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月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

梅雨のキノコが減ってるのはナゼ??

2023-08-09 22:13:19 | キノコ知識
今年の梅雨は極端にキノコが少なかった。
今まで、空梅雨で出ないという年はあったけど、雨が降ってるのに出ないというのは初めてかもしれない。これは異変だと思う。
特に少ないのはイグチ・ベニタケ・テングタケといった大型菌根菌だ。彼らはブナ科(ナラ・カシ・シイなど)やマツ属の樹木と連係して地下に大きなネットワークを築くことで知られている。
 
そもそも、それらのキノコが減っているのは今に始まったことじゃないように思う。この10年、20年、年によって豊作凶作はあるものの、年を追うごとにだんだん少なくなっているように感じる。
なぜ減っているのか?原因を考えてみた。
 
①気象の不安定化(地球温暖化?)
②森林の高齢化が進んだ
③森林に落ち葉がたまりすぎた
④人が採りすぎた
⑤シカなどの動物に食われている
⑥松枯れ・ナラ枯れ
⑦キノコの発生に大きな周期性がある
⑧中国大陸からの大気汚染(PM2.5、酸性霧)
 
たぶん④と⑤は違う。
キノコ狩り人口がゼロに近い地域でもキノコが減っているし、獣がいない都市公園でもキノコが減っているから。

⑧は日本海側から松枯れやナラ枯れが進行したことを理由に、キノコの実地的な研究で知られる小川眞さんが提起していたが、根拠としては薄い気がする。
 
やはり⑥の松枯れ・ナラ枯れは無視できない。キノコが樹木を地下でつなげてネットワークを作るというのを拡張解釈すると、菌類は樹木の栄養貯蔵庫の役割を果たしているとも考えられる。松やナラが減れば、栄養の貯蓄が減り、キノコも細るはずだ。
 
②と③も地味だが大きい。
今、人里近くで見られるキノコは、その多くが里山に適応したものだ。
里山は長い間、人が落ち葉や柴、薪炭、材木を搾取し続けたために、木は大きく育たず、落ち葉もたまりすぎるようなことがない、やせた山だった。
しかし今、里山はおそらく何百年かぶりに、豊富な樹木と腐植(腐った落ち葉などが降り積もった層)を蓄えている。
やせた里山に適応したキノコたちはこの変化に対応できていないのではないか?
 
また、老木と若い木を比べたとき、キノコが多いのは若い木だと思う。木が切られずに高齢化した森それ自体が、キノコの発生にとってマイナスではなかろうか?
 
①は言わずもがな。
夏の極端な高温はキノコはもちろん、樹木にもマイナスだろう。
それにくわえて、暑いと単純にキノコの干からびたり腐ったりが早く、我々の山に行く意欲が失せるという点も見逃せない。
また、キノコにとって良い環境を作る朝霧や夕立ちは、ここ20年を見ただけでも極端に減った、というのが私の印象だ。
 
⑦の周期性は、私が適当に考えだだけなのであまり意味はない。もしかしたら松枯れやナラ枯れの流行は定期的に起こるかもしれないから、そういう意味では正しいかもしれんけど。
 
結論
キノコが減ったのは、②と③の森林環境の変化①気候変動⑥松枯れ・ナラ枯れが重なって、ナラ・松の菌根菌ネットワークが弱体化したからではなかろうか。

森と菌根のネットワーク

2020-04-09 22:30:37 | キノコ知識
菌根についてもう少し詳しい話をしたいと思う。

菌根は、地面を掘り返さないと見えない。キノコが生えて初めて「ああ、このナラの木に菌根菌がついてるんだな」とわかる。
その地面の下でどのように菌類がはたらいているか、ってことに関しては、まだ研究途上でわかっていないことがあまりに多い。

それでも少しずつわかってきたことをかみ砕いて説明しようと思う。


まず、菌根についてよく勘違いされるのは、このイメージだ。1本の木に、1種類の菌根菌。キノコが生える際には、木をぐるりと取り囲むようにして生えて、いわゆる「菌輪」をつくる。

もちろん可能性としてはこのパターンもありうると思うけど、大半の場合、そうではない。必ずしも菌根菌が1本の木を中心にして展開するわけではないからだ。


実際のイメージはこのような感じだ。菌根菌は、胞子が着地した地点から菌糸の生長を開始する。その場所は本人には選べないので、そこからとにかく周囲に菌糸を広げて、共生に適したパートナーを探すことになる。運よく根っこと巡り合えたら、そこで菌根を作ることができる。

菌根を作る相手は、なにも1本の木とは限らない。むしろ複数の木の根っこがある方が普通ではないだろうか。

ここで面白いことがある。図の下の方、A・Bという2本の小さな木があることに注目してほしい。これは種から芽生えたばかりの苗木だ。

Aの苗木は親の木のすぐ近くに、Bの木は離れて生えている。
Aは親の木の菌根菌が展開している場所に生えてきたので、すぐにパートナーの菌根菌をみつけることができた。
Bは親の木から離れて生えていて、菌根菌がすぐにはみつからない状態にある。

この結果どうなるか。Aは生き残る確率が高くなり、Bは多くが枯れてしまうのだ。

このとき、親の木とAの苗は菌根菌を介して間接的につながっている。まだ明らかにはされていないが、もしかしたら親の木が得た栄養が子の木に融通されているなんてこともあるかもしれない。
少なくとも、親が養った菌によって子が生きることができるわけだから、それが親の木の「愛情」なのだ、と言っても間違いじゃないと思う。そう考えるととてもおもしろい。

さらにこの図を見ると、親の木は菌根菌を介してさらにとなりの木と間接的につながっている。となりの木はさらにとなりの木に。親の木たちどうしも、菌類を通してゆるやかにつながり合って暮らしているのだ。つながりあった木は菌類を通して情報を共有しているという研究もあり、もしかしたら栄養をわけあうようなこともしているかもしれない。菌根菌の網が、人間でいうところの「コミュニティ」のように、まさに樹木のセーフティーネットとなっている可能性がある。


そして、菌根菌は1種類とは限らない。この図では赤・青・黄、3種類のキノコが競争関係にあるのを示してみた。違うキノコどうしは混ざりあわず境界線を作ってにらみ合うが、それでも木と木のつながりは乱れない。

さらに言うと、キノコと共生関係を結べる樹木も1種類とは限らない。たとえばマツの仲間もキノコと共生関係を結べるが、マツと契約できるキノコにはナラ類とも契約できる種類が多い。

こうして、マツとナラという全く違う種類の木がキノコを介して協力し合うことになる。たとえば松枯れ病が流行ってマツが大量に枯れてしまっても、ナラの木が菌根菌を守ってくれているので、マツの種子さえ残っていれば、すぐさま復活することができる。

こうして菌根菌は樹木の安定性に貢献することを通して、森の生態系を守ってきた。キノコは縁の下(あるいは緑の下!)の力持ちなのである。






菌根を見つけた!

2020-03-24 21:10:04 | キノコ知識
今日はボランティアで公園の側溝を掃除!
秋に落ちた大量の落ち葉で詰まってしまうのを防ぐために取り除くのだ。楽勝!

・・・と思ってたんだが。何年も放置してあったせいか、落ち葉は表面だけで、溝にたまってたのは大量の土だった!
あげく、木の根っこがどこからか侵入してきて、側溝の中に網の目のように張り巡らされている。土を掘りだそうとすると、カーペットみたいに全部ひとつながりになってて、スコップでは歯が立たん(;'∀')
太い根っこを切って、力づくで引っぱり出すと、ズルズルと何メートルもつながった土と根っこが出てきた。クッソ重い!

するとその時。
土の中に白いものが目についた。あーっ!これは!!

菌根やん!

菌類には植物の根っこにとりついて共生する種類がいる。
菌類がとりついた根っこは菌糸で覆われて、栄養や水のやりとりをスムーズに行えるように融合し一体化する。これを「菌根(きんこん)」と呼び、また、菌根を作る菌類を「菌根菌」と名付けている。

菌根菌は植物が光合成で得た栄養をわけてもらう代わりに、植物のために働く。
菌根は病害菌や乾燥などに対して防御力を高くしてくれるのにくわえ、菌糸が回収した水や養分を融通してもらえるようになるので、植物にとって頼もしいパートナーとなるのだ。

私はもちろんその存在を知っていたけれど、こうして掘り出す機会は今まで無かった。こんなにきれいな菌根を観察できたのは今回が初めてだ。感激!


ふつうは茶色か黒の根っこが白くなっている。厚めのコーティングで覆われていて太くなっており、先っぽも丸っこい。なんだか骨折した時につける包帯のギプスのようだ。
むやみに分岐している個所もあって、そこはなにやらモジャモジャしている。
よく見ると、菌根から、さらに細かくモヤモヤと生える白い毛が見える。これも菌糸なのだろう。この細い毛で植物の根っこでは届かないような狭いスキマにも入り込み、養分を持ってくることができる。

ちなみにこの根っこはアラカシのもの。このあたりではごくごく普通にみられる常緑のドングリの木。キノコとの共生樹木だ。

そして気になる菌の方は・・・東大・奈良研究室のホームページにある『外生菌根図鑑』によれば、これだけ整った形の菌根を密集させられる種類はけっこう限られる感じだ。
ただの絵合わせで当てずっぽうになるけど、ベニタケやチチタケの仲間の菌根と雰囲気が似ている。梅雨時になればこのあたりにはニオイコベニタケやキチャハツ、アカシミヒメチチタケ(?)やニオイワチチタケなどのキノコが生えるから、そのあたりかもしれない。

菌根菌は、森林のなりたちを知るうえでとても重要な縁の下の力持ち。木と菌類の関係はとても面白いので、後日、もう少し掘り下げる記事を書こうと思う。





ウイルスは悪・・・とは限らない!

2020-03-10 21:55:38 | キノコ知識
ここんところ、新型コロナウイルスとやらの話でもちきりだが、さすがにウンザリしてきた。
ただ、ウイルスというヤツが一体何なのか、自分もよく分かっていなかったのでちょっと勉強してみた。

よく勘違いされるので始めに言っておこう。ウイルスは細菌ではない。ぜんぜん別物、例えるならばバナナと洗濯機くらい違う。菌類と細菌もよくいっしょくたにされちゃうけど、ウイルスと細菌の間にはそれよりもさら深い溝がある。


まず、ウイルスには
①細胞がない。細胞膜という風船の中に体液を満たした構造があらゆる生物の基本構造のはずなんだけど、ウイルスにはそれがない。

そして
②ウイルスは自力で増えられない。
ウイルスは自分の設計図以外、ほとんど何も持ってないので、他の生物の細胞に間借りして、一切合切を借りて自分のコピーを増やす。例えるならば、レシピだけ持った料理人が食材と包丁とナベとコンロと食器をよそから借りて料理してるようなものである。

さらに、これが重要!
③ウイルスは呼吸をしない。なにも食べない。
もちろん光合成もできない。
ていうか、こんなんで果たして生きてると言えるのか??

実際、ウイルスが生き物かそうでないかということには昔から論争があって、いまだに決着がついていない。生き物でなけりゃ何なのか?それはもうただの「物質」ということになる。

さて、それはさておき、ふつう「ウイルス」と聞くと、皆さんにはただ「悪いヤツ」という印象しかないかと思う。でもそれは先入観というもの。ほんとうは違うのだ。

確かにウイルスは、ほかの生き物の細胞に侵入してドロボーしないと生きていけないヤツらだし、そもそも生き物かどうかも怪しいエイリアンみたいに不気味な存在ではあるけれども、実は彼らなくして今の人類の進化はなかったはずなのだ。

それはなぜか。

ふつう、遺伝というと、DNAが親から子へ伝えられることを言う。ところが、ウイルスはその常識をくつがえす仕事をしてしまうのだ。

ウイルスが自分のコピーを作るとき、その生物の持つDNAから一部分をコピーし、持ち去ってしまうことがあるのだ。これがウッカリなのかワザとなのかよくわからんけれど・・・
さらに、自分のコピーをその生物のDNAに組み込んじゃうこともある。そのままウイルスを廃業して吸収されちゃったりとかも。

結果的に、ウイルスがいろんなDNAを抜き取ったり、あるいは割り込ませたりするおかげで、DNAがいろんな生物の間でシャッフルされ、赤の他人でしかない異なった生物が同じ遺伝情報を持つという現象が起きてしまう。
こうして、ダーウィンで知られるような、時間をかけて起こる自然選択とはまったく別の次元で、ありえないほど自由でドラマチックな形で進化が進んだのだ。

で、それでどうなったかというと・・・たとえば人間が持つゲノムのうち、じつに45%までもが、よそ(ウイルスだけに限らんけど)から運ばれたモノで占められていた、ということが最近になってわかったそうだ。
まあ45%と言っても、もとを正せば必要のないもの(俗称・ガラクタ遺伝子)だったので、そのほとんどは人間にとって重要度が高くないんだけどね。それでも、ガラクタはガラクタなりに役割を持っているし、中には進化の過程で変化して、ヒトをヒトたらしめることになった重要な遺伝情報も含まれている。
少なくとも、ウイルスなしに、今の形のヒトを作ることはできなかっただろう。

ウイルスは他にも病気への抵抗力を高めたり、寄生虫から身を守ったりするなど、生物の役に立っているものも多い。また、役には立たないまでも、ほぼ無害な形で生物と共存する例も多く知られている。
突然、凶暴な感染症を引き起こすのも確かにウイルスの仕業だが、それは彼らのある一面に過ぎないのだ。

・・・生物と無生物のあいだに立つもの。DNAからDNAへさすらいつつ、悪魔のような病気をはやらせたかと思えば、こんどは画期的な進化をもたらしたりもする。そんなウイルスの振る舞いは、共生したり寄生したり変幻自在にスキマに滑り込んでいく菌類の生き方とも少しかぶる。小さすぎて見ることすらできない厄介者だが、なかなかどうして目が離せない。


注:わかりやすくするために話を単純化しているので、かなりの不正確さを含むことを了承ください。ウイルスは超多様かつ複雑で、すべてを正しく伝えようと思っても、聞きかじりレベルの自分の手に負えるものじゃありません(^-^;


外生菌根菌とAM菌

2020-02-16 21:52:32 | キノコ知識
季節的にネタがないので、キノコの基礎知識をわかりやすくまとめた記事も書いていこうかと思う。今回は、菌根菌について。

テングタケ、ベニタケ、イグチ・・・私が好んで撮影しているキノコの多くは生きている木の根っこに取りついて暮らしている菌根菌だ。木が光合成で作った栄養を分けてもらうかわりに、菌糸を細く長く伸ばせる特徴を生かして集めてきたミネラルや水分を提供している。たしかに彼らは、樹木のパートナーとして生活しているわけだが、樹木にとってはその実、パートナーというよりも、生きるために欠くべからざる存在、必須の生活インフラに近い。人間で言えば電気や水道にあたる。彼らのおかげで生活力が格段に高まる。逆に菌根菌のサポートがなければ高い確率で木は枯れてしまうのだ。

ところがだ。先ほど挙げたキノコたち(専門的には「外生菌根菌」という)は、ごくごく一部の樹木としかパートナー契約を結べない。日本だと、マツやナラの仲間にほぼ限られてしまう。
では他の木はどうしているんだろう。無しでやっているのか?

そんなことはない。実は、菌根菌にはもうひとつ大きなグループがあるのだ。
「アーバスキュラー菌根菌」、別名AM菌。なにやら長くて小難しい名前だが、菌根菌と言えばむしろこちらが本家だと言っていい。
なにせ、四億年も前、いや、もっと古く、植物が上陸したころからすでに存在した彼らは、樹木はおろか、コケやシダを含む大半の植物と菌根を作ることができるのだ。
もちろん畑で育っている野菜にだって共生している。農業資材として菌が売られているくらいだ。

しかし、彼らはキノコを作らない。普通に生活している人間の目が彼らをとらえることは絶対に無いと言っていい。しかし、地球上の植物の大半は彼らの助けなしでは弱ってしまうか、あるいはちょっとしたことで枯れてしまう。

真の「縁の下の力持ち」とは彼らのことだろう。AM菌、人間にとっても欠かせない菌類。心にとどめておいてほしい。