小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

劣化ウラン弾について

2005年02月14日 | エッセイ・コラム
 家内の友人であるW氏のホームページを久しぶりに覗く。
 ケルト音楽やワールドミュージックを中心としたマニアックであるが充実したサイトの内容は変わりない。が、どいうわけか突然として、政治的な様々なコラムも発表していた。驚く。

 その一つに「劣化ウラン弾」が述べられている。彼の主張とは「劣化ウラン弾は放射性物質ではなく、その被爆後遺症についてすべてを劣化ウラン弾のせいにするのは非科学的であり、憶測に基づいてアンチキャンペーンをはるマスコミ及びその他の団体は許せない」というものである。彼の主張は裏づけもあり理解できるものであるが、実に危ういポジションに自らを置いている。もちろん、戦争で劣化ウラン弾を使用することは絶対に反対だという立場をとっているのではあるが・・。
 彼はあくまでマスコミの姿勢を糾弾するのであるが、なぜか論調が劣化ウラン弾を容認するような感じになってしまっている。
「木を見て、森を見ない」ということわざがあるが、「葉を見て、木を見ない」ぐらいの末節的な議論になってしまっている。
 科学的な分析によると、劣化ウラン弾に含まれる放射性物質は限りなく0に近く、せいぜいその数値は、0.03%までというばらつきがあるというものだ。この最大値をもってしても人体へ影響は微々たるものらしい。
 一方、巷で言われる反対派の論拠は、放射性物質が多少でもふくまれている可能性がある限りそれは人道的に使うべきではない、というのが一般的であり、マスコミもその論調に乗っかっている。このマスコミの安易な姿勢をW氏は許さない。

 私は劣化ウラン弾を放射性物質の「含有」の点において論じる以前に、もっと基本的な問題点がある、と思っている。劣化ウラン弾とはそもそも産業廃棄物なのである。原子力発電の燃料とするべく天然ウランを濃縮する際に産まれたいわば金属のゴミ、屑である。再利用できない代物としてその処置が検討されていたのである。そのゴミが鉄よりも比重が2.5倍もあることに武器商人が目をつけた。戦車や装甲車をぶち抜く弾丸を製造する場合、従来はタングステンが使われていたが劣化ウランを使えば、そのコストは十分の一で済むことも明らかになった。劣化ウラン弾問題の根源はここにある。

 また、もう一つ疑わなければならないこともある。
 原子力発電の産業廃棄物だけでなく、核爆弾製造の際の産業(?)廃棄物があるか、ないか、という問題である。
 いずれにしても、産業廃棄物を武器に転用するという考え方は驚くに値する。
 そもそもアメリカは国家間の利害、紛争を解決するための最終手段として戦争を肯定する国。戦争こそが最も功利的に自国の利益を守る合理手段だとするクラウゼヴィッツやホッブズの思想を実践する国である。
いまや、軍需産業がアメリカの基幹産業になっていることは周知の事実である。飛行機、コンピュータ、宇宙、生物、情報通信、化学など世界をリードするアメリカの産業はすべて軍需にリンクしている。
 国際的には戦争は避けるべきものとされる。国際連合で承認された案件しか武力的解決は行なわれない。
 いまやアメリカは国際連合の存在さえ無視できるほどの「帝国」になってしまった。

 視点を変えよう。
 本来、戦争する主体にも倫理が求められる、とされる。何故かというと、この地球には核兵器が存在するからだ。いうまでもなく、核兵器を先制的に的確に使用すれば十中八九勝つことができる。しかし、使用すれば確実に生物の死に至り、かつ地球環境に甚大な影響を及ぼす。だから核兵器は「戦争抑止力」としての役割しかないものとされる暗黙の了解がある。
したがって、陳腐化・劣化した核兵器は、それを所有する国家が自国で処理するのが義務であるし、国際ルールである。アメリカは明らかにこれも無視している。
 アメリカはたぶん、こう反論するだろう。
「劣化ウラン弾の原料は原子力発電に使用された廃棄物で、核兵器からの転用ではない」と・・。

 そもそも原子力発電は核の「平和的利用」であって、原子力そのものは当初、早期に戦争を終結させるために軍事目的に考えられ、開発されたものだ。北朝鮮の原子力発電所建設にアメリカが血眼で監視する理由がこれで分かる。
 原子力はエネルギーとして役に立つが、両刃の剣はやはり武器なのだ。
 ここ15年間のアメリカ関わっている戦争をみると、紛争解決のための合理的手段というより、旧式の武器・弾薬の在庫整理的なニュアンスを含むようになってきた。自らが紛争の種をマッチポンプ的に演出しているという事実だ。
(これらに関しては田中宇、広瀬隆、加藤弘らのウェブニュースや著作を参照)
 構造的には、戦争があるから武器を使うのではなく、武器があるから戦争する、というものだ。これはアメリカの銃社会の病理にもリンクする。また、ちょっと飛躍するが、古く、陳腐化した武器・弾薬は適正に処理するという考え方は、アメリカのマス生産・商業合理主義にも合致するとはいえ、国際政治の場で合理性は充分な説明がなされたことがあっただろうか。
 アメリカの国内事情による理由だけで、産業廃棄物としての放射性物質を弾薬に転化するということ。こんなことが許されている現実のなかで、国際法はなんら拘束力もないというこなのか。
 産業廃棄物処理としての劣化ウラン弾の製造は、国際法規上において早急にストップがかけられなければならない。
 最悪の場合、産業廃棄物処理のための「戦争」が創生される可能性さえあるのだ。このことをマスコミが強く指摘しなければならない。アメリカは今後ますます危険な国になりつつある。京都議定書ボイコットに見られたごとく、自国の経済・エネルギー政策のためには国際協調はないがしろにされる。
アメリカが提唱する「グロバリーゼイション」は笑止千万なご都合主義のアメリカナイゼイションであることはよく言われるが、この劣化ウランの武器転用は「早いもの勝ち、やり得」になっている。こんななし崩しの思想に、中国がキャッチアップしたら凄いことになる。

 つい最近であるが衛星放送で劣化ウラン弾のドキュメンタリーが放送されたが、劣化ウラン弾そのものはドイツ企業が発明したもので、それをライセンス契約で米軍が製造していることを初めて知った。
このドキュメンタリーはイギリスBBC放送制作で、あるドイツ人医師がそれを憂慮し湾岸戦争後の劣化ウラン弾の被害状況を自主的に調査していることをメインにしたものだ。なかでも、当初アメリカ軍そのものが劣化ウラン弾の取り扱いについて兵士に注意を喚起していて、使用前からその放射能の被害があることを認めている映像に、私は注目した。
 また、劣化ウラン弾を被爆した人或いは取り扱った兵士の子供に、かなりの確率で先天性異常の障害が発生していて、その症状が実際に映し出され、その実に痛ましい映像に心が疼いた。
 ドキュメンタリーでは、さらにドイツ人医師が何者かの謀略で事故にあったことが再三あり、それは明らかに劣化ウラン弾製造側の謀略であることを示唆していた。

 もはや、「劣化ウラン弾に含まれる放射性物質は限りなく0に近く、せいぜいその数値は、0.03%まで」という科学的根拠そのものに強い疑義が問われている。早急に再調査し、国際間の基本的合議によって劣化ウラン弾使用を再検討する時期にきている。現に増えつつある先天性異常の子供たちを実際に見れば、それはほんとに切迫した事態なのだ。

 {追記}この記事を書いた時点では、劣化ウランの毒性とか放射線の内部被ばくなどの正確な知識はなかった。その後2013年に岩波ブックレットから発行された「劣化ウラン弾」を読み、劣化ウラン弾の軍事利用の非道さもさることながら人体への影響の陰湿というか凄惨な毒性を再認識した。原子力発電による放射性廃物(あえて廃棄物とは書かない)の処理が宙ぶらりん状態のいま、対人地雷禁止条約と同様いやそれ以上の厳しい国際的な枠組みが求められるだろう。(2015/12月・記)


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