これだよこれ。そう、これ。
長年、といってもこの3か月くらいに盛り上がったのだが、とにかくずっと求めてきた本物のインドカレー。
それをまさか京都で食べようとは思ってもいなかった。
クルタにぼうぼうの髪と髭を伸ばした、まさにどこぞのグルではないかと思う風貌の男の写真を眺めながら、チャパティにカレーをつけて食べた瞬間、ボクはバラナシにトリップした。
そう、この男が、くだんのカレーをこしらえた。
残念ながら写真はない。食べるのに夢中で、ついつい撮影し忘れた。
とりあえず、師のブログ記事を参照して、イメージを膨らませていただきたい。
インド人が書いたというレシピを基に作ったカレーは、カレーであってカレーでない。色こそは深い黄土色をしており、ジャガイモ、チキンが入っている様はまさしくカレーなのだが、それはあえていうならば、煮汁である。野菜と豆とスパイスの煮汁である。これがインドにはカレーがないという所以である。
だが今は、便宜上これをカレーと呼ぶ。
眼前によそわれたカレーの薫りが強烈にボクの脳味噌を揺さぶる。おっと、これはまさしくインドの町で嗅いだ匂いではないか。
クミンシードが口の中を支配する。支配されているのは我々の口と胃である。
急いで、熱々のチャパティをとって、それにつけて食べた瞬間、ボクはインドのあちこちの町にトリップした。
あの激しくも儚く、人々のドラマの全てが横たわるあの国に。
チャパティ♡。チャパティ!
アタと呼ばれる小麦粉を用いて、こねられ、焼かれたチャパティは若干厚みの点で本場とは異なった。だが、まさしくこれ。これって、ナンよりも断然おいしい。
これだよ。ボクが探し続けていたもの。
何故、日本のインド料理は、本場の味を再現しないのか。やはり、日本人好みにカレーをアレンジしているのだろうか。
ともあれ、眼前のチキンとひよこ豆のカレーを食べると、次に運ばれてきたのが、じゃがいもが入ったベジカレー。
グル、いや師はインドの定食屋がそうであったように、2種類のカレーを出してくれた。そのいずれもまさにインドそのものだった。
ボクらは、インドでは共に旅をしていない。
でも、何故か、ボクらは一緒にいたような気がするのは何故だろう。
ボクらの心には常にお互いがいただからではないだろうか。
そして、ボクらはこの食卓で、改めてインドを共に歩く。
もうひとつの「俺たちの深夜特急」。
食後にチャイが出てきた。
もう、多くの言葉は要らないだろう。砂糖をたっぷりと入れ、あの甘いチャイをすすると、ボクはまた満ち足りた気分になった。
日本のインド料理屋で出てくるチャイもボクは不満だが、師の淹れてくれたチャイはまさに2ルピーで飲めたあのチャイである。インドで1日5杯も6杯も飲んだあのチャイ。
苛烈なインドの気候に合ったあのチャイが、ボクは大好きだった。
いつか、「俺たちの深夜特急」を再開するつもりである。
再開の地はニューデリー。
ボクは師のカレーを食べて、早くその日を創ろうと改めて誓った。
残念ながら、お互いに多くの手紙を受け取ることができなかったけど、運良く受け取れた手紙は、寂しい時なんかに何度も読みなおしたりしたもんだよ。
今思えば、「どんだけ寂しがりやねん!!」って感じだけど・・・。
だからそんな寂しかった時には、「あいつ、今頃どこをどんな風に旅してるんだろう。」とよく思ったもんだ。それ故に、師と離れてからかなり時間が経った後も、一緒に旅行をしているような気になったんじゃないかと思うよ。
しかし、こんなに褒めてもらうと、こっ恥ずかしいな。けど、人に料理を褒めてもらうというのは、気持ちいいもんだなあ。ありがとう師よ。
あと、師が大いに喜んでくれたなら、作ったかいもあったよ。チャパティについてはこないだは、厚さや形状に自分で納得行かないものがあったんで、また修行しとくよ。あとカレーについても、より完成度を上げ、またバリエーションも増やしていこうと思ってるよ。
この記事を読んで、俺もまた師と同じく、アジアを旅行したいとすごく思ったなあ。できれば師と現地集合して、あの時みたいに一緒に旅ができればいいねえ。
旅の記憶は人と自分との関わり、そして食べ物だと思う。だから、人それぞれの記憶にその思いは強く残っているはずだ。
インドは不思議な国だった。
その不思議さを少しでも紐解く要素が料理だった。
だが、その料理を食べても、ボクは一向にインドを理解できなかった。むしろ、その疑問は増え続けたともいえる。
こうして、日本にいてインドのカレーを食べることで、ボクらはインドのカレーについて思いを馳せる。
やれ、精進料理が源流ではないか。やれ、激烈な地だからこそ、スパイスが用いられたとか。
思いはせる過程はまさしく旅そのものだ。
だから、料理が際立つ。
師が作ったカレーとチャパティ、それは経験した旅と思いを馳せながら、作りえた結晶であろう。
だから、おいしいのだ。
この感覚はずっと大事にしたいものだよ、