気が付いたら新橋をふらふらしていた。
給料日の烏森は多くのサラリーマンでごった返していた。今日も本当に暑かった。残暑の名残がまだコンクリート越しに残っている。
いかがわしいネオンを超え、烏森を南へと歩く。ひたすら南へ。5分もあれば辿り着く烏森の南端だが、ボクはここまで来るのに約4年もかかった。その烏森の最終ラインの数m手前に酒屋がある。以前、ここを通った際に見かけたのだが、ここはどうやら角打ちなのだ。店内におんぼろのテーブルが置かれ、酒を酌み交わす人の影が数人。
新橋唯一の角打ち。
店に辿り着き、おそるおそる中を覗くと、やはり2人の男が立ちながら酒を飲んでいる。
やけに入りにくい入店にしばし躊躇していると、店内から店員と思しき人が出てきた。ボクは「ビールを飲ませてもらってもいいですか」と聞いた。すると、店員は「え?」と不意を突かれたような表情と声を表した。仕方なくもう一度同じことを言うと店員は「ウチは顔見知りの人しかいれないの」と素っ気なく言い、そそくさと配達に出かけていった。
21歳のとき、行徳バイパスにある裏ビデオ専門のレンタルビデオ屋に入り、散々何を借りるか考え抜いた2本のビデオテープを持って、怪しげな婆さんのいるレジへそれを出した瞬間、「貸せないよ」と素っ気なく言われ、なおそこに立ち尽くしていると、再び婆のしわがれた声で「貸せないよ」とダメを押されたあの日のことを思い出した。
仕方なく、会員制角打ちを離れ、南へ十数m。そこは烏森の最終ライン。
ようやくここまで来たかと思った。インド亜大陸最南端、カニャークマリの岬に立ったときと同じ感慨が溢れてきた。
さて、どこに行こうか。この最終ラインだけでも3つの立ち飲み屋が存在する。いわゆる烏森のフラット3。そこで少し歩いてみると、「城喜元」という店に行き着いた。最終ラインの真ん中、つまりセンターバックである。
格調高い外観。引き戸を開けると僅か5、6坪の小さな店が超満員である。なんとか、店に入れてもらった。早速、生ビールを頼む。サッポロ黒ラベルの生。この甲斐甲斐しくも手馴れた手つきでビールサーバーを操る女性は、この眼前のまっちゃんの奥様なのだろうか。
そのまっちゃんは、ご常連客とお話しをしながら、丁寧な仕事に没頭する。その客あしらいの手馴れたこと。
聞くところによると、このまっちゃんは、新橋の立ち飲み界を席巻する「魚金」の人気スタッフだったとか。やはりさすがだ。
「城喜元」も魚中心の酒肴を取り揃えた。
例えば、「まぐろ」「タコぶつ」「いわし」に「あじ」「真ダイ」。
単品で400円。2品盛りが650円、3品盛りでは780円という設定だ。
試しに「今日は何がいいの?」とまっちゃんに聞くと「真ダイがお奨め」と返ってきた。早速、それを注文すると、やはり日本酒が恋しくなる。酒が同店の看板なのだろう。11銘柄を取り揃えている。その中から、恐らく店名の由来となったであろう「上喜元」の「元」(400円)を頼んだ。
魚も酒も最高だった。ボクのような素人でも魚の違いは一目瞭然だった。キトキトの魚の歯ごたえの余韻もつかの間、酒をツイーと流せば、その旨みがお互いに溶けて、口の中いっぱいに広がっていく。
三浦半島沖での釣果をつぶさに報告し合うまっちゃんと常連さん。その釣果もこの店の食材になっているのだろう。
串焼き全盛の時代に魚料理の立ち飲みは貴重だ。「魚金」は少し砕けているが、ここはカジュアルな割烹の様相すら漂わせる。新橋の立ち飲み屋が成熟し、進化を遂げてきた証だ。
今、新橋で最も勢いのある立ち飲み屋が、烏森の最終ラインに控えている。
給料日の烏森は多くのサラリーマンでごった返していた。今日も本当に暑かった。残暑の名残がまだコンクリート越しに残っている。
いかがわしいネオンを超え、烏森を南へと歩く。ひたすら南へ。5分もあれば辿り着く烏森の南端だが、ボクはここまで来るのに約4年もかかった。その烏森の最終ラインの数m手前に酒屋がある。以前、ここを通った際に見かけたのだが、ここはどうやら角打ちなのだ。店内におんぼろのテーブルが置かれ、酒を酌み交わす人の影が数人。
新橋唯一の角打ち。
店に辿り着き、おそるおそる中を覗くと、やはり2人の男が立ちながら酒を飲んでいる。
やけに入りにくい入店にしばし躊躇していると、店内から店員と思しき人が出てきた。ボクは「ビールを飲ませてもらってもいいですか」と聞いた。すると、店員は「え?」と不意を突かれたような表情と声を表した。仕方なくもう一度同じことを言うと店員は「ウチは顔見知りの人しかいれないの」と素っ気なく言い、そそくさと配達に出かけていった。
21歳のとき、行徳バイパスにある裏ビデオ専門のレンタルビデオ屋に入り、散々何を借りるか考え抜いた2本のビデオテープを持って、怪しげな婆さんのいるレジへそれを出した瞬間、「貸せないよ」と素っ気なく言われ、なおそこに立ち尽くしていると、再び婆のしわがれた声で「貸せないよ」とダメを押されたあの日のことを思い出した。
仕方なく、会員制角打ちを離れ、南へ十数m。そこは烏森の最終ライン。
ようやくここまで来たかと思った。インド亜大陸最南端、カニャークマリの岬に立ったときと同じ感慨が溢れてきた。
さて、どこに行こうか。この最終ラインだけでも3つの立ち飲み屋が存在する。いわゆる烏森のフラット3。そこで少し歩いてみると、「城喜元」という店に行き着いた。最終ラインの真ん中、つまりセンターバックである。
格調高い外観。引き戸を開けると僅か5、6坪の小さな店が超満員である。なんとか、店に入れてもらった。早速、生ビールを頼む。サッポロ黒ラベルの生。この甲斐甲斐しくも手馴れた手つきでビールサーバーを操る女性は、この眼前のまっちゃんの奥様なのだろうか。
そのまっちゃんは、ご常連客とお話しをしながら、丁寧な仕事に没頭する。その客あしらいの手馴れたこと。
聞くところによると、このまっちゃんは、新橋の立ち飲み界を席巻する「魚金」の人気スタッフだったとか。やはりさすがだ。
「城喜元」も魚中心の酒肴を取り揃えた。
例えば、「まぐろ」「タコぶつ」「いわし」に「あじ」「真ダイ」。
単品で400円。2品盛りが650円、3品盛りでは780円という設定だ。
試しに「今日は何がいいの?」とまっちゃんに聞くと「真ダイがお奨め」と返ってきた。早速、それを注文すると、やはり日本酒が恋しくなる。酒が同店の看板なのだろう。11銘柄を取り揃えている。その中から、恐らく店名の由来となったであろう「上喜元」の「元」(400円)を頼んだ。
魚も酒も最高だった。ボクのような素人でも魚の違いは一目瞭然だった。キトキトの魚の歯ごたえの余韻もつかの間、酒をツイーと流せば、その旨みがお互いに溶けて、口の中いっぱいに広がっていく。
三浦半島沖での釣果をつぶさに報告し合うまっちゃんと常連さん。その釣果もこの店の食材になっているのだろう。
串焼き全盛の時代に魚料理の立ち飲みは貴重だ。「魚金」は少し砕けているが、ここはカジュアルな割烹の様相すら漂わせる。新橋の立ち飲み屋が成熟し、進化を遂げてきた証だ。
今、新橋で最も勢いのある立ち飲み屋が、烏森の最終ラインに控えている。
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