鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

87 仄暗き花園

2019-05-02 15:31:34 | 日記
---白牡丹息づいてゐる仄暗さ---(旧作)
毎年何千何百の牡丹を見て来ると眼が贅沢になっていて、八幡宮の牡丹園に通っても過去の花より良い花は一輪も見つからない事が増えた。
絵の新作に使えると思える花はもう数百輪に一つしか無い。
千年以上に渡り描き続けられて来た画題だけに、美の基準も高くなるのは自明だ。
そんな時は絵の取材から幻視に切替えて楽しむようにしている。

今日は花の精を幻視するのに良い参考になりそうな写真が用意出来たので、簡単に解説しよう。

(散りしきる八重桜の中の牡丹)
中国の古典には花の王、牡丹の精の話がいくつもあって、官吏を引退したら精達と共に牡丹園をやりたいと言うのは士大夫達に共通の夢でもあった。
そんな千年の先達等の想いを深く噛み締めて眺めれば、散り敷く花屑の寂光土に出で立つ花精の姿を幻視し易いだろう。
また写真のブラックポイント調整の技術があれば、そのビジョンを現世に固着する事も出来る。
現実の景を見ながら上の写真のようなイメージを想起できる人なら、日々深い喜びの尽きない精神生活が送れると思う。
下に現実そのままの写真も添えておくので、違いを感じ取って欲しい。

(同じ場所からカメラ任せのフルオートで撮った写真)

牡丹園に行くなら、ここ十数年の気候変動で鎌倉の牡丹の花季は10日から2週間ほど早まっているので要注意だ。
またスケッチや写真の取材なら、ほとんどの花は昼過ぎると花が開きすぎたり萎えて来て駄目になるので、夜明けから午前10時頃までが勝負時となるが、牡丹園や薔薇園は大抵9時頃から開園なので時間は正味1〜2時間ほどしか無い。
ただ曇り日や日陰の花なら午後まで保つので狙い目だ。
花精と出会うには刻を選ぶ必要がある。

---双牡丹寄り合ふほどにひしゃげ合ひ---(旧作)

牡丹が終れば菖蒲園、薔薇園と出掛ければ、此の所の隠者の愉悦は尽きない。
芸術論でも交わせる友人がいれば共に花園に赴き、清雅なガーデンティーでも味わうのが美しい人生と言うものだ。

もう一枚おまけで、仄暗き花園。

天候が不安定な中も今年の牡丹園は結構満足出来る写真が撮れて、隠者としては深化出来た終春だった。
(句歌方面は不出来極まる)

©︎甲士三郎

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