鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

252 涼風の掛軸

2022-07-07 13:03:00 | 日記

ーーー画中竹渓呼涼風ーーー

早すぎる梅雨明けでこの先9月末まで3ヶ月の猛暑の間、精神面の清浄を保つには電力に頼った処暑だけで無く一層の工夫が必要だろう。

まずは床の間や机上には少しでも清涼感のある書画を掛けたい。


夏の宵には絵の中から涼風が吹き出して来るような掛軸が良い。



(月明竹渓図 浅野静洲 明治時代 山陽遺稿 江戸時代)

竹林を行く小流れから微かな水音と涼風が我が画室に通う。

古い詩書画には圧倒的に春と秋の物が多くて夏物は最も少なく、その中でも高雅清澄な作品を入手するのは中々困難だ。

しかし昨今のテクノロジーのお陰で、山中に隠棲しながらも膨大なネット上の品揃えから予算に合った物を選べるようになった。

エアコンは物質的には十分涼しく有難い物だが、精神的な暑苦しさや閉塞感を和らげるには詩書画や美術品の方が上なので諸賢も是非お試しあれ。


次は正岡子規の珍しい大景の句。



(直筆短冊 正岡子規 明治時代 古染付雲龍紋瓶 炉鈞窯水差 清朝時代 白磁碗 李朝時代)

「かみなりの雲をふまへて星すずし」子規

彼方に湧き立つ積乱雲とその上に広がる星空を詠んでいる。

子規は闘病時の庵内外の句が多い中で、こんな爽快な心持の時もあった事が嬉しい。

明治人らしい大らかさと気宇がある。

この句で涼めるか否かは、如何に子規の心情に観応出来るかで違って来る。


一夜明けて今日は新暦では七夕だが、隠者は旧暦で暮しているので本番は来月だ。

そうは言っても鎌倉中七夕飾は今しか無いので、取材だけはしておいた。



古き良き時代の人々に取って、七夕祭はさぞ夢幻の美しさと涼しさに満ちていた事だろう。

八幡宮の舞殿は星空も見渡せるので七夕飾には適した場所だが、鎌倉は今年も曇りか小雨の予報だ。

もう何度か話したが薩長明治政府の新暦令は産業面では良しとするも伝統文化の季節感は全く考慮せず、特に関東周辺では強制的に行事の時期を変更させた。

政令の行き届かなかった地方では今でも旧暦の七夕が残っている所は多いので、諸賢もせめて個人の自由が効く範囲で七夕と星祭くらいは梅雨場を避け旧暦で行っては如何だろう。


©️甲士三郎