こ も れ び の 里

長崎県鹿町町、真言宗智山派、潮音院のブログです。平戸瀬戸を眼下に望む、人里離れた山寺です。

涅槃図に猫が描かれていない理由の物語 あれこれ

2012年02月15日 | 仏教

  この娑羅樹にかかっている赤い布袋は、
お釈迦樣のお袈裟と托鉢の時の必需品である鉢を包んだものです。
でも、後世さまざまな絵解き説法が展開していくにつれて、
袋の中身まで変化していきます。
そのきっかけが、「涅槃図に猫が描かれていない理由」のようです。

    

この袋の中身は「起死回生のためのお薬」であるというお話です。
お釈迦樣のおかあさん摩耶夫人は、釈迦を産んで七日目に亡くなられ、天に住まわれていました。
釈迦が亡くなられた報告を受けた摩耶夫人は、布袋に起死回生の霊薬を入れて天から降りてきます。
しかし、たくさんの鳥たちがその行くてを邪魔して降り立つことができません。
困った摩耶夫人は、錫杖に薬袋を結わいて投げ落としました。
でも、その袋は娑羅樹にひっかかり、お釈迦樣まで届きません。
そこでネズミは、木にひっかかった薬袋を取りに行こうとしますが、
猫がそれを邪魔したために、結局釈迦は薬を飲むことができずに亡くなられました。
これが、涅槃図に猫が描かれない理由だということです。

で、もう一つの物語が、「十二支の順番」が決定したお話です。
釈迦が亡くなられそうだと最初に知ったのが牛。
牛はネズミを頭にのせて駆けつけます。
途中で昼寝をしている猫に会いますが、日頃から快く思っていないネズミは、
声をかけませんでした。
釈迦の元に到着したネズミは、牛の頭から勢いよく飛び降りて一番に到着しました。
で、ネズミ、牛、寅、ウサギ、竜、ヘビ・・・という順番が決定したとか。
結局、猫は釈迦入滅に姿を現すことができなかったということ。

おそらく、こんなお話が展開したのは江戸時代だと思われますが、
薬袋の到着を邪魔する鳥たち、それを必死にどうにかしようともがくネズミ、
そのネズミの行為をさえぎる猫。
このそれぞれの描写に、諸行無常、会者定離、愛別離苦の現実を現実として受け入れるための、
大切な導きが表現されているようでなりません。


 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (末娘)
2012-02-18 18:53:47
ネズミよりネコのほうが役に立ちそうだし、可愛がられて居るのに可哀想な気もしますが。
こんなふうにしてお話をお伺いすると面白いですね
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おもしろいですよね。 (石田光洋)
2012-02-19 15:14:43
 おそらくこの涅槃図は、江戸中期頃の作品だと推察されますが、江戸時代ってのは、ある意味日本文化が最も腰を落ち着けて花栄える熟成の時代だったような気がします。文学も哲学も美術芸術も、世界的にとても優れた作品を残してありますもんね。仏教にかかわる人たちも、現在の日本仏教のベースを確固たるものに築き上げました。
 猫のお話も、釈迦仏教を深く理解するための一つのきっかけとして作られたんではないかな?などと思ったりします。実は、悪者扱いの猫ではありますが、京都東福寺には、きっちり猫ちゃんが描かれてあります。この猫の描かれたわけも面白いですよ。
 それで、今回猫の話題をお話ししていたら、佐世保中里にあります「東漸寺」というお寺の住職さんから、そのお寺の涅槃図画像が送られてきまして、なんとその涅槃図にはかわいい「猫」ちゃんがきっちりしっかり描かれてありました。参りました。
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