小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

英国建築事情、その勉強カフェにて

2019年07月03日 | 日記

30日の日曜日、月一映画祭の会場となる「谷中の家」にうかがった。

映画祭主催の一人でもあり、「谷中の家」のオーナー西川直子さんは、建築専門誌『建築ジャーナル』の編集・発行に長い間携わっており、その道のプロフェショナルでもある。あの3.11の直後に、築60年の民家を木造耐震補強し改築された。谷中の町並みにもしっくり溶けこんだ、瀟洒でセンスある木造住宅に蘇らせたのは、町の景観と住宅との関係を真摯に向き合う姿勢、そして長年培ってきた慧眼によるものだ。(※追記1)

       

 

月に1回の原発関連の映画上映は、その1階のスペースを開放して行われている。彼女の仕事をPRする狙いもあるだろうが、公共の目的とはいえ自宅をそのように使うことは、なかなかできるものではない。なお、3階は屋上菜園になっていて、ハーブなどを育てているという。映画祭が終わった後の、フリーセッションでは無農薬のハーブティーがふるまわれ、その香り、味わいはこの上なし。

 

さて今回は、月1映画祭ではなく、西川さんが主体的に関わっている「地区計画の勉強カフェ」に、はじめて参加させていただく。イギリスで実際に建築家として働いている、お友だちの近江麻衣さんをゲストとして招き、イギリス建築の実情をさまざまな観点から話してくださるという。ヤッホーな企画である。

彼女は15年近く現地で活躍されていて、幾つもの賞を獲得された実績の持ち主だ。当初、日本で大学院まで建築を学んだらしいのだが、さらっとイギリスに留学し、建築士資格をとってイングランドの地方都市リーズを中心に、都市計画や建築設計の、より開かれ創造性に満ちたフィールドを選んだ。

小生の世代的な言葉でいえば「進取」の精神の持ち主で、たいへん聡明な方だとお見受けした。要するに、男中心の閉鎖的な日本の社会を見限ったといえるのかな・・(想像です。ちなみに後年、日本の一級建築士資格も取得したとのこと)。

現在は、「グループ・ジンジャー」という組織に属し、イングランドの地方都市におけるリノベーション(改修・増築)、コンバージョン(用途変更)などがメインの仕事だという。

「グループ・ジンジャー」へのサイト⇒http://www.groupginger.com/ 

(近江さんが建築でなにかの賞を取ったときの写真もあった。(NOT 1 BUT 3 RIBA YORKSHIRE AWARDSをクリック!)

 

 ▲外観は従来のイメージを尊重し、内観は現代のライフスタイルに寄添う。洗練かつ人間味あふれるアーキテクトの数々を鑑賞。参加者は総勢16,7名だったか? 女性の方が建築のプロ、文化財保護のNPOの方など現役の方多し。男は6,7名。リタイヤ組は我一人か・・トホホ。

前々から、イギリスはじめヨーロッパの街並みと建物の景観の美しさや、古い建物を何百年も使い続ける彼らの思想、暮らし方には興味を持っていた。実際の改築現場などのプロセスを、ビフォー・アフターでひと目で分かりやすく、スライドを見ながら説明していただく。大学でのレクチャーを聴くようだ。

大まかなことを、掻いつまんで書いてみたい。

イギリスでは新築はもちろん、建物の増築、改築、また用途変更のときにも、いちいち都市計画許可(Planning Permission) が必要となる。行政の担当者も、それなりの資格を有し、景観・デザインについて一家言あり、好みもうるさいらしい。

まず着手するのは、その計画立案から申請までの、若干イギリス寄りの専門的な話に進んだ。

(その時、お年を召した男性から横やりが入った。イギリスの建築事情なんかまったく理解できない。分かるように、日本のそれと比較してくれとの要望だ。これに関しては、後半に詳述する)

 

それから、近江さんの話は、度々中断されることになった。それにしても、彼女は笑顔を絶やさず、その度にやさしく対応。出来た方である。

全体の骨子を私流にまとめればこうだ(もちろん、小生はイギリスの個々の具体的な知識・情報はフォローできない)。

日本では、建築基準法を満たせば、それこそ個人、建売業者など勝手次第に建築することが可能だ(私見だが、増改築はさらに適当だろう)。商用建築、マンションなど集合住宅は無秩序に林立し、住宅地区であるなら多種の規制緩和もある。ところによっては、日照権など意も介されずに高層建築は建てられる。

政治家の力か、法律の抜け道か、それとも資本の論理か・・。

小生が住む街は、寺町であり、再開発が困難な地域だ。それに加えて、大部分が木造住宅密集地区であり、防火対策の重点地区に指定されている。それゆえ、新築・建替えに関しては、厳しい規制はあるが、容積率に関してはゆるい面も出てきたと、西川さんが解説されていた(その理由とは? ボケが進行中。追記:谷中では、道路を拡幅する計画が進行中。消防車が入れるためのことだが・・車が入れないから現在の街並みがあり、これって何年計画?)。

いずれにしても、日本の都市部における建築の外観に関していえば、デザイン、色、素材は何でもOK。街の景観の統一性、調和などを配慮することなく、見た目にはパッチワーク的な継はぎだらけの印象をあたえる。その無属性・無秩序な景観こそ、外国からの旅行者は、それが日本的だと言って面白がるらしいのだが・・。

一方、イギリス(イングランド)では、先に書いたように18,9世紀の建築物は、そのまま保持することが尊重される。街並みの美しい景観は、住む人にとっての共有財産であり、基本的にいじることは許されない。とうぜんの如く、古くから残る建物を生かし、住まいとしての機能、居心地の良さをキープする。これこそが彼らの誇りであり、パブリックマインドとして分かち合える悦びのようなのだ。

築100年ほど経った建造物でも、それは新しい住まいだという感覚なのか・・。現在、イギリスではロンドンばかりではなく、地方都市も含めて、いわゆる良質の中古住宅だけが、市場で売買されているとの話。たとえば、築200年の中古住宅を手に入れたとする。その人は、内装を重点的に手を入れる。設備を充実、アンティークな高級家具を設えること、必要ならば先端テクノロジ―の対応、外からでは見えないことに労力と、お金をつぎ込むといえようか。

日本では、借金してでも家を建てる。が、その建築物としての資産価値は、経年で目減りする。その分、課税もゆるくなるけど。確か25年を目途に、建物の資産価値は償却し、ゼロになり課税も終わる。その仕組みぐらいのことは、高校生の年齢になれば薄々感づいているんじゃないのか。

ところが、イギリスでは築100年だろうが、200年であろうが、資産価値は目減りしないように建物をしっかりメンテナンスする。さらに、付加価値をつけるべく、DIYでせっせと内装に手を入れるのだそうだ。若いときに中古物件を安く買い、休日はDIYを楽しむというライフスタイルがイギリス流らしい。しかるべき時に、住宅を高く売ることで、次にランクの高い中古物件を求める。そんな暮らしをステージアップしていく住み替えは、日本において稀少例はあるが、ほとんど実現できるはずもない。

イギリスの地方都市における、その地域の景観保全のための条件やら建築基準、法規制の範囲、及び申請手続きなど、少々面倒くさい話に及んだ。

 

そのとき、その前後だったか。小生より年配らしき男性及び一人の同調者が「その事の知識がまったくない、理解できない」と苦言を呈し、再三再四進行がストップした。周囲のプロの女性たちが、噛み砕くようにそのつど助太刀を買って解説するのだが、結果は行きつ戻りつの始末。

小生は彼らの言い分というか、自らの無知を棚に上げて、たびたび進行をストップさせることにむしょうに腹が立ってきた。少なくとも、近江さんの話をまず聞く、傾聴するという前提、ルールに則った勉強会のはず。己の理解力、想像力の欠如をさておいて、「まったく分からない、何いってるのかさっぱりわからない」の一点張りの申し立ては如何なものか。そこへ、小生が割って入っても、紛糾度は増すことが目に見えるので、じっと我慢だ。

 

兎にも角にも、話し手の近江麻衣さんに対して、一方的に待ったをかける、話の腰を折ることは失礼であり、フェアではないと感じた。分からないことがあったらメモしておき、基調のスピーチが終わった段階で、質問するのが一般常識ではないのか。

説明が終わった後で、個々の自己紹介があった。びっくりしたのは件の年配の男性は、元NHKの科学番組では数々の名番組を世に送りだした、名プロデューサーH氏であることを知った。かつ、3.11以降のフクシマを題材にしたドキュメンタリー映画『いのち』の監督もした有名な方。以前3,4年前だったか、「谷中の家」の映画祭でも上映され、H氏監督自らのトークにも参加した。そうだ、小生は、彼の薫陶を直々に授かったこともあったのだ!

だからといって、是々非々を捻転させるわけにはいかない。社会的にも広く認知され、情報の最先端に属していたH氏が、とつぜん己の無知を宣言して、進行を中断させたのは、何故だ?

NHKで永年仕事した方ならば、こういう異議申し立てはしない、と普通ならば考える。話を聞く立場にいたなら、まず傾聴すべきだろう。取材目的で話を聞くとなれば、事前の準備は鉄則で、予備知識・情報は仕入れる。その際の、不明・質問などは洗い出して、チェックリストとしてメモしておく。少なくとも、用意周到で現場にのぞむ。これは身についているはず。小生老いぼれて来ているが、多少とはいえ編集作業の経験があるので、その辺のことは弁えているつもり・・。

会議、セミナー、パネルディスカッションなどの場合においても、まず話を傾聴する。身近な仲間との会合、いや夫婦の間でさえ、話している相手を遮ってはならない。

繰りかえすが、「知識がないから理解できない」。そのロジックは、方便でしかない。分かりやすく説明しろと、語り手に要求する根拠。それは、実は現実的ではないし、論証としても成り立たないのだ。「馬鹿にも分かりやすく説明しろ」と、強弁するようなものだ。

NHKとの関係は現在ない。既に辞めた身分ゆえに、組織的スケールメリットはいささかも有していない、だから関係ない。では理由にも、反証の論拠にもならないだろう。

NHKといえば最先端の情報が集約されるところだ。専門外のことでも、黙っていても一般的な知識・情報はインプットされるはずだ。

日本の建築基準法のイロハ、法的な規制、建築事情なぞの実態は、小生のような門外漢でも大体は分かる「感じ」がある。そんな感触あれば、類推力、想像力を駆使して、まず話を聞くことに専念するのではないか。

NHKというマスコミ組織に在籍していたならば、「聞く力」の能力こそが、問われるのではないか、と小生ならばそう考える。

書き出したら止まらくなった。反論があるなら受ける。このブログは匿名で書いているが、それが不公平と仰るならば、対等の条件を設定して議論したい。

もとい。「話していることが、わからない、知識がないのだ」ということを、話している相手を遮ってまで、直截になぜ言えるのだろうか。紳士性を問題にしているのではない。そこにインテリジェンスはあるのかを問いたい。

H氏はこれまで、話の腰を折られる経験はしてこなかったのかもしれない。H氏の語ることは余りにも知的で格調高く、だから周囲の人間は真摯に傾聴していたのであろう。たといそのなかに頓狂な人がいて、「あのー、言ってることがさっぱりわかりません」と、正直な気持ちを言おうとしたとしよう。しかし、彼はたぶん思い留まるだろう。

内容が高尚で、氏の威厳ある話しぶりに恐れをなしたのか。いや、違う。周り人のほとんどが真剣にふむふむと、氏の話に耳を傾けていた。そんな状況のなか、その頓狂な彼は、さすがに割って入って「理解できない」と、言えるはずがないと思ったのではないか。彼は頓狂であるが、「無知」の「恥」は知っていたからだ。

 話がだいぶん脱線してしまった。

イギリスには、Conservation Area コンサベーション・エリアと呼ばれる保存地区内では規制がさらに厳しく、自分の庭にある樹木でも勝手に切ってはいけないことになっている場所もある。そうかと思えば、人口が減少し、寂れつつある地方都市では、日本でいうところのパチンコ店のようなド派手な工場が建設されることもあるのだという。良いところもあれば、悪いところもあるのは、何処も同じだ。

日本にも白川郷とか五箇山に茅葺の古い家屋ならば文化財として補助されるところもある。しかし、日本のほとんどの建築は、戦争で荒廃した後の高度成長期に、そのすべてが大量生産型の建築がもてはやされるようになった。それも建築意匠の統一があるわけではなく、個人がみな好き好きな住宅をつくったり、出来合いの新築を購入。そこに街並みの調和など考慮する人は少ない。

お金に余裕がある人なら、ホラー漫画の大家楳図かずお先生のように、自宅を派手なピンク色の邸宅にする権利もあれば、自由も保証されている。しかし、隣人はたくさんいる。隣人を考える、それこそがパブリックマインドだ。楳図邸に関して、確かひと騒動あったようだが、その後のことは知らない、まあいい。

今回はどうも千々に乱れる記事になってしまった。どうも、NHK出身の方とは、相性がわるい。以前、パノプティコンの存在について、元NHKの池田信夫氏を揶揄したことがある。彼から具体的に反駁されたことはない。鹿十されたが、その記事はいまも多くの人に読まれている。

H氏の反論を期待したい、というより月1映画祭でお会いすることを楽しみにしている。

 

(※追記1)この箇所、当初は西川さんを建築家として表記していた。だいぶ前に指摘されていたのが、訂正していなかった。今日になって気づいた。お詫びして訂正いたします。また、若干語句を追記して、正確を期することをめざしました。(2020.1.31記)


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