恵比寿はつかみどころのない街である。
立ち飲み屋が分散しているのだ。しかも、お洒落系のバルから、こてこての立ち飲み、そして角打ちまで変幻自在である。
「山本商店」という角打ちがあるということは友人から聞いていた。だから、半年ほど前に探索に行ったのだが、結局見つけられなかった。後日、友人にその話をすると、「地下もくまなく見たのか」と言われ、ようやくその店が地下にあることを知る。
行ってみると、確かに店は地下にあった。
角打ちと言うには随分きれいな店である。しかも広くて、お洒落な雰囲気。
店頭のスペースに手作り風の立ちテーブルがいくつか用意されている。どうやら店頭のスペースにて酒を飲むらしい。
店に入ると、ワインセラーが並び、おびただしい数のボトルが置かれている。そのスケールはかつて見たことがない。
ボクはワインには用がない。
ビールの冷蔵庫に行ってみると、あるじゃない。おびただしい数のビールが。
しかも知らない銘柄もたくさんあって、目移りしてしまう。
お、インドのキングフィッシャーか。
まずは、これを買って。
ん?なんだこれは。ニンジャ?
原産国、ベルギーだって。
ベルギービールで何故ニンジャ?
黒いラベルのニンジャも買ってみるか。
次につまみ選びなのだが、これもスケール感が違う。
缶詰から乾きものまでものすごい品揃え。これは選ぶのも大変だ。
ボクは「ひまわりの種」をチョイスして、レジに行った。
だが、レジに行くと、なんとも目つきの鋭い女性が店番をしていた。
そして、ボクに早口でまくしたてた。
なんて言っているのか理解できず、「ん?」と聞き直すと、もう一度同じような調子で言った。
その様子がいかにも怖い。
「ごめんなさい。聞き取れないですが」と言うと、今度はやや大きな声で、ボクの目を見ずに言った。
彼女は「コップは要るか?」と聞いていた。
「この人、怖い」と思いながら、「いえ」と言うのがやっと。
逃げるように会計して、ボクは店頭の立ち飲みスペースへ。
ボク以外に客はなく、少しホッとした気持ちで「ニンジャ」のボトルを開けた。
上面発酵のビールらしく味はやや軽め。なるほど、日本のレギュレーションでは、発泡酒になってしまうのが、なんともベルギーらしい。
ボトルをラッパ飲みしていると、店の若旦那さんと思われる方が来て、「ストーブつけましょうか」と聞いてくる。
この人はさっきのレジの女性の旦那さんなのだろうか。もしそうだとすれば、夫婦の落差が激しすぎる。
しかしここでもボクは「いぇ」と断った。
壁に貼られた紙を見て、初めて分かった。
店のルールとして、国産の缶ビールは立ち飲みが不可らしい。しかも、その紙にはメニューも書いてあり、なんと生ビールが用意されていた。その値段280円。
その下を見ていくと、「ホッピー」の文字が。
なんとホッピーセットが203円だって。なんとお安いのか。
「これらの商品はレジにてお申し付けください」だって。
いやいや、あのおっかない嫁のいるレジには行きたくないし。
そうするうちにけたたましい声が店に響いた。
旦那さんが一方的に責められている。あまりにも無情であまりにも理不尽に、そしてあまりにも無慈悲に。
嫁さん、マジで怖い。
というより、何故客がこうしているのに、そんな怒鳴るか。
今夜はここで退散しよう。
次回はホッピーセットと手作りの肴で、この圧倒的スケール感の角打ちを堪能しよう。
女のヒステリーはどうにもならない。
自分でコントロールできないことは、ストレスがたまるものです。
それを差し引いても、この角打ち、お薦めです。