鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

90 風詠みの丘

2019-05-23 15:58:27 | 日記
頼朝の供養塔の奥の山路を少し登った丘上に、大御堂跡の今は何も無い空間が広がっていて、ここまでは観光客もほとんど来ないので隠者のお気に入りの徘徊ルートになっている。
名も知れぬ白花が咲く空地に小さな谷倉が残るだけだが、俗世の人工物が何も見えない場所は鎌倉でも貴重で、昔風に言えば風雲去来の丘、今のファンタジーなら風詠み星詠みの丘だ。
ここの小さな谷倉の中は隠棲に程良い広さで、リフォームして冷暖房完備で住んでみたい。
夏の夜は銀漢を見にカンテラを提げてまた来るべきだろう。
---鎌倉を世から隠して山若葉---

元より隠者は陰の住人なので、常に世の暗黒面から外界の光を仰望している訳だ。

また詩人なら豁然開朗の桃花源の如く、狭洞を抜ければ夢幻界が開けるのが太古からのお決まりである。
現実世界のちょっと奥に見え隠れしている桃源郷を、確と具現化するのは詩人芸術家の使命だ。
この付近でも楽土は見え隠れしている。

洞の奥ではないが近くの古木の走り根に散る躑躅の名残に、古の廃都の趣きを醸す。
これも楽土の実相の一つとして存在感があると思う。
隠者好みのゴシックロマンの世界でもある。

後ろの山は頼朝のほか大名島津家や大江家らの静寂の奥津城(おくつき 墓域の意)となっている。
---白花は惜しまれぬ花奥津城に 心置き無く風の荒ぶる---


この霊域は如何にも思索に向いた荒涼寂滅の感があって、昔の文人達も折々の散策に訪れていたようだ。
日によっては渺渺たる太虚の向こうに蒼海を望み、遥か宋国を想う将軍実朝の気分にも浸れる。
こうしてこの薫風の丘にも一つ、我が夢幻界を開く事が出来て満足だ。

©︎甲士三郎

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