小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

チベットは屈しない。サキャの格言から

2008年03月30日 | エッセイ・コラム

(現在のチベットは地下鉱物・エネルギー資源が潤沢にある。中国はそれらを手中にしている。手放すことはありえない。この稿はそれらの背景を考えない)

 当時の侵攻の背景を納得のいくように、客観的に正確に伝えるものは少ない。私は学者でも専門家でもないから、素人としてこのことを考えてみたい。

 

チベットは7世紀頃、中国では吐蕃(とばん)いわれる一大軍事国家として知られていた。唐と交戦し勝ったこともある。8世紀ころ吐蕃に仏教が伝わった。ローマ帝国がキリスト教を国教にしたように、吐蕃も仏教を国教にして政教一致の政策をしいた。たぶん軍事国家から平和を原理とした国策に転換したと思われる。僧侶が政治のリーダーシップをとったが、9世紀には吐蕃王国は崩壊する。

しかし中国からみて、チベットは政治色の強い仏教の発信地であった。

また、中国西域周辺の多民族がチベット語を語源とし、その盟主としてのチベットを中国は無視することはできない。

さて、中国はモンゴル人支配による「元」を正式の中国の王朝だったとして歴史資料に組み込んでいる(清も同じく)。この元の時代、チベットは事実的にはモンゴル支配下にあった。この史実からチベットは中国領土であったという解釈を梃子にして、中国西域の多民族を取り込んでいる。毛沢東の「中国人民政府」の宣言もこれらの地域を制圧した直後に行われた。つまり現政府のアイデンティティに関わっているともいえる。

しかしながら、チベットがかつてモンゴルに支配されていたというのは正確ではない。

むしろ対等の関係を維持し、むしろ仏教思想によりモンゴルをリードしていたかもしれないのだ。

その重要人物がサキャ・パンディタ、本名クンガ・ゲルツェンである。

彼は仏教僧ではないが幅広い学識をもつ氏族の長であった。彼はチベット地方の多数の氏族の代表として1244年モンゴルに旅立ち、ずっとモンゴルの宮廷にいてチベットを保護するよう尽力した。

このサキャ・パンディタの残した言葉は現在のチベット人にも深く影響を与えており、仏教色一辺倒ではない普遍的な洞察がしるされている。岩波文庫にも「サキャ格言集」があり、私たちもそれに親しむことができる。

現在の中国を揶揄するつもりはないが、ちょっと片腹痛くなるような格言を拾ってみよう。< /span>

    ▼ ▼ ▼

 

「立派な人を仲違いさせるのは難しく 調和させるのはた易い劣った人は逆だ。 

「木から木炭にするのはた易いが木炭から木にするのは難しい」

「劣った人が金持ちになると傲慢になり 立派な人が金持ちになると穏やかになる 「狐は満腹になると傲慢に吼え ライオンは満腹になると安らかに眠る」 「内で少し余裕ができると  外で威張った態度をとる 

水で満たされると  雲はたなびき雷鳴する」

 

「自由はすべて楽しく 不自由はすべて苦しい

どちらつかずは葛藤となり 約束は束縛のもととなる」

 

「恥と慎みをわきまえず 尊敬と軽蔑の区別を知らず

食べ物と財産に執着する そんな人のところには住まない」

 

「裕福になろうとするなら  多くのことを手掛けなくてはならない

気の散ることが苦しみなら 裕福になるのは諦めなければならない」

  ▲ ▲ ▲

 

どうだろうか、現在の中国人の琴線にふれる言葉はあるだろうか。

去年チベットまで開通した「青海鉄道」にちなんだドキュメンタリーが2,3放映された。その一つに中国のホテル王といわれる40代の男が紹介され、チベットの芸能や民具などを金にまかせて買い上げ、チベット色にあふれる高級ホテルをつくる様子が紹介されていた。かつて欧米資本が中国でやったような方法が踏襲されていて、苦々しい思いで私は見た思いがある。

 

中国はなぜチベットを掌握しなくてはならないのか。

私は地政学でいうところのハートランド理論で考えようとしたが、単純に多民族を統治する中国共産党の威信、面子を貫くためだけに、チベットの暴動を鎮圧したのだと思うようになった。

しかし、五輪前の大切な時期になぜ国際世論から非難を浴びるような愚挙をおかしたのかが、未だに分からない。サキャの格言を知っていたなら、政治的な懐柔策なんかいくらでも打ち出せたであろう。かつて中国にはサキャ・パンディタをも凌ぐ叡智と包容力を持ち合わせる大人物が多数いたのに・・。中国の政府高官の面々は大局的に判断できない、小者の官僚たちばかりなのか。まあ、わが国でも事情は同じだが、情けないことこの上ない。高度成長著しい大国中国は、単なる拝金主義にとりつかれた張子の虎なのかもしれない。


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