天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

永井するみ『グラニテ』

2022-04-24 06:37:47 | 

2008年7月発行/集英社


読者メーターでmazdaさんが以下のようにいう。
【ネタバレ】かなり面白かったです! 夫を早く亡くした万里は、娘の唯香を育てながらカフェを切り盛りしていました。そんな時、映画監督の凌駕が外観を撮影したいと万里のところにきてから、二人の関係が始まります。万里の作るグラニテのことを知り、凌駕に映画のアイデアが浮かび主役に唯香を出したいと主張します。唯香も映画出演を快諾し万里もOKを出しますが、このことがきっかけで親子の距離が一気に離れていきます。映画撮影を続ける中で、唯香の凌駕への思いが一気に膨らんでいき、母親とライバル関係に…。最後はどうなるのでしょうか…?


このていどはネタバレでないので本の内容紹介として引用した。
小生もmazdaさんと同じくかなり面白いと思った。なんといっても「グラニテ」なる氷菓にすべてを象徴させたところが秀逸である。
グラニテは果汁や砂糖。またはリキュールなどを加えて作ったシャーベット状の氷菓のこと。
主人公万里が娘の唯香を送り出してからグラニテ作りを始めるところから物語は始まる。
熱い湯で濃く淹れた紅茶には砂糖を溶かしておく。リンゴは芯を取り除き、皮ごと適当な大きさに切ってミキサーにかけ、レモン汁を振りかける。そこに紅茶を注ぎ、再びミキシング。バットに流し入れて、冷蔵庫に入れる。
ここで一息。でも気を抜いてはいけない。このタイミングと、どれくらい丁寧に、あるいは荒っぽくやるかによってでき上りがまるで違ってくる。適度にザラメ状の美しいグラニテになるのか、それとも、がりがりに凍った巨大なアイスキャンディー、というか、アイスプレートになってしまうか。


グラニテ作りのスリリングさ、これが17歳の秘めた好奇心が開花して自我を拡大していく唯香と、43歳で夫に先立たれて年下の映画監督を恋人にしながら先行の不安を抱く万里との橋渡しのように作用する。娘と母は同じ男をめぐり俗にいう争奪戦を展開することになる。
17歳と43歳という女性、それが娘と母であるという設定は絶妙だと思った。輝きはじめる女とそれを懐かしむ女。
娘は母の作ったグラニテで育ち、そのグラニテで旅だっていく。具体的にいえば、映画の中でこの氷菓を男優が食べる場面が映画のテーマの極致になる。これを詳述すれば完全にネタバレ。
そういう意味でグラニテという表題は絶品である。この氷菓の繊細さが二人の女の心理をみごとに描いている。
永井するみはつくづく優れた作家だと思う。

コメント
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