小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

映画『メッセージ』をレンタルで観た

2021年02月04日 | 芸術(映画・写真等含)

前回に続き、映画のネタ。いろいろ書き綴っているのだが、いずれも着地には至らない。今回もどうなるか心許なく、先が見えないまま書きすすめる。

不要不急の外出はまかりならんと、おとなしく自粛している今日この頃。そんなご時勢にもかかわらず、第1波とは違い映画は興行しているようである。席の間隔をあけて座るので、ゆったりと観覧できるらしい。
しかしながら冒頭に書いたごとく、用事のない高齢者は家で音無しくすることが推奨されている。コロナ禍でも映画ぐらい出かけてもいいじゃないか、という声は四六時中きこえてくるが・・。

実は観たい映画がある。「鬼滅」のなんたらではなく、ポーランド映画の『聖なる犯罪者』という現実にあった話を映画化したもので、アカデミー賞をとった韓国映画『パラサイト』としのぎを削った傑作とのこと。(今回の映画ネタは、「宮台、神保両氏による「ビデオニュース」からだいぶん示唆された。会員ではなくとも、今回は無料で視聴可能)

イエールジ・コルジンスキーの『異端の鳥』をはじめ、最近のポーランド映画はなにやら評判高し。40年以上も前に読んだ本だが、読後の衝撃はいまも残っている。まあ、いつか『異端の鳥』は早稲田松竹あたりで観るとしても、今まさに有楽町で上映中の『聖なる犯罪者』は、外出のムシがそわそわと内面を蠢くほどの必見の映画なのである。

 

たぶん観に出かけるかもしれないが、大手を振って銀座あたりを闊歩していたら誰かに見咎められるんじゃないかと、どうも尻の穴が小さい性分のせいかイジイジする始末。こんな感じで逡巡していたところ、敬愛する竹下節子さんが映画『メッセージ』のレヴューというか記事を最近書いていて、好印象を懐かれたご様子。

▲銘菓「東京ばな奈」に似たUFOが、世界の12か所に出現する。日本においては北海道に来るが、映画では米中対立が・・。

「L'art de croire」竹下節子ブログ 『メッセージ』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督https://spinou.exblog.jp/31971365/

中国系アメリカ人作家テッド・チャンのSF短編小説『あなたの人生の物語』(Story of Your Life)をもとに、2016年にカナダ人のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督した映画で、原題は「Arraival」。でまあ、自粛の腹いせではないが、この映画をぜひとも見ようと思い、アマゾン・プライムのレンタルをはじめて利用することにした。

この映画は当初、ごく一部では賛否両論にわかれていた。その理由とは、原作で重要となるキーワード「フェルマーの定理」(※追記)を捨象したとされたからだ。

異星人とのコミュニケーションがテーマといえる原作では、彼らのつかう文字を理解するポイントが、「光は光学的距離が最短になる経路、すなわち進むのにかかる時間の停留点になる経路を通る」という「フェルマーの原理」が肝となっている。
つまり彼らの文字が、意味、音韻、ビジュアルさらに時間の概念をもふくむ超言語であり、主人公の言語学者(女)と良き相棒となる物理学者(男)が「フェルマーの原理」を取り入れる。それをきっかけに理解が飛躍的に高まり、女性言語学者は思い切った振舞いをすることで、相互のコミュニケーションが深まるのだ。(これだけの説明だと、映画『未知との遭遇』の二番煎じに思えるかもしれない)。

これ以上、詳細にふれるとネタばれになるので控えるが、実際にその文字を視覚化させたヴィルヌーヴの演出と、時間概念をうまく女性主人公の回想シーンとオーバーラップさせて、『あなたの人生の物語』を破綻なく映画作品として着地させていたと思う。

今作では、異星人がコミュニケーションするヘプタポッドという器官から出される文字そのものが見もの。小説の文語表現を、実に立体的なカリグラフィーを表現されていた(墨汁を空中に噴霧するような感じで、綺麗な円形状の3Dカリグラフィーを描く)。所々に色彩が散らばっているこの文字。小説では「表義文字」とされていたが、過去や未来も包含するメッセージなのだ。

このヘプタポッドとは、ヘプタは「7つ」、ポッドは「足」の意。秋刀魚の寄生虫アニサキスを巨大にしたような形態で、なんとも気色悪い。さらにインクのようなものを出すところが、これまた「流氷の天使」と呼ばれるクリオネが捕食するときの口を想像させる。こういうところも、ヴィルヌーヴならではの粘着的な演出力だ。

女性からは嫌われる映画だと思うが、竹下さんからのまあまあの評価が得られたのは、コロナ禍とトランプ現象に関係した伏線があったからである。

▲上図は平面的だが、映像では立体的かつ流動的。すべて円形をモチーフにした気体かつ液状の3Dだ。観ているあいだ何故か、御年108歳になられる篠田桃紅さんの作品を彷彿とさせた。彼女は線形のカリグラフィーをモチーフにしているが、メッセージ性の強いところはやはり「書道」が原点だからであろう。

   

▲篠田桃紅さんの作品から。曲線を主題にした作品もあるが、見つからなかったのは残念。

 

※追記:テッド・チャンの小説には「フェルマーの定理」と翻訳されていたが、正確には「フェルマーの原理」であろう。定理というと、例の最終定理である「3 以上の自然数 n について、xⁿ + yⁿ = zⁿ となる自然数の組 は存在しない」を指し、フェルマーの大定理とも呼ばれるものだ。サイモン・シンのノンフィクションを読んだことはあるが、この定理の証明をフェルマー自身は、もう余白がないからといって日記に記載しないまま亡くなった。その後、これを証明しようと多くの数学者が躍起になって挑んだが、数学者としての人生を棒に振ってしまった人、数知れず。しかし遂に、フェルマーから350年後にアンドリュー・ワイルズが解明した。その間の経緯、ワイルズの証明が世間に認められるまでの艱難辛苦、波乱万丈が『フェルマーの最終定理』という著書にまとめられ、世界的なベストセラーになった。

緊急追記:映画『メッセージ』が、2月9日の深夜25時55分~フジテレビの映画番組「ミッドナイトアートシアター」にて放送されるらしい。これを書いている最中に判明した。レンタルは後悔すまい、CMカットで吹き替えではないから。

 

追・追記:記事をアップして後、不具合や訂正箇所を確認。そのつど修復するも達成できず、文言等を再三にわたり修正した。ウェブサイトの何かしらの問題があるのか不明、ご海容を願いたい。

 


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