鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

263 隠者の収穫祭

2022-09-22 13:00:00 | 日記

我が荒庭の隅に彼岸花が咲き出したが、今週末も予報は嵐か雨続きのようだ。

この春と同じく本当の秋日和はほんの数日しか得られぬ気がする。


ともあれ隠者は通例の収穫祭を仕るため近所で地元産の秋野菜を買ってきたので、しばし床の間に飾って楽しもう。



(菊画賛 高久靄崖 刳り貫き漆膳 江戸時代)

鎌倉の谷戸も戦前までは田畑の広がる農村だった。

今の農業の現場はもう少し三浦半島寄りに移ったが、鎌倉野菜と言うブランド名で結構売れている。

後ろの文人画は高久靄崖の作で詩は

「不着老園秋容淡 猶有黄花晩節季」

晩秋の詩で少し早い気もするが、もう重陽も中秋もとっくに過ぎているのだ。


次は我が荒庭での収穫。



(菊瓢箪画賛 田能村竹田 織部湯呑 木椀 蝉籠 江戸時代)

庭の草の穂と小菊を古びて飴色になった籠に入れた。

茶菓子は小粒の栗饅頭で、これ一粒なら私でも食べられる。

最近はカロリーを気にする人が増えて、他の和菓子も小粒の物が売れているらしい。

また私の江戸後期文人達の古書画の研究収集も、近年の疫病禍による京都方面からの大量放出により大収穫となった。

この竹田の絵は菊児童の伝説にある菊の露を瓢箪に溜めている場面で、俳句は「しばしまて果は飲ます菊佻理」。

陶淵明はじめ昔の文人賢者達は皆菊の花が大好きで、詩書画にも名作が沢山残されている。

それが現代人に取っては一年中何処にでもあって、仏花や葬式花の印象で抹香臭く縁起の悪い花になってしまったのが残念だ。


祭に音楽は欠かせない。

収穫祭ついでに近年の音楽方面での世界的な収穫を紹介しよう。

この10年ほど日本やアメリカがマーケティング優先の売れ筋アイドル路線に退化している間に、後進と言われていた国々が歌の魂の次元で遥か高みへ行ってしまったのだ。



写真は京劇の花旦(女形)の伝統にカウンターテナーの歌唱法を加えて降臨した漢文明3000年の美の精華「周深」だ。

もう貴種としか言い様の無いその高く澄みきった歌声と表現力は、これまでのファルセットとも違い全ての音楽ファンに未知の感動をもたらすだろう。

お薦めの曲はiTunesでは「相思」「大魚」、YouTubeでは「いつも何度でも」「天下有情人」等。

アジア全域の特に女性達に絶大な人気があり、動画の視聴合計は数十億回にも昇る。

もう一人はカザフスタンの「Dimash」。

驚異の6オクターブの音域を自在に操るパワーボーカルで大草原の天翔ける神狼だ。

彼もロシア中国を中心にヨーロッパからアジアまで幅広い人気を誇っている。

代表曲はiTunesで「Your Love 」他。

この二人共アポロンの恩寵か妙音天の加護か、若くして気品を纏う眉目秀麗な美青年でもある。

ーーー若き日に戻してくれる曲ありて 日翳る窓の外はまた秋ーーー


そのDimashが玉置浩二の「行かないで」をYouTubeで歌っていて(Ikanaide)これが正に絶唱なので是非ご一聴あれ。

実はこの曲は若い頃から隠者のカラオケの得意曲で、ひときわ深い追憶の想いがあるのだ。

ーーー溜息の如き声にてふるさとの うた歌ふべし老いて震へてーーー


©️甲士三郎