月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

子供の科学サイエンスブックス 『きのこの不思議』

2012-10-07 19:14:13 | キノコ本
『きのこの不思議 きのこの生態・進化・生きる環境』 保坂健太郎

誠文堂新光社「子供の科学・サイエンスブックスシリーズ」として今年出版された一冊。

著者は若手の菌類研究者・保坂健太郎氏。世界をまたにかけたキノコ採集とDNAによる系統分析で脚光を浴びている、現在ホットな人物だ。

(『はじめに』より引用)
『きのこの研究は名前を知ることで終わりではありません。むしろ、それ以外の大きな謎がたくさん隠されている、それがきのこの世界なのです。
この本では、まずきのこの生き方や体の構造、色や形の謎について説明します。それから、僕自身が行っている研究内容について、世界中での野外調査の様子を紹介しながら、体験してもらいます。最後に、実際にきのこを研究するためにはどうすればよいかを紹介します。』

うおっ、なんか志(こころざし)が高い!研究者育成が目的なのか!ちょっとワクワクしながらページをめくる。

生態、分類、進化、分布……以降、トリュフの謎や、キノコ化石など、並の図鑑では知ることができないようなきのこの秘密が明かされていく。ふおー、スゴイぜ!

保坂センセイ!ひとつだけいいですか?

子供にはムズカしすぎます!

『きのこでユニークなのは、菌糸が融合した後も、核は合体せずに、別々に居続けることです。』(二次菌糸の説明)
『アミノ酸配列は種間で異なるだけでなく、生物種が進化の過程で枝分かれした(分岐した)年代に相関がある、というのが基本的な考えになります。』(分子時計について)

ちょっと待った、これ小学生向けじゃなかったっけ?漢字に全部ルビふってくれるような本なのに、しれっと書いてあることが実は高校レベルって恐ろしい本だよなー。そういえば昔、NHKでやってた番組を思い出す。『ジーンダイバー』だったか。見た目は「子供の科学」的な甘めのSF実写×アニメなのに、シナリオがめちゃくちゃ気合入ってて、出てくるネタも、ゲノム解析で時空ワープとか生物コンピュータとか、超高度だった。もちろん意味分かんなくて、でもまあわかんなくても雰囲気はわかるっていう内容だったのが良かったんだけど。

そうか、それと同じなんだな。

子供だからって、甘アマな内容を書いていては子供に向上心がわかないし、できる子なら読んでてなんだか舐められているような気分がするに違いない。いや、それより何より、わからないからこそ燃えるのだ。ここはあえて子供に媚びずに難しいことをストレートに書き、その未知へ好奇心をかきたてる。ついでに学者のカッコ良さもアピールしちゃえ。「ボクも大きくなったらキノコ学者になる!」そう言わしめるために!

……て、ゴメン、自分でも言ってる意味がわかんなくなってきた。

本の後半では、「はじめに」での公約通り、センセイの研究生活を披露。ニューカレドニアやパプアニューギニアも探索!なんだかすげー内容だ。子供に読ますにはもったいない。こんなトコじゃなくて、一般書で書いておくれ。でもなんか研究生活がすごい楽しそうに書いてあるので、これを読んでキノコ研究者の道を志す子供も本当に出てくるかもしんない?



小学生の理科・副読本ライクなその外見に反して、まったく侮れない内容。うっかりすると大人でも厳しい。

それにしてもこれで本当によかったんだろうか、誠文堂新光社サン。子供のキノコ英才教育向けに本出すなんて、もう採算度外視もはなはだしい気がするんだけど……まあいいや、本自体は面白いからそれでかまわん事にしよう。



世界各地のキノコ紀行。もっと詳しい話聞きたい。あと、保坂先生が黄色い服好きなのがよくわかった。