月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

アミガサタケ栽培は儲かるのか??

2020-04-25 21:24:12 | キノコ栽培
さて、先日に日本初のアミガサタケ栽培の記事を書いたが、商売として見た場合、アミガサタケ栽培はどうなんだろうか?検証してみよう。

まず、前回に紹介した中国のブラックモレル産地からの動画が、せっかくビジネスについての情報盛りだくさんだったので、その内容を紹介しよう。なお、金額に関しては《1元=15.5円》で換算している。

まず、気になるのがアミガサタケのお値段
アミガサタケ優良品は1本が平均10g(中身が空洞なので見た目より軽い)で、約30円。キロ当たりにすると3100円だ。
品質の劣る一般品はキロ当たり2160円の値がつく。
うまく育てれば優良品率は7割ほどなので、平均するとキロ当たり2800円ということになる。

ちなみに日本のキノコの卸価格を見ると、エノキタケはキロ当たり200円前後、シイタケは1000円前後、それ以外のキノコはキロ当たり400~500円と言ったところだから、卸価格で2000~3000円がつくアミガサタケは高価なキノコだと言っていい。

では土地あたりの生産性はどうだろうか。
中国で標準的な200坪(正方形にしたら26メートル四方、小学校の25メートルプール2つ強くらい)の畑で、うまくやれば200キロ採れるそうだから、56万円の売り上げがあることになる。あれ?意外と少ない?
中国の給与水準は近年うなぎ登りで、特に都市部の中間層では日本人の平均を上回ってきているくらいだが、農村地域はいまだ置いてけぼりで、その平均年収は100万円に届かないと言われている。
アミガサタケ栽培は、あくまで冬の裏作で、夏には夏の作物が育てられるから、それを考えれば悪くない収入なのではなかろうか。

また、アミガサタケは乾燥品として流通させられるのが強みだ。乾かすと重量が15%まで減ってしまうが、値段は10倍以上(キロあたり25000~37000円)で売れるようになる。乾燥品にすることで経費と手間はかかるが、うまくすれば売り上げを100万円近くまで伸ばすこともできる計算になる。


今度は、日本国内を見てみよう。
アミガサタケは日本国内でも採ることができるが、販売するほど採るのは難しい。仮にキノコハンターが血眼になって採ったとしても、せいぜい数十kg止まり。乾燥したら5キロくらいだ。高級料理店に直接卸すくらいはあるが、市場に出回るほどではない。市販で出回っているのはほぼすべて乾燥の輸入品だ。フランス産が多いが、フランスで袋詰めしたというだけで原産国は別だったりすることも多い。パキスタン、チリなど。
市場価格を見ると、20g入りの袋に2500円とか3000円とかいう値がついている。キロ当たりにすると、120000円~160000円ってところか。さきほどの中国の卸し価格の4~5倍。ひとつ桁が違っている。

中国で採れた200キロのアミガサタケが、もしこの値段で売れたとしたらいくらになるだろう。200キロの生アミガサタケを乾燥すると30キロになる。これをキロ当たり14万円で売ったとすると!420万円!!やったーーー!!

だが、ちょっと待ってほしい。これは、あくまでも小売り価格だ。フランスから輸入された天然モノとしてのプレミアもついている。もし国内で栽培を始めたらこの値段がつかないことは頭に入れておいた方がいい。そう考えると、中国の倍の価格・キロあたり50000~75000円くらいが妥当な線じゃないかなぁ。だとすると一回の収穫で150~225万円か。うーん、だいぶ大人しくなったな。


さてさて。ここまでこまごまと電卓を叩いてきたのだが、実はアミガサタケは、他の栽培キノコと比べると大きな足かせがあることにお気づきだろうか?

それは「畑が要る」という足かせだ。
キノコの菌床栽培では、菌床のビンやブロックを棚に並べることで何段も重ねることができる。そのおかげで、狭い土地でもたくさんの菌床が並べられるから、高い収量を上げられる。だがアミガサタケは畑でしか育てられないので、上に積み重ねることはできない。
この時点で生産効率は半分以下だ。

さらに、もう一つの足かせがある。それは「回転効率が悪い」ということである。
中国の栽培を見てわかる通り、これは冬から春にかけてしか行われない農法だ。年に一回。

一方で、日本の他の菌床栽培は、ひとつの施設で年に何回も収穫することができる。大規模な空調施設を持っているところならば、休みなし365日態勢で生産し続けている工場も多い・・・というかそれが普通だ。

仮にアミガサタケ畑をフル稼働することを考えると、年に何回くらい栽培できるだろうか。一回の発生にかかるのが40日。でも収穫が終わるまでに少なくとも10日くらいかかるだろうし、準備や片付けも必要だから、最低でも60日は必要だろう。そうすると、最大で年6回収穫することができる。
実際には真夏の栽培は困難だし、そもそも季節外れにアミガサタケがちゃんと育つ保証はない。その上、続けて栽培し続けると病気が発生し収量が落ちていく「連作障害」が起きる心配もある。そういった技術的な困難をぜんぶクリアしたとして、それでも年4回くらいが限界じゃなかろうか。

さっきの一回当たりの売り上げを4倍してみよう・・・すると!!年商600~900万円!!
うーん、でもこれMAXうまくいった場合の、しかも売り上げだからな。この広さだと一人でやるの厳しそうだから人件費かかるし、土地やハウスはもちろん、菌床を作ろうと思ったら専用の設備もいる。菌床の殺菌や暖房には燃料が要るし、おが粉代、タネ菌代、水道代、培養施設のランニングコスト、その他諸経費を差し引いたらどのくらい残るんかな・・・。
あれ?けっこう微妙じゃないか??

ここまで計算してきて重大なことに気づいてしまった!!
アミガサタケ栽培はあんまり儲からない!(+o+)

欧米で栽培法がそれなりに確立してるっぽいのに大々的に栽培してる気配がないのは、もしかしたらこういう理由によるのかもしれない。
それでもアミガサタケ栽培がしたい!という人のために、いろいろ前提条件を考えてみよう。

①乾燥アミガサタケは高級料理店やホテルに直接ふっかけてキロ10万円で売る!
②菌床は購入する。アミガサタケを植えろといってゴリ押しできるような、とっても優しい菌床メーカーが好ましい。
③放棄された農業ハウスをタダ同然で借り受ける。だいじょうぶ、捜せば見つかる!あ、ついでに井戸がついてるといいな♡
④アミガサタケを愛でるためならボランティアで働けるという、天使のような労働力を見つける
⑤副業を持つ

どうだ!これならバリバリ儲かるぜ!!

長々と書いてきてこの結論かよ(^-^;
ハルカインターナショナル、がんばれー!

日本初のアミガサタケ栽培!

2020-04-16 22:34:00 | キノコ栽培
先日、岐阜県に本拠をおく株式会社・ハルカインターナショナルから、センセーショナルな発表があった。

『日本初・アミガサタケ(モリーユ)の人工栽培に成功』

ハルカインターナショナルと言えば、キノコの菌床栽培として日本で初めて有機野菜規格(有機JAS認証)を得たのをはじめ、国内初のキヌガサタケ栽培、さらにそれを足がかりに循環型社会を目指す事業提案(SDGs)、おまけにクラウドファンディング募集など、旧態依然だった業界に現代的ビジネスの旋風を巻き起こしている、いま注目の企業だ。

そしてアミガサタケ。またの名をモリーユ!またはモレル!
春の訪れを告げるキノコとして広くヨーロッパで愛されており、食用キノコとして高い評価がある。
特にフランスで好まれ、キノコの王様・ヤマドリタケに匹敵する価値を持つほか、「筋金入りのキノコ後進国」とすら言われるイギリスやアメリカでさえも人気がある。アメリカには「モレル・フェスティバル」を開催する町もあるらしい。

その人気ゆえ、アミガサタケ栽培を夢見る者は多く、過去に幾人もチャレンジしてきた。しかし、そのほとんどが失敗するか、または部分的に成功するものの、安定した生産が難しく商業ベースに乗らない、などと聞いていたが・・・。

調べてみると、なんとこの10年ほどの間に、中国でアミガサタケ栽培が確立されたようで、かなりの量産に成功している、との情報があった。え?10年?けっこう前からやってるやん!聞いてへんぞ。
で、意外なことに、YouTubeで検索すると動画がたくさん落ちている。栽培技術とかさぞかし難しくて社外秘にしてるんじゃないかと思ったら、けっこうコアなことまで公開している。すげー、オープンだわ中国。

中国で栽培されているアミガサタケは、イエローとブラックの2種類ある系統のうちのブラックの方。
日本ではトガリアミガサタケに代表される、こげ茶色で先端の尖ったタイプのアミガサタケだ。

中国のアミガサタケ栽培についての論文にはMorchella importuna (モルケラ インポルトゥナ・・・学名。和名はついてない)という種類が使われると記してあるが、現地の栽培品種がすべて同種かどうかはよくわからない。

現地では『羊肚菌(ようときん・イァンドゥヂィン)』・・・”羊の臓物キノコ”と呼ばれている。羊の臓物などと言われてもなんのこっちゃわからんだろうが、焼肉の『ハチノス』といったら分かる人がいるかもしれない。ちょっとマイナーな焼肉の部位で、牛の第二胃(牛は胃が四つある)の肉のことを指すが、『羊肚』もおそらくハチノスと同じ役割を持つ臓器だ。表面が蜂の巣のように多角形の凹凹で覆われており(グロテスクゆえ閲覧注意)見た目がアミガサタケに似ている。

アミガサタケは菌床をつかって栽培するが、シイタケやエノキタケのように棚にならべるのではなく、畑に埋めて育てる。アミガサタケを育てるには菌糸が菌床に蔓延するだけでは足りなくて、「菌核」という菌糸のカタマリを作らせないといけないのだが、それは土の中の微生物の力を借りないとうまくいかないようだ。

四川省の徳陽という地方で大規模栽培している産地の動画を見てみよう。

①11月ごろに菌床を仕込む。おがくずを主原料にした培地を袋詰めして殺菌したのちに菌を植えつけ、3カ月ほど培養する。
②2月ごろ、黒いビニール製資材(寒冷紗)で覆った簡易ハウスをつくり、圃場に菌床を埋める(または砕いてバラまく?)
③15℃、スプリンクラーで多湿を保ちながら約40日、圃場に菌を蔓延させる。コケが生えるような状態がベスト。
④3~4月、菜の花が咲くころに収穫

といった流れである。思ったより粗放的に栽培してる感じで、そんなに複雑なノウハウがあるようには見えない。菌糸を培養するだけならわりと簡単と聞いたことがあるし、適した品種さえ見つかれば、栽培は難しくないのかもしれない。

ちなみに、中国で標準的な200坪(正方形にしたら26メートル四方、小学校の25メートルプール2つ強くらい)の畑で、最大200kgの収量が見込めるそうだ。
なんかこの動画、アミガサタケがいくらで売れるかとかすごい細かく解説してるけど、一般向けの番組にここまで必要か?(笑)

ちなみに、先ほどの論文にはアミガサタケ栽培にENBなるものが重要と記してある。ENBとは意訳すると「ポイ置き栄養袋」と言った感じで、小麦や米ぬかを袋に詰めて殺菌しただけのものなのだが、これに穴をあけて畑の地面に置いておくと、アミガサタケの菌糸が穴から侵入して栄養源にする、という。他のキノコ栽培では目にすることがないユニークな方法だ。ただ、この四川の産地では、ENBにあたるものが使われている気配がない。


いっぽうで、イエローモレルの方も栽培に向けて研究されているようだ。
アメリカでは、イエローモレルの菌床が実際に販売されている。探してみると、自宅の庭で栽培にチャレンジしている動画もある。

ただ、これが大規模に栽培されているという話は聞かない。あるいは企業秘密として公にしていないだけかもしれないが・・・
思うに、イエローモレルはブラックモレルに比べて物質を分解する能力が弱いのかもしれない。野外で観察すると、ブラックモレルが落ち葉がたまったような肥沃な場所を好むのに比べ、イエローモレルは清潔な開けた場所を好む傾向がある。木や草の根に菌根を作ることができるそうなので、その差なのかもしれない。

・・・と思ってたらこんな記事を見つけた。これも調べないと・・・

以上、長くなったが、ビジネスとしてアミガサタケ栽培はどうなのかについても後日まとめてみようかと思う。










森と菌根のネットワーク

2020-04-09 22:30:37 | キノコ知識
菌根についてもう少し詳しい話をしたいと思う。

菌根は、地面を掘り返さないと見えない。キノコが生えて初めて「ああ、このナラの木に菌根菌がついてるんだな」とわかる。
その地面の下でどのように菌類がはたらいているか、ってことに関しては、まだ研究途上でわかっていないことがあまりに多い。

それでも少しずつわかってきたことをかみ砕いて説明しようと思う。


まず、菌根についてよく勘違いされるのは、このイメージだ。1本の木に、1種類の菌根菌。キノコが生える際には、木をぐるりと取り囲むようにして生えて、いわゆる「菌輪」をつくる。

もちろん可能性としてはこのパターンもありうると思うけど、大半の場合、そうではない。必ずしも菌根菌が1本の木を中心にして展開するわけではないからだ。


実際のイメージはこのような感じだ。菌根菌は、胞子が着地した地点から菌糸の生長を開始する。その場所は本人には選べないので、そこからとにかく周囲に菌糸を広げて、共生に適したパートナーを探すことになる。運よく根っこと巡り合えたら、そこで菌根を作ることができる。

菌根を作る相手は、なにも1本の木とは限らない。むしろ複数の木の根っこがある方が普通ではないだろうか。

ここで面白いことがある。図の下の方、A・Bという2本の小さな木があることに注目してほしい。これは種から芽生えたばかりの苗木だ。

Aの苗木は親の木のすぐ近くに、Bの木は離れて生えている。
Aは親の木の菌根菌が展開している場所に生えてきたので、すぐにパートナーの菌根菌をみつけることができた。
Bは親の木から離れて生えていて、菌根菌がすぐにはみつからない状態にある。

この結果どうなるか。Aは生き残る確率が高くなり、Bは多くが枯れてしまうのだ。

このとき、親の木とAの苗は菌根菌を介して間接的につながっている。まだ明らかにはされていないが、もしかしたら親の木が得た栄養が子の木に融通されているなんてこともあるかもしれない。
少なくとも、親が養った菌によって子が生きることができるわけだから、それが親の木の「愛情」なのだ、と言っても間違いじゃないと思う。そう考えるととてもおもしろい。

さらにこの図を見ると、親の木は菌根菌を介してさらにとなりの木と間接的につながっている。となりの木はさらにとなりの木に。親の木たちどうしも、菌類を通してゆるやかにつながり合って暮らしているのだ。つながりあった木は菌類を通して情報を共有しているという研究もあり、もしかしたら栄養をわけあうようなこともしているかもしれない。菌根菌の網が、人間でいうところの「コミュニティ」のように、まさに樹木のセーフティーネットとなっている可能性がある。


そして、菌根菌は1種類とは限らない。この図では赤・青・黄、3種類のキノコが競争関係にあるのを示してみた。違うキノコどうしは混ざりあわず境界線を作ってにらみ合うが、それでも木と木のつながりは乱れない。

さらに言うと、キノコと共生関係を結べる樹木も1種類とは限らない。たとえばマツの仲間もキノコと共生関係を結べるが、マツと契約できるキノコにはナラ類とも契約できる種類が多い。

こうして、マツとナラという全く違う種類の木がキノコを介して協力し合うことになる。たとえば松枯れ病が流行ってマツが大量に枯れてしまっても、ナラの木が菌根菌を守ってくれているので、マツの種子さえ残っていれば、すぐさま復活することができる。

こうして菌根菌は樹木の安定性に貢献することを通して、森の生態系を守ってきた。キノコは縁の下(あるいは緑の下!)の力持ちなのである。






とがりあみがさたけ

2020-04-04 22:33:12 | キノコ
春。桜の咲く季節になった。桜と言えば・・・そう、アミガサタケだ。

サクラの花が咲いても上を見ずに木の下ばかり探しているのは興ざめも甚だしいが・・・冬のあいだキノコをずっと待ちわびてきた身としては、もう切実に会いたいお方なので、これは仕方ない。ちょっと見た目がアレだが、「キモい」とか言わないでやってほしい。これは自然の造形美なのだ。

アミガサタケには大きくブラック系とイエロー系があって、このトガリアミガサタケはブラック系の代表種。
こう見えて欧米では美味しいキノコとして名高い。

必ずしも桜の木の下にあるわけではないが、ちょっと日陰気味でほどよく落ち葉の積もったような場所に桜の木を見つけたら、ちょっと探してみてほしい。もしかしたら見つかるかも。