小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

紅葉の俳句

2015年11月09日 | エッセイ・コラム

 

もみじ、かえでの紅葉ではなく、尾崎紅葉の俳句についてふれたい。
坪内祐三著「慶応三年生まれ七人の旋毛(つむじ)曲り」は、夏目漱石・宮武外骨・南方熊楠・幸田露伴・正岡子規・尾崎紅葉・斉藤緑雨の七人について、彼らの青春や人間関係、時代背景について縦横に論じた連作評論である。(四年前に文庫本で読む)
坪内は評論家とはいえ学者肌。多くの文献を渉猟し、その考証と読み込みについては深くかつ斬新だ。この著作は彼が四十代初期の頃雑誌に連載したもので、七人がみな慶応三年(1867~68)生まれであることに着目し、若き天才たちの同時代論として読める画期的な評論といえよう。
読んだ当時は漱石と露伴そして熊楠に着目したが、いま集中的に子規を読むようになって、紅葉、緑雨にも関心がいくようになった。
というのは、子規は三十五歳(34歳11か月)で夭折したが、尾崎紅葉も翌年の明治37年に胃がんにより夭折している。また、帝大を同時期に退学したこと、二十代のはじめに俳句の結社をつくるなど共通点が多い。(緑雨も明治37年、三十六歳で病死)

紅葉は早くから新聞小説を書き人気作家になったが、俳句も書き続けていたし、ときに一日に4000句ほどをよむ選者でもあった。子規の影に圧されていたとはいえ、初期の紅葉たち一派は「ほととぎす」とならび、新たな俳句の潮流をなしていたとして評価する人もおおい。

大岡信によれば、紅葉の俳句は自由律であり、一読しただけでは難解な前衛的な作風だという。

蛙恨を呑みて草むらに蛇の衣を裂く
危き哉古き軒端に梯子かけて菖蒲葺く
俗物暁に起きて蓮華裏に茶を採る

すべて字余りであるし、いわゆる写生・写実の域をこえ、文学のもつ高踏の香り高いと私はおもう。ただ、三つ目の句は美しい蓮の花を愛でるのではなく、お茶にする葉っぱを採っている人を俗物と断じている。が、蓮茶はたいへん高価なもので、朝摘みの蓮を煎じてつくるお茶は、俗人では嗜むことのできない馥郁としたものらしい(追記)。このことを、当時の紅葉が知っていたかどうか知らない。その頃、紅葉がどこに住まっていたか調べないと分からないが、早朝に上野池之端に散歩したおりに、この光景を見かけ詠んだ句だとしたらがぜん面白くなる。なぜなら、この俗物は蓮茶をこよなく愛す、中国人留学生である可能性が高いからだ。孫文や魯迅の日本滞在はいつごろであったか調べてみる価値はありやなしや・・。いや、蓮茶を呑む日本人はいたか・・。

その他、味読したい紅葉の俳句 五つほど載せる。

春の日の巡礼蝶に似たるかな
切符買うて手毎にかざせ初紅葉
泣いて行くウエルテルに逢ふ朧哉
自転車の汗打かをる公子かな
死なば秋露の干ぬ間ぞおもしろき

それほど前衛的でもないし、私たちの生活感、感性にも十分に鑑賞できる素晴らしい句だと思うのだが・・。

 

〇紅葉つながりで、先日奥多摩の御岳山に行ってきた。

 御岳神社の周辺を散策したていどの山行であったが、翌日は多少の筋肉痛があって心地よい疲労感をおぼえた。とはいっても駅からは往復ケーブルカーを利用したのではあったが・・。

タブロイドゆえ、画質すこぶる悪し。奥多摩を感じてもらえるどうか・・。

                   

 

  

↑ 御岳神社とバス停を往復するケーブル―カー。「関東一の傾斜角度25度」と、しきりの車内放送するが、高尾山のそれは31度余りだと訂正したくなったが黙っていた。


(追記): 「俗物暁に起きて蓮華裏に茶を採る」という句の解釈について、訂正する必要が生じた。小生、「蓮茶」を嗜んだのは、かつてベトナムに旅した時の、ある地方都市での経験に基づくもので、その香しいお茶の源泉は、蓮の花なのか、葉なのか、正確に理解していなかった。この記事を、現時点で再読するにあたり、曖昧であり蓮のお茶が何たるかを書いていないことに気づかされた。

蓮茶として認知されているのは、中国ならば高級な茶葉に「蓮の花」の香りを移したものが有名である。しかしながら、「蓮茶」は越南つまりベトナム由来のものを指し、実のところ以下の3種があることが、現在小生の知るところである。ベトナムでは花の香りも茶葉の味わいも、すべて蓮のものだと思っていたのでここに訂正する。

この3種の蓮茶を知らずに知ったふうのことを書いたことは恥である。とまれ、この時代の尾崎紅葉先生が、「蓮華裏に茶を採る」とは何の蓮茶を指したのか分かりにくい。たぶん実地体験から詠んだ句であることは歴然であり、その背景を知りたく興味をそそられた。でも、研究者ならいざ知らず、そこまでのエネルギーがもはや枯渇しているのはある意味で幸いであり、これまで実証に付すまでのことを書き綴ったことで自己満の愚生がいる。ちなみに件の蓮茶は以下の3種である。

●蓮の花の香りを緑茶に移した「蓮花茶」
●乾燥させた蓮の葉を焙煎した「蓮葉茶」
●乾燥させた蓮の芯を利用した「蓮芯茶」

以上の追記は「2019年7月2日」に記した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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