鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

26 春愁の遊戯

2018-03-02 05:21:28 | 日記
---眼をつむり白羽に光沁み込ます 梢の二羽に春の夢あれ---

文人歌人なら春は愁いに沈め!
愁いは詩歌の重要な武器だ。
花は咲き鳥は歌う野道に一人沈鬱に佇めば、少しは格好もつく。
惜春と比べ春愁は大雑把に言えば、明るい光の中での孤独感だ。
多かれ少なかれ人は誰でも孤独なので、この感覚は普遍性があると思う。
さらに孤独を味わうには群衆の中に行こう。
春愁の人のスナップでも撮ろうと思って街に出たのだが、観光都市鎌倉には春愁のかけらも無かった。
ストリートフォトは個人の顔が特定出来てはいけないので、後姿やシルエットだけでも良いのだが、憂いに沈む乙女なんて影も形も見当たらない。
そこで私は天与の裏技を使う事にした。
宗教音楽数百年の金字塔、聖ジャッキー エヴァンコ(当時11歳)のアヴェマリアを聴きながら古都を彷徨うのだ。
我、神と共にあり!
聖女の歌声で雑踏の街を浄化しよう。
---音曲は俗世の音を掻き消して 春の陽射しは廃都に染みる---

駅前に行くとケーキ屋も寿司屋も雛祭りの曲を流している。
まあ廃都だから仕方ない。
それに釣られて買う客もまあ………。
我が家には女の子もいないので何も買わず、帰って古雛でも飾って遊ぼう。
昭和以後の雛人形の顔立ちはとても可愛いらしくて良いのだが、江戸雛の方が賢そうに見える。
昔は相当貴重だった金襴が古色を帯びた様子は重厚かつ格調も高い。

(享保雛 江戸時代 探神院蔵 女雛の台座は消失)

そんな事を思いながらの家路の途中、小池に白梅が散っていた。
今日はここで有終の美の一首を詠もう。
ラストシーンはあくまでも哀しく、それでも明るく美しく生きて行く隠者の歌にしたい。
映画の手法でも哀しいシーンを引き立てる明るい音楽と美しい背景は、かなりの効果を上げている。
良い作品が出来そうな気がしてきたぞ。

---もう何も起こらぬ所水底は 冷たく保つ花の白妙---
(結局良いのが浮かばなかったので、旧作で御勘弁を)

©️甲士三郎

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