8回2死。代打で登場した広島の嶋重宣が0-2からのストレートを狙いすましたかのように強振。打球は美しい角度で横浜の夜空に舞い上がる。
その瞬間、1点リードで、この回の頭からリリーフした横浜の加藤武治が両手をあげて打球の行方を追う。
オーバーフェンスしてしまうと、ここまで丁寧な投球で広島打線を抑えてきた横浜先発の吉見祐治の白星を台無しにしてしまう。
だが無情にも、嶋の放物線を描いた打球は右翼席の最前列に飛び込んだのだった。
2-2の同点。試合は振り出しに戻ると同時に加藤は真っ青な顔でマウンドに立ち尽くす。
あと1死をとれば、今日の彼の仕事は終わりだった。日本球界最速のスピードボールを投じるクルーンに繋ぐ残り僅か1死がとれなかった。
加藤にとっては痛恨の1球だ。
だが、加藤以上に痛い1球となってしまった人がいる。
嶋のアーチが夜空に舞う只中、右翼席の最前列を中堅からポールの方向に向かって席に戻る人物だ。
スタンド裏手にある売店で食べ物を買って席へ急ぐおばちゃんである。片手にはポークフランクか何か。スチロールのプレートに食物を載せている。
嶋の打球が舞い上がると1塁側にいた多くの横浜ファンからどよめきが起きた。もちろん、右翼席も悲鳴に近い喚声が起きたことだろう。
その喚声が、おばちゃんを我に返らせたか、或いはその近くの誰かが、なにかおばちゃんに危険を知らせたか、おばちゃんは歩みをとめ、本能的にグラウンドの方角へ顔を向けるのである。だが、その瞬間、おばちゃんの顔面右側(恐らく頬骨のあたりだ)に嶋の打球が直撃する。少し、ぐらりとバランスを失いかけたが、おばちゃんはこらえた。
それだけでもすごい。
恐らく打球の速度は150kmとか、或いはそれ以上か、とにかくものすごい速さで中空を舞っているのである。ホームランボールの破壊力たるやきっと、計り知れないものがあるに違いない。
ちなみに今春、映画が公開された、「博士の愛した数式」(小川洋子原作 新潮文庫)には打球の衝撃力を博士は以下の通り計算している。
「硬式球の重さは141.7g・・・地上15mの距離から落下する場合・・・12.1kgの鉄球を・・・衝撃は83.39倍になり・・・」
と、実はどのくらいすごい衝撃なのかは定かではないが、とにかくすごそうなことは伝わってくる。
とにかく、そんな鉄球にも似た物体が顔面を直撃したのだから、たまったものではない。
それにも関わらず、体勢をすこし崩しただけで、手に持つフランクを離さなかったのだ。常人ならば、フランクはボール直撃の余波で中空を飛ばせていた可能性が高い。讀賣の原監督が現役時代、怒りの本塁打(神宮球場にて)を放った際、バットを後ろに放り投げた、あの伝説の姿のように、フランクを右翼席中段くらいまで方っていてもおかしくないのではないだろうか。
それによって、多くの観客に甚大な被害をもたらしたことだろう。
フランクのトマトケチャップは上空に飛び散り、観客の洋服をはじめとしたあらゆるものに付着させたはずだ。また、横浜ファンの大切なレプリカユニフォーム、あわよくば復刻して、この日発売になったオールドユニフォームにケチャップとマスタードの雨を降らせたかもしれない。
そして、肝心のフランクは誰かの顔面に当たり、取り返しのつかない事態に陥ったかもしれないのだ。
だが、そんな状況もとりあえずは回避された。
おばちゃんは、ホームランボールが直撃した瞬間、一瞬何が起きたか分からない顔つきをした。無理もない。球場に行って本塁打が自分の近くに飛ぶなんてことはホントに滅多にないからだ。ちなみに筆者はもうプロ野球を50試合以上見てきたが、一度もホームランボールを触ったことがない。
だが、おばちゃんは、その後間髪入れずにすぐさま体勢を整える動きをしていた。よくみると「ラッキーパンチくらいで」とでも言いたげな顔で1歩たたらを踏んだ程度だった。
本当のクライマックスは実はここから訪れるのである。
我々の想像をはるかに超えた光景が次の瞬間、眼に飛び込んできたのだ。
なんと、おばちゃんは自分の顔面に当って跳ね返ったホームランボールを取りに走ったのである。
あろうことか、自らの痛みも省みず、数メートル先に転がった嶋重宣のホームランボールを野性的な身のこなしで追いかけている。だが、周辺にいた幾人かの人物も、その白球に群がる。本来なら、おばちゃんにボールの優先権があってもいい。なにしろ、身を挺してボールの行くべき方向を変えたのだから。しかも、痛みとの代償として。
だが、おばちゃんには、そんな体力は残っていないようだった。
ボールに群がる人波の3番手ではもう勝ち目は残っていなかった。
ボールは中学生くらいの少年がゲット。おばちゃんは馬群に沈んだ。
しかし、その手にはポークフランクが微動だにせず、しっかりとスチロールプレートに乗っていた。
その瞬間、1点リードで、この回の頭からリリーフした横浜の加藤武治が両手をあげて打球の行方を追う。
オーバーフェンスしてしまうと、ここまで丁寧な投球で広島打線を抑えてきた横浜先発の吉見祐治の白星を台無しにしてしまう。
だが無情にも、嶋の放物線を描いた打球は右翼席の最前列に飛び込んだのだった。
2-2の同点。試合は振り出しに戻ると同時に加藤は真っ青な顔でマウンドに立ち尽くす。
あと1死をとれば、今日の彼の仕事は終わりだった。日本球界最速のスピードボールを投じるクルーンに繋ぐ残り僅か1死がとれなかった。
加藤にとっては痛恨の1球だ。
だが、加藤以上に痛い1球となってしまった人がいる。
嶋のアーチが夜空に舞う只中、右翼席の最前列を中堅からポールの方向に向かって席に戻る人物だ。
スタンド裏手にある売店で食べ物を買って席へ急ぐおばちゃんである。片手にはポークフランクか何か。スチロールのプレートに食物を載せている。
嶋の打球が舞い上がると1塁側にいた多くの横浜ファンからどよめきが起きた。もちろん、右翼席も悲鳴に近い喚声が起きたことだろう。
その喚声が、おばちゃんを我に返らせたか、或いはその近くの誰かが、なにかおばちゃんに危険を知らせたか、おばちゃんは歩みをとめ、本能的にグラウンドの方角へ顔を向けるのである。だが、その瞬間、おばちゃんの顔面右側(恐らく頬骨のあたりだ)に嶋の打球が直撃する。少し、ぐらりとバランスを失いかけたが、おばちゃんはこらえた。
それだけでもすごい。
恐らく打球の速度は150kmとか、或いはそれ以上か、とにかくものすごい速さで中空を舞っているのである。ホームランボールの破壊力たるやきっと、計り知れないものがあるに違いない。
ちなみに今春、映画が公開された、「博士の愛した数式」(小川洋子原作 新潮文庫)には打球の衝撃力を博士は以下の通り計算している。
「硬式球の重さは141.7g・・・地上15mの距離から落下する場合・・・12.1kgの鉄球を・・・衝撃は83.39倍になり・・・」
と、実はどのくらいすごい衝撃なのかは定かではないが、とにかくすごそうなことは伝わってくる。
とにかく、そんな鉄球にも似た物体が顔面を直撃したのだから、たまったものではない。
それにも関わらず、体勢をすこし崩しただけで、手に持つフランクを離さなかったのだ。常人ならば、フランクはボール直撃の余波で中空を飛ばせていた可能性が高い。讀賣の原監督が現役時代、怒りの本塁打(神宮球場にて)を放った際、バットを後ろに放り投げた、あの伝説の姿のように、フランクを右翼席中段くらいまで方っていてもおかしくないのではないだろうか。
それによって、多くの観客に甚大な被害をもたらしたことだろう。
フランクのトマトケチャップは上空に飛び散り、観客の洋服をはじめとしたあらゆるものに付着させたはずだ。また、横浜ファンの大切なレプリカユニフォーム、あわよくば復刻して、この日発売になったオールドユニフォームにケチャップとマスタードの雨を降らせたかもしれない。
そして、肝心のフランクは誰かの顔面に当たり、取り返しのつかない事態に陥ったかもしれないのだ。
だが、そんな状況もとりあえずは回避された。
おばちゃんは、ホームランボールが直撃した瞬間、一瞬何が起きたか分からない顔つきをした。無理もない。球場に行って本塁打が自分の近くに飛ぶなんてことはホントに滅多にないからだ。ちなみに筆者はもうプロ野球を50試合以上見てきたが、一度もホームランボールを触ったことがない。
だが、おばちゃんは、その後間髪入れずにすぐさま体勢を整える動きをしていた。よくみると「ラッキーパンチくらいで」とでも言いたげな顔で1歩たたらを踏んだ程度だった。
本当のクライマックスは実はここから訪れるのである。
我々の想像をはるかに超えた光景が次の瞬間、眼に飛び込んできたのだ。
なんと、おばちゃんは自分の顔面に当って跳ね返ったホームランボールを取りに走ったのである。
あろうことか、自らの痛みも省みず、数メートル先に転がった嶋重宣のホームランボールを野性的な身のこなしで追いかけている。だが、周辺にいた幾人かの人物も、その白球に群がる。本来なら、おばちゃんにボールの優先権があってもいい。なにしろ、身を挺してボールの行くべき方向を変えたのだから。しかも、痛みとの代償として。
だが、おばちゃんには、そんな体力は残っていないようだった。
ボールに群がる人波の3番手ではもう勝ち目は残っていなかった。
ボールは中学生くらいの少年がゲット。おばちゃんは馬群に沈んだ。
しかし、その手にはポークフランクが微動だにせず、しっかりとスチロールプレートに乗っていた。
しかし、おばちゃんという生き物は強いね。
俺ならとりあえず谷岡ヤスジの漫画張りに「鼻血ブー!」になり、その鼻血を誰かに浴びせかけてトラブルを誘発していると思う。
ただ、笑いのネタとしては、
誰かの注意を即す声に反応したおばちゃんは、自分の方に向かってくる打球にしっかりと目を凝らした。
そして、素早くおもむろに白い発泡プレートをコンクリートの床に置くと、そこからフランクフルトの木の部分を両手でつまんで構え、ケチャップとからしを白球に塗りこめるように、フランクフルトの全てを飛び散らかしながらも見事ボールをグラウンドに打ち返したのだった!
って言うのが最高だと思うが、それは大木こだまひびきじゃないけど、「そんな奴は、おらんやろ~!チッチキチー。」だな。
なお、おばちゃんが酷い怪我をしなかったことを祈る。
しかし、打球直撃で踏みとどまるあたり、北斗の拳にでてくるハート様のように、打球の衝撃をたるんだ頬の肉で吸収するような必殺拳(必殺拳じゃないな・・・。)でも、会得していたんだろうか?なんにしてもおばちゃん恐るべしである。
ノンフィクションはこれで精一杯。関西の笑いのペーストは関東人はできないね。
怪鳥!ファールボールに当たる人はよく見るけれど、ホームランはねぇ。相当、この人痛かったと思うよ。多分腫れたな。
怪鳥!今週か来週どうです?
PS 打球に当たったご当人。或いは近くにおられた方のコメント求む!
で、今週は全部埋まり、来週なら火・金以外OKです。よろしく~。
来週は、ちと分からないナ。
ちなみに来週、ウチの妻と子が帰ってきます。
それまでに1献やりたいね。
或いは、「活動停止」っていうのもいいね。
「音楽性の違いから」ではなくて「酒の嗜好性の違い」で解散とか。
まぁ、全く飲みに行かないわけではないので、月一キープでよろしく。
て、いうことは、この「居酒屋放浪記」も月一連載になるのか?
それが問題だ。