鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

49 中世の森

2018-08-09 13:48:46 | 日記
中世のドイツ フランスあたりは、未開拓な森が広がり野蛮な因習とカトリック的な抑圧に捕らわれて、ローマ帝国滅亡後の千年に及ぶ文明の衰退期を過ごした。
フランク王国では貴族層でさえろくに読み書きが出来なかった時代もある。
中世ヨーロッパの人々は停滞した農耕文化と森の狩猟文化の中間で暮らしていたのだ。
伝統的な隠者のイメージも、ギリシャの哲人やカトリックの修道僧と言うよりケルトのドルイド(賢者)の方が近い気がする。

うちの近くにもちょっとした森があり、よく散歩に行く。
避暑地鎌倉の中でもここは街中より2〜3度は涼しいので、虫除けスプレーさえあれば夏でも私の憩いの地だ。
ケルト文化は文字を持たなかったのでドルイドの言動などは憶測する他ないが、森の賢者と呼ばれていたのだからやはり思索に耽っていたのだろう。
ぼーっと思索に耽るだけならこの隠者も得意だ。
だがそれよりもっと重要な事は、ケルトの森は妖精達の原風景なのだ。
昨今の映画やゲームでも、剣と魔法の中世ファンタジーに妖精は欠かせない存在だ。
妖精の事を東洋では花の精とか樹の精など、ただ精と呼ぶ。
鎌倉の森にだって精に進化する前の蝶や蜻蛉は楽しげに舞っている。
---黒蝶が己れの影へ舞ひ降りる---

下の古織部の絵も、隠者には神秘的な森の中の妖精に見えて来る。
織部釉の偶然の垂れと窯変が、いかにもダークファンタジーの色調だ。

(織部絵皿 江戸時代 探神院蔵)

我が国においても中世鎌倉 室町禅の白衣観音図などを見ると、森の中や泉辺に座している姿が多いのは、屋内より自然の中にいる方がよりスピリチュアルになれる査証だろう。
一転して少し明るい水辺では、蓮の蕾も花の精の揺籃器のようで可愛らしい。
蓮華座の菩薩や天女は、アジア的な妖精とも言えよう。
---浄蓮の蕾の中の薄明り---

フェアリーもピクシーも異教的だ非科学的だと否定され続けたが、二十世紀初頭のケルト文化の再評価もあってしぶとく生き残っている。
シャーロック ホームズを書いたコナン ドイルは英国妖精学会の重鎮であった。
コナン ドイルでなくとも妖精が居ない世界より居る世界の方が楽しい。
豊穣な精神文化とはそう言うものだろう。

©️甲士三郎

最新の画像もっと見る