鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

284 早春の古丹波

2023-02-16 13:00:00 | 日記

春の野の花には素朴な古丹波の花入が良く似合う。

古丹波と言っても六古窯時代の物ではなく、江戸後期〜明治頃に焼かれた壺や徳利が野の花を入れるのにぴったりなのだ。


可愛らしい土色の小壺にちょっと菜の花でも投入れれば、この花入が生まれた時代の美しき丹波篠山の田園田家も目に浮かんで来よう。



(古丹波双耳小壺 傘徳利3種 江戸後期)

暖かき春の日は野辺に座して花と戯れ家に帰っては古陶と遊び、美しき夢のような時はあっという間に過ぎて行く。

古丹波は一昔前までは日用雑器扱いでかなり安く購入出来たので多様な色形の物が結構集まっていて、この花にはどの花器が合いそうだとか悩む時間もまた楽しい

そんな時間のBGMはどう足掻いても洋楽は丹波には似合わないので、近年驚異的な進化を遂げた中国のミュージックシーンで老師と敬される林志炫(Telly Lin)のアルバム「One take」にしよう。

この人の音楽は現代的ながら中国江南のノスタルジックな田園風景を喚起させる物があり、明治大正頃までの日本の農村のイメージにも通じる良さがある。


古丹波はまた閑寂な文人画や俳書とも相性が良い。



(直筆句軸 富安風生 古丹波瓢箪徳利と柿右衛門香炉 江戸時代)

富安風生の句はたわい無い茶飯事の中に滋味を感じる物が多い。

「早春や狭庭なれども梅椿」風生

平凡な上に季重なりのとぼけた句だが、我家の早春の情景にはぴったりだ。

それに合わせて花器もひょうげた瓢箪形の徳利を選んだ。

これが和歌短歌だともう少し高雅端正な花器でないと合わないだろう。


花入類も長年の間にだいぶ増えて置き場所に困り、次第に大きな物は庭にはみ出して行った。



(古丹波古備前など 本は柳宗悦著 丹波の古陶 初版)

大甕には蓮が植えてあるが、他の壺や大徳利は使う時だけ屋内に入れ替える。

こんな荒んだ景も半分草に埋もれて来ると、柳宗悦が語っていた丹波の古窯跡のような趣きが出て今は結構隠者好みの景色だ。

春の八千草の中に据わる破れ壺には野武士のように居直った貫禄がある。

近年は各地の美術館記念館などが地元の古窯の調査や展示を盛んに行ない、昨年には東京と京都で柳宗悦と民藝展を大規模に開催したために、古民芸の価格も上がり隠者にはもはや手が届かなくなってきた。

我が荒庭の古陶たちはもうこれ以上増える事も無く、このまま草に埋もれて行く定めだ。


ーーー草萌に埋まる壺の口ぽかんーーー


©️甲士三郎