ちょっと目を離すと、新たな立ち飲み屋さんがオープンしているという新橋。
しかも、その立ち飲みも次から次へと細分化し、新機軸が生まれ、専門店化していく。今や、立ち飲みはなんでもありの状態である。
常々、小欄で言っているのだが、今立ち飲みはコーヒーショップの如く、3rdウエーブを迎えている。
単なる酒を飲む場所ではなく、カルチャー発信の場になりつつある。
新橋の駅前ビルで「庫裏」を見たのは、立ち飲み「喜楽」に向かう途中だった。
扉のない酒場。カウンターだけの立ち飲み。一見してただものではない酒場と理解すると同時に、「入りにくいな」と感じたものだった。
立ち飲みのスクリプトは居酒屋とは違う。設備が簡素であるため、客に考えさせる時間を与えない。
例えば、食券や立ち飲み券を購入する店がある。また、前払い制度があったりして、システムそのものが違う。そのような心配を前提に、入店からポジショニングまでの短時間で何を飲むかを決めなければならない。
「庫裏」のたたずまいから推測して、日本酒専門の立ち飲みであることはすぐに分かった。
何を飲めばいいのか。
店に足を踏み入れる躊躇はそこから来ている。
しかし、ここはうろうろしていても仕方がない。なにしろ、ボクの動きは店内から丸見えだ。
意を決して、店に足を踏み入れる。
外からは分からなかったが、店を切り盛りするのは2人の女性だった。
まるで母と娘のような。
お客さんがつめてくれたおかげでポジショニングできたボクは、眼前の黒板に目をやり、何を頼むか思案した。
ここは焦りは禁物だ。まずはゆっくりと店内の様子をうかがう。
すると、答えは簡単に出た。
「店主おまかせセット」なるものがあるではないか。
こういうものがあるとうれしい。
お酒の種類に疎いボクにとって、プロの目からおまかせでチョイスしてもらえるとは。
酒は3種類を90mlずつ。
「ばくれ和やこん」
「加賀鳥」
「鳥 海山」
いずれも全く知らない酒である。
あては「かにとみょうが」、そして「大根しろごま 切り干し」。
この2品がついて、1,000円。
酒のうまさも秀逸なら、このあても酒飲みにはたまらないものである。
とりわけ、「かにとみょうが」って。
蟹の脚にみょうがを和えた一品。その意外な和え物が酒をぐんと引き立てる。
そうなのだ。
日本酒はあてと酒の相性でうまみが変わる。これはお酒の知識だけではつとまらない。
やはり、この母娘(実際に母娘か否かは不明)、ただ者ではないだろう。
店内の壁に掲げられた酒蓋が美しい。
一升瓶の酒蓋の天板部だけを整列させて飾っているのだが、それはまるでアートのようだ。
そういえば、昔、ボクも一時期酒蓋を集めていたことがあった。
近所の酒瓶を集める業者の敷地に無断で入り、蓋を集めていたところ、従業員に見つかり、こっぴどく怒られたっけ。
そんなことをボクは思いだした。
母娘の阿吽の呼吸は絶妙。
その会話がまた酒をおいしくさせる。
この店は当たりだ。
酒とあては恐らく毎日変わるだろう。その変化だけでも十分な楽しみである。
新橋の立ち飲みは今、駅前ビルが最新の発信地になっている。
これからも駅前ビルからは目が離せない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます