連休中は鎌倉の人混みを避けて家に引籠っていたところ、気が付けば牡丹も芍薬も盛りを過ぎてしまい取材に行き損なった。
更に我が谷戸のあやめももう終ろうとしている。
本来は旧暦の端午に咲く花が、今年は3〜4週間早かった。
黄あやめは永福寺跡の池や周りの水路のあちこちに咲いている。
若い頃の旅の思い出の畦道や水辺に咲いていたあやめも大半が黄色の花だった。
そんな昔からの思い入れがあって私の絵ではあやめは黄色、菖蒲は紫と決まっている。
ちなみに杜若なら水色に近い薄紫だ。
我が谷戸の5月の明るいイメージは、この黄あやめが主色となっている。
この御近所の薔薇垣は毎年見事に咲いて行く人を楽しませてくれる。
本は上田敏の「牧羊神」初版。
「牧羊神」には訳詩では無い上田敏自らの詩が数編あり、あまり知られていないがかなりの出来映えだ。
牧羊神を日本の神々にでも置き代えれば立派な文語韻律の新體詩の名作とも言えよう
薔薇の香りに佇んでこの詩を読めば、そのままアルカディアの神話世界に浸れるだろう。
薔薇は元来ロドス島の太陽神ヘリオス由来の花なので、海光明るき鎌倉の地にも良く似合う。
ただ残念ながら鎌倉文学館の薔薇園が建物の改修工事のため3年間休館で、隠者の薔薇の取材は大船植物園まで行かざるを得なくなった。
ーーー仄暗き小園の書庫に千万の 詩歌を集め薔薇で囲へりーーー
散歩ついでに家人に柏餅でも買って帰りお茶にしよう。
画軸は池田輝方の美人画。
輝方は鏑木清方門で池田蕉園と夫婦して人気作家だったが、惜しくも2人とも若くして亡くなっている。
あまり知られていないが、日本画ではこの二人が最も大正浪漫を感じさせる画風だった。
彼らの代表作はネットの画像検索ですぐ見られる。
画中の菖蒲を現代に呼び出すように飾り、時を超えてこの薄命の夫婦の生きた美しき時代を偲ぼう。
鎌倉も立夏を迎え戸外ではマスク不要となり、薫風の散歩路には開放感が満ちて来た。
5月はなるべく戸外へ出て、近年の引籠り出不精の癖を治して行きたい。
©️甲士三郎