小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

『ブレードランナー2049』を見た

2017年12月02日 | 芸術(映画・写真等含)

 

 ▲燃え残って石化した木と主人公K。タルコフスキーの『サクリファイス』をおもいだす。この下にRが眠っている。80年代のランボルギーニ風のこれ、なんと言ったか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ(Denis Villeneuve)監督の『ブレードランナー2049』を見た。

監督の出生地はカナダのケベック州だからフランス系移民の末裔であろう。しかし、祖先はロシアからの亡命貴族あるいは東欧系のルーツではないか。ヴィルヌーヴの風貌は、ハンガリーあたりのマジャール人というか、アジア系の血が混じっている感じがする。

▲テッド・チャンの『あなたの人生の物語』を映画化した『メッセージ』を見たくなった。

ヴィルヌーヴ自身がリスペクトするのはロシア文化なのか。そんなイメージ、オマージュをふんだんに取り入れた映像が多く、その読み取りで混乱するほどだ。

主人公Kの愛読書は、ウラジミール・ナボコフの「青白い焔」。紙の本である。装丁が白と赤の対比が美しいタイトルだけの普通の本である。素材が紙、後で深い意味があると分る。
中盤にでてくる、子供たちによる集団の強制労働のシークエンス。インパクトのある忘れられない映像だった。これはもうソルジェニーツィンの『収容所群島』のラーゲリだ。(この二人の旧ソ連作家はカナダに移住したかと思うが・・)

音楽でもロシア関係がある。Kの身のまわりの世話をする「ジョイ」というホログラムの女の子。つまりAIの幻影だ。起動するときのサウンドがロシアの作曲家プロコフィエフの「ピーターと狼」。
映像的にも、ロシアからイタリアに亡命したタルコフスキー作品の数々を彷彿とさせる。『サクリファイス』の燃える木、『ノスタルジア』の水、雨からの雪、『ストーカー』の廃墟、ゾーンの閉塞感・・。

丁寧にみれば、他にもいろいろありそうである。セットや背景の美術に相当な金をかけた映像は、アートをみるほどの価値がある。リアル感も凄い。最新のホログラム技術を駆使して、亡きR(レイチェル)が現れた! それよりも60年代のシナトラ、70年代のプレスリーにはまいった。これこそフィリップ・ディック的なめくるめき時間退行!

肝心の映画の中味については、いつか書いてみたい。フィリップ・K(キンドレッド)・ディックのSF作品についてふれないと書けないからだ。「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」よりも、「ユービック」と「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」を傑作だと思う私は、70年代後期の作品をほとんど読んでいないので、今回の映画を語る資格がない。

ただ、ツッコミどころがけっこうある。ディック作品は、時間感覚や空間認識そのもののドラッグ感を味わえるSFだ。リアルさを追求すると、物理的な整合の点で辻褄があわなくなる。それが現代の科学的認識からすると、お子ちゃま向きに思えてしまう陥穽となる。映像に重きを置くと、ストーリーの事実関係を損ねるケースが出てしまう。難しいところだ。

 

映画といえば、竹下節子さんのブログで、フランス映画の新作紹介がだんぜん面白い。アメリカ俳優では大好きなハーベイ・カイテルがフランス語をしゃべっている映画を紹介していた。予告編だが、俄然見たくなった。なんと言っても、女性版ドパルデューのような女優に興味津々。顔だけで、その存在感を知らしめる。

『マダムMadame』 Amanda Sthers 監督/トニ・コレット、ロッシ・デ・パルマ 

 

ハリウッドは、13億人の中国映画市場を当てこんだ映画づくりをやるようになって、コアな映画ファンを無視しはじめた。力づくで欲望を果たしたワインスタインの事件とあながち無関係ではないと思う。いまにしっぺ返しを喰うだろう。『ブレードランナー2049』は辛うじて妥協を許さず、お子ちゃま向けのSFアクション映画から免れた。そのかわり、興業的にはヒットしないだろう。前作のように永くファンに愛され、ロングセラーになるのかもしれない。


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