昨年末に飯田蛇笏と龍太の句集随筆集が纏めて手に入った。
運良く全て初版にもかかわらず意外なほど安価で、早速この寒中に読み耽っている。
この俳人父子の良い所は陶淵明以来伝統の田園詩人であった事だ。
(山盧集ほか飯田蛇笏句集 全て初版)
「芋の露連山影を正しうす」飯田蛇笏
飯田蛇笏の代表句は以前から読んでいて驚きは無いが、今回の新たな収穫は彼の句や随筆に描かれている詩的な田園生活そのものにある。
甲斐の豪農名家である飯田家は、隠者の夢幻の楽園や陶淵明の理想の田園にも通じる暮しを営んでいる。
さらに大正から昭和初期の農村の風習や生活文化なども参考になる。
甲府盆地が桃の名産地となるのは戦後だが、それ以前からも春は梅杏桃の花咲く桃源郷であったようだ。
私も若い頃何度かその時期に絵の取材に行って感動した覚えがある。
蛇笏句集と同時に息子の飯田龍太の句集も揃いで買えてしまった。
(百戸の谿ほか飯田龍太句集 蛇笏随筆集 全て初版)
「一月の川一月の谷の中」飯田龍太
向かって左が龍太句集と随筆集で、右は蛇笏の随筆集。
お弟子さんかそのご遺族筋から出た物だろうか、句集随筆集まとめて入手できる機会は滅多にない。
珈琲器と菓子皿も戦前昭和の古民藝を使って、蛇笏龍太父子の当時を偲ぶよすがとしよう。
龍太も兄の戦死により家を継ぎ、蛇笏と同じ山盧に暮した。
写真集を見るとこれ以上の良い生活は私には考えられない程の理想の田居書屋だ。
隠者は彼等の句の良さよりも、如何にも地方旧家らしいその暮しの方が羨ましい。
飯田父子と同時代(大正〜戦前昭和)の冬の田家の画軸があったので掛けてみた。
(田家雪景図 鈴木福年)
現代ではどの地方でも風情のある茅葺家屋は壊滅してしまい、もはや画中に夢想するしかない。
こんな静寂の中に三冬を籠って詩書画三昧に過ごしたいものだ。
今の鎌倉では雪は年1〜2度うっすら降る程度だが、戦前は年に5〜6回は降っていたのを文士らの日記や随筆で読んだ。
我が画室も折角雪見障子にしてあるのにほとんど無駄になっている。
せめてこの画中の人影を己れと重ね、蛇笏龍太の描いた冬の風物風習に親しみ、古き良き田園生活の夢幻に浸ろう。
ーーー大正の雪の田家の絵の中に まことの我が暮してをりぬーーー
©️甲士三郎