのさまが気持ち悪いかと思ってたら(こればっかり!)そんなこともなく、藤八をあしらうさまのアンニュイさといい、蝙蝠安への啖呵の切り方といい、修羅場を潜り抜けてただ生きてるだけ、の女の半生が垣間見えて、なんというか久々に「いよっ、ナリコマヤ!」でしたね。
再会のシーンの「そういうおまいは・・・」のせりふは、テレビでしか見たことないけれど、歌右衛門を彷彿とさせてくれたし。

染五郎は軒先での立ち姿がまことに美しくさまになっている。今の花形で仁左衛門のあとの与三郎役者になれるのはこの人しかいないと思っているので、とにかく形の美しさに感心した。
例によって声がやられちゃってるので、せりふはいまいちなんだけど、与三郎は形の美しさがいちばん。その点だけでも高評価。
個人的にはサトピーとか段治郎で見たいけどねぇ・・・(お富は笑さぶさんでお願いします)。

蝙蝠安の弥十郎は、人がよすぎて、暗さがまったくないのが残念だけどまあ一通り。
多左衛門の歌六、こういう役やるとかっこいいよなあ。本当にこの人が出てれば安心!という役者の一人だ。

 

圧巻の車引・道成寺の後でどうかと思ったけれどそこそこ楽しめて、いい感じの消化剤になってくれたかな、という追い出し狂言でした。

 

とにかくはずれがひとつもない夜の部。これで一つ目狂言に雀右衛門まで出ちゃった日には贅沢すぎます!!!

とはいえ、動く雀右衛門さんをもう一度目に焼き付けたいので、後半はぜひ、ラッキーチャンスをものにしたいものです。

 

あと一度しかチケットを取ってませんが、できればもう一度くらいは見たいと猛烈に思い始めています。