前回の理想郷に続いて詩人の住むべき家、我が夢幻界の庵を語りたい。
決して前回使い残した写真で横着しようと言う意図では無い。
結論から先に言うと、詩人文人の理想の家は深山幽谷の中の茶室風の草庵だろう。
天霊地気の満ちる山河に暮らし、日々詩魂を鍛えるイメージだ。
(九谷色絵皿 大正時代)
「詩魂を鍛える」とは卑小な自我を滅却して自然と同化し、大自然に匹敵する雄渾な精神や強靭な生命力を鍛える事だ。
詩人も若い頃は苦悩する都会人で格好は付くが、そのまま歳を取ると多くの鎌倉文士のように行き詰まり自決の道に踏み込んでしまう。
古陶磁の山水画では水墨画の影響で染付の青一色の物に良い絵が多く、画軸の水墨画よりも適度に簡略化されていて身近に感じられる。
(古伊万里染付皿 大正時代)
長年少しずつ買い足して増殖してしまった染付山水の絵皿の中で、どの景色が一番良いか選ぶのも楽しい。
この小皿は時代は古くないが、絵の構図が整っていて落ち着いて見られる。
2枚目は異世界風の絵皿。
(古伊万里染付皿 江戸時代)
湖上の小島に立つ不思議な形の果樹は桃だと思う。
上部左に太白と雲、右に群鳥、少し下に天地逆さまに見える山並み。
ここは我が夢幻界の別荘にしたい。
隠者が最も気に入っているのは、下の古伊万里に描かれた風景だ。
このような草庵に住んだなら、ここで子供達のためのファンタジー小説を書いて暮したい。
(古伊万里色絵皿 明治〜大正時代)
この2枚の皿は同じ画工の筆で、作者本人がこんな水辺のイメージを大事に育てているのがわかる。
作者にとっての理想を描いているから完成度の高い楽園になっている。
これは現代日本人が失なった楽園に向けて開く夢の扉のような絵だ。
©️甲士三郎