暦の立秋はとうに過ぎたものの、もはや9月末まで真の秋は来ない。
この8月9月の酷暑の2ヶ月間は、これまでの日本に無かった新しい季節と言えよう。
隠者にとっては夏安居をひと月以上延長するような暮しだが、なんとか新しい楽しみ方を工夫しようと足掻いている。
ーーー夕星の紫金の天地晩夏光 薔薇の小園の黄昏長しーーー
伝統的な季語にも残暑とか処暑とかの語はあるが、私は晩夏と言う呼び方にしている。
夏が伸びた事を人生の壮年期が伸びたように捉えれば、少しは良い時節と感じられるだろう。
晩夏、黄金期、黄昏季などと言葉を選べば、美しき詩想も湧いて来よう。
晩夏の薔薇は、英雄叙事詩が終わった後のロードス島のヘリオスを想わせる。
英雄達亡き後、エーゲの人々の長き夏はどんな暮しだったのだろうか。
買物を済まし夕食介護の前の黄昏時は私には貴重なゆるりと出来る時間で、蜩の声が響く中で近所の散歩や庭前でぼんやりと思索に耽っている。
ーーーかなかなの声白日を鎮めけりーーー
彼岸頃までは炎昼を避けて早朝か日暮にしか散歩に出ない。
ここは永福寺跡の山際で橙色の花は狐の簪。
晩夏の野の端にひょろっと顔を出す。
この気候変動の中では例年と同じ所に同じ花が咲くだけでも喜ばしい。
薄暮の時は野の草木もゆったり息づいていて、やがて遠蜩の声も聴こえなくなれば夕食だ。
今年の盂蘭盆会は親族も集まれず高齢者の外出自粛令で墓参も行けないが、小棚を設けて一応細々と行った。
鎌倉の鬼門守護職としては滅却した餓鬼亡者等に対する施餓鬼は欠かせない行事なので、供物の菓子だけは多めに買って来た。
まあ餓鬼共にも今のコンビニの菓子類の美味さはわかるだろう。
今年また鎌倉宮の盆踊りも八幡宮の秋祭りも中止で、秋の諸行事は庵中でひとり楽しむほか無い。
元々温暖な鎌倉は春の到来は早いが秋は遅々として訪れず、長い夏は若者ならマリンスポーツ等で楽しめるものを隠者には似合わない。
誰か楽しく詩的な晩夏の過ごし方をご存知なら是非御教示願いたい。
©️甲士三郎