帝国ホテルに向かう途中、何気なしに有楽町のガード下を覗いた。
「食安商店」。
日の基酒場の隣り、自販機だらけの一角である。
一瞬、自販機の影に人がモノを売っている光景が見えた。
目の錯覚かと思って、思わず足を止め、少し戻って確かめてみた。
すると、それは目の錯覚ではなく、確かにモノを売っている人がいたのである。
「何を売っているのだろう」。
そう思って、例の一角に近づいてみると、その売り場はちょっとしたスナックを販売していた。
「これって、もしかすると角打ちだったのか」。
わたしはかつて、この一角を自販機のある休憩所だと思っていた。
だが、そうではなかった。
酒は販売機で販売し、おつまみをお店で提供するお店だったのだ。
早速、その一角に立ち入り、自販機でキリンラガーを購入する。
もちろん、小売価格。350mlで240円だ。
ビールを買って、スナックに進む。壁をくり抜いただけの販売コーナー。所狭しとつまみが並ぶ。
その様はまるでキオスクだ。
6P入りのチーズが、ひとつ60円で売られている。
わたしは、それを購入して、ビールのプルタブを開けた。
グビッと一口飲んで、チーズをかじる。
うまい。
果たして、この店を立ち飲み屋と呼んでいいのだろうか。
よく、コンビニの前でたむろするおっさんらがいる。酒とつまみを買って、店舗の外で立ち飲む。
このコンビニは立ち飲みではない。何故ならば、店側が立ち飲みを想定する設備をお客に与えていないからである。つまり、お客が勝手に立ち飲んでいるのだ。
これを頼りに立ち飲みを検証すると、「食安商店」は明らかに立ち飲みだ。
ひとつは、一応店内で酒を飲む。もうひとつは店内には白いテーブルが設備されている。それが立ち飲みである動かぬ理由といえる。
テーブルはあるが、椅子はない。したがって、お客は必然的に立ち飲みとなるわけだ。
お客はかなり多い。10坪に満たないスペースに10人以上はいる。その多くはホワイトカラーだが、半分は素性の知れぬ怪しいおっさんだ。
夜のとばりが早くも下りつつ、しかしながら人の流れは絶えない。
北側にはビックカメラ。線路を挟んだ東側は再開発され、イトシアが賑やかさを見せるものの、この一角だけは戦後から時計が止まったままのようだ。
こぎれいなOLたちは、心なしかこの一角を避けるように通り過ぎる。
ステンレスの長テーブルと土間。コンクリートはもはや真っ黒になり、膨大な時間が過ぎていったことは容易に想像がつく。
わたしは、ワンカップを買って、「柿の種」を購入した。
ワンカップは「沢の鶴」(230円)。
たった300円の酒宴。
ここでくつろいだ者しか分からない贅沢な時間である。
時として東京も、こういうディープな店が現れる時があるんだよなあ。しかし、この立ち飲み屋は凄い。ディープというより、シュールな感じすらするよ。
そして、こんな店に入って立ち飲み、くつろげてしまう師・・・。天性の酒飲みなんだなと、俺は思うんだよ。
そうしてこうも思う。「師よ、飲み過ぎんなよ。」と・・・。
いや、お店の形態をなしていないとも思う。
扉はなく、オープンエアだ。
夜間は扉が閉まるのだろうか。
たしかに、画像を撮ったと記憶しているんだけど、見当たらない。
ぜひ、店の外観も見て、その雰囲気だけでも味わってほしかった。
飲み過ぎの忠告、ありがとう。
自重するように心がけてるよ。