ポールが歌う「Drive My Car」が軽やかに流れている。
その調べに誘われて、店の前を通り過ぎると、BザイのOさんが一人座って、ウイスキーのグラスを傾けていた。
彼はあごをしゃくってわたしを誘うと、ボーイを呼んで飲み物を注文させようとした。
ここは成田のメルキュールホテル。わたしは、一次会が終わった後、夜の成田に繰り出した。だが、まだ23時を過ぎたばかりだというのに、居酒屋はもう店じまいを始めていた。成田の夜は早い。
京成成田駅から参道に抜ける裏道の赤い橋の手前に立ち飲み屋を見つけた。「こんなところに立ち飲み屋なんかあったけ?」と思い、店に入ろうとすると「もう店じまいです」と言われた。「いや、ビール1杯だけ」と言っても頑として聞き入れてくれなかった。この店、「寅屋」は、「宇ち多”」にそっくりな酒肴で展開する立ち飲み屋。
その後、わたしがこお「寅屋」を再訪するまで1年3か月の時間を要することになる。
それはさておき、行き場を失ったわたしは京成成田駅前のラーメン屋「宮本」でラーメンをすすり、ホテルに戻ったところをOさんに呼び止められたのである。
Oさんと対面して座り、わたしはボーイに「ドライマティーニ」をオーダーした。
曲はいつのまにか「へルタースケルター」に変わり、わたしたちは乾杯をした。
大型スクリーンはプレミアリーグのゲームを流している。マンチェスターユナイテッドと対戦するクラブはどこだろうか。
店の奥にはビリヤード台。だが、プレイする客の姿はなかった。
Footballとギターをこよなく愛するOさんが、流れてくるひずんだギターの音に身をゆだねている。Oさんの手の平にあるグラスの氷が溶けて、心地よい音がはじける。
わたしのカクテルグラスが少しだけマンUの赤に染まると、不思議な気分に陥った。
「ここはどこなんだろう」。
テーブルのピーナツを口に放り込み、グラスを鼻に近づけてベルモットの薫りをかぐ。ピーナツは八街のものだろうか。
やがて、曲は「ノルウェイの森」となり、Oさんは陶酔から目覚めたように、わたしに話しかけてきた。
「心地いいね」。
わたしはうなづいた。
それだけで十分だった。
2杯目の「ドライマティーニ」に口をつけたとき、わたしはもうすっかり酔っていた。
店内のBGMはその後もビートルズのナンバーが延々と続く。
マンUはルーニーのゴールで追加点をあげた。
ひと時の休息。前半が終わり、明日の後半は香取から市原に向かう強行軍。
まさにハーフタイム。
ひと時だけど豊饒な休息。まさにハーフタイムな夜だった。
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