月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

きのこ忍法帖【カンゾウ伝 その五】

2023-08-27 09:19:50 | キノコ創作

カンゾウ伝その四 よりつづき

「・・・ソラ!」

気合声に呼応するように刀が宿す青白い光が増す。
青い忍者は直線的に飛び込んできたかと思うと、再び鋭い連撃がカンゾウを襲った。

一閃、二閃、三閃。ダメだ、3回かわすのが精一杯だ。ひたすら後退、近づくことすらできない!

「ぐわっ!」

青い忍者の刀がなんと岩を切り裂き、その破片がつぶてとなってカンゾウに命中した!バランスを崩して転倒する!危ない!

「・・・ソラ!」
青い忍者は気合声を放ち、斬りかかる!しかし、間一髪カンゾウは態勢を立て直して難を逃れた。

「??・・・おかしい」

この時カンゾウは気づいた。あの青い忍者ほどの手練れであれば、今の転倒のスキを逃すはずがない。しかし無駄に気合声を発したためにその好機をのがしてしまった。なぜだ?

もしやあの気合いはただの掛け声ではなく、術なのではないか?あの、カマイタチのように遠くまで切る斬撃は、刀に術をかけて繰り出しているのではないか?だとすれば、気合のあとに刀の光が増すように見えるのも合点がいく。もしそうであれば・・・

カンゾウは懐から短刀を取り出した。刀と言っても短い刃渡りしかなく、どちらかと言えば各種細工用に使っているものだ。

「もしやそんな武器でわたしのソラキリと張り合おうとでも?」
青い忍者が攻撃の手を休めてそれをとがめた。

「その刀はソラキリというのか。大した武器だ。でも私にはこんなののほうが性に合ってるようでな」

「フフフ、まあそれもよかろう。だがそろそろ終わりにするぞ・・・ソラ!」

ここが勝負だ!

一閃!二閃!三閃!たまらずカンゾウが飛びのく!

青い忍者は一呼吸おいてもう一度斬りかかる・・・つもりであった。
ふいに視界の端から何かが飛来するのが見える!青い忍者はとっさになぎ払った。

さっきの短刀であった。いつのまにやらカンゾウが切れたロープを短刀にゆわえて、遠心力を利用して遠い間合いから振り回し投げつけたのだ。

「そんなものが効くか!」
青い忍者が斬撃を放ち短刀のロープを断ち切った!

「ぬっ!!」

青い忍者が驚く!短刀に気をとられた隙にカンゾウがまっすぐ眼前まで飛び込んできたではないか!

「憤!憤!憤!」
カンゾウが初めて青い忍者を襲う!正拳突きの連打!連打!
だがさすが青い忍者、腕や刀の柄でそれがことごとくガードされる!
青い忍者にはカンゾウの攻撃が効かないのか!?

しかしソライロタケが全ての連打を止め切ったかと思ったその瞬間、カンゾウが大きくタメをつくった!

「イヤァーッッ!!」

最後にひときわ大きな気合いでカンゾウが渾身の一発を放った!

「ぐおっ!!」

青い忍者はガードしたにも関わらず体ごと吹っ飛ぶ!!
これぞ必殺拳「リバーブロウ」!相手の内臓を破壊する威力の正拳!カンゾウの切り札だ!!

つづく

 


きのこ忍法帖【カンゾウ伝 その四】

2023-08-21 18:30:00 | キノコ創作

カンゾウ伝その三より つづき


「青い忍者・・・」

さすがのカンゾウも面食らったような面持ちで見ている。その忍者は頭からつま先まで鮮やかな青の装束で身を包んでいた。赤、黄、紫・・・忍者の装束は目立つ色の者も少なくはないが、青は珍しい。

その忍者も三兄弟と同じ形の傘をかぶっているが、てっぺんに突起はなかった。そしてその手には、透きとおるように美しい刀をたずさえていた。

「イボカサども、三人そろってお役目が果たせんようではな。ここは私にまかせてもらおう。退け」

青い忍者にそう言われ、三兄弟はもぞもぞと動き始めた。

「さて、そちらの赤い忍。今の奇襲をかわすとは大したものだな。私はソライロタケ。手加減無用で行くぞ・・・ソラ!」

その忍者が気合を入れた瞬間、刀が青白い光を宿したように見えた。

「ヤァーッ!!」

速い!最初の斬撃がカンゾウを襲う!カンゾウは後ろに跳びすさってこれをかわす!しかしその時点ですでに次なる斬撃が繰り出されていた!
カンゾウはかろうじて身をかがめてかわす。そこにさらなる斬撃!カンゾウ大きくジャンプ!

ズズン!

突然に大きな音が響く。戦闘のさなか、カンゾウがちらりと音の方を見ると、後方にあった木が真っ二つになって倒れるのが見えた。あの木は今の斬撃で切られたというのか?刀が届くずっと後ろにあったはずなのに!?

やはりそうだ。あの青い忍者は刀が届かない場所のものまで斬っている!しかもすさまじい切れ味だ!
もし仮にカンゾウが刀を持っていて、青い忍者の斬撃を受け止めようものなら、きっと刀ごと真っ二つにされてしまったろう。丸腰で逆に良かったかもしれない。

しかし今のままでは反撃もままならない。どうしたら勝てる・・・?

カンゾウは青い忍者の斬撃をギリギリのところで避けながら、かすかな勝機をもとめて思案をめぐらした。

つづく





きのこ忍法帖【カンゾウ伝 その三】

2023-08-19 01:52:36 | キノコ創作

カンゾウ伝 その二より つづき

カンゾウの身体から湧き上がる赤黒い妖気のようなものは、やがて霧のように一帯に広がって三人を包みこむ。
ほどなくして、もはや誰がどこにいるかさえ分からぬほど霧は濃くなり、見る景色の全てを赤く染め上げた。それはあたかも地獄のような光景であった。

するとどうだろう、三人が急にうめき始めた。
「う、体が、うごかぬ」
「この霧、すっぱいぞ、すっぱい・・・」
「いかん。逃げよ、逃げるのだ」

みな口々につぶやくが、ただただ独り言をくりかえすだけで、行動にうつることはない。どうやら意識が遠のいているようだ。

この術は忍法「紅い霧」!!すっぱい酸を大量に含んだ汗を蒸発させ、霧を作り出して相手を幻惑し、戦意を奪ってしまうという、もはや妖術と言ってもいい離れ業である。カンゾウおそるべし!

「フフフ、どうだ、私の汗は?」
カンゾウは霧の中から姿を現すと、つかつかと三人に歩み寄った。そしてさきほど切ったロープを手にすると、またたく間に三人を縛り上げてしまった。

「さて、おまえたちにいくつか聞きたいことがある。・・・まず、お前たちは何者だ?」

問うと、黄色い忍者が答えた。「我々は『闇菌』・・・強大な忍者の組織だ」

「ヤミキン・・・聞いたことがある。菌幾地方に勢力を張り、市井の人々を苦しめていると噂される忍びの集団か。で、そのヤミキンが、なぜ私を襲う?答えよ。」

「それは・・・」

白い忍者が口を開こうとしたその刹那、カンゾウは突然にその場所を飛びのいた。なんと、すぐ近くにあった巨木が倒れかかってきたのだ。
そこへさらに何か閃光のようなものがきらめく!

パッ!パッ!と光るたびに素早く動くカンゾウの姿が霧の中に浮かび上がる。その動きはあまりに早く、常人の目に追えるものではなかった。

ズッズーン!!

巨木はものすごい地響きを立てて地に倒れた。しかしよく見よ、その幹はなんと、料理人が包丁で切ったかのように寸断されているではないか!

「ぬ・・・何者だ!?」

カンゾウが叫ぶと、一人の男が寸断された倒木の上に姿を現した。それは、鮮やかな青い装束を身にまとった忍者であった。

つづく

 

 


きのこ忍法帖【カンゾウ伝 その二】

2023-08-15 23:54:12 | キノコ創作

カンゾウ伝その一より、つづき)

イボカサ三兄弟は、ロープを引き絞ったままカンゾウのまわりを回る。ロープはカンゾウにグルグルと容赦なく巻きつき、とうとうがんじがらめになってしまった。もはや逃げることはおろか、身じろぎひとつできない。円陣はさらにせばまる。絶体絶命!

「ヤァー!」「ヤァー!」「ヤァー!」

次の瞬間、すさまじい気合いとともに三人が同時に襲いかかった!

「キキキーン!!」

激しい金属音が響き、周囲にこだまする。三人は弾けるように跳び、元いた場所と全く同じ場所に降り立った。

「???」

金属音?三人の刃は同時に襲いかかり、いま確かに無防備なカンゾウの首に届いたはず!

「こ、これは・・・!?」

いぶかしむ間もなく、三人の刀は、なんと真ん中からまっぷたつに折れて地に落ち、三つ同時にガチャンと音を立てた。
何が起こったのか分からないまま立ち尽くす三人。カンゾウはどうなった・・・??

「フフフ、それで終わりか?」

赤黒い装束の忍者は首の凝りをほぐすような仕草をみせると、円陣の中央で不敵に笑った。カンゾウは生きている!しかも無傷だ!!
しかしどうして??

カンゾウは精神を集中させることで、一時的に身体を鉄のように硬くさせることができるのだ!これぞ秘術「肝硬変」!
カンゾウは三人がとびかかる瞬間を見計らって体を硬化させ、逆に三人の武器を破壊したのだ。

さらに次の瞬間、何をどうしたものか、カンゾウをがんじがらめにしていた三本のロープが切れ、バサリと落ちた。

「さて、今度はこちらの番だな。」

カンゾウは手のひらを組んで忍術の印を結ぶと、次なる精神の集中に入った。

「・・・菌ッ!!」

カンゾウが気合いの声をあげる。するとどうだろう、急激に周囲の空気がよどみ始めたではないか。
それだけではない。カンゾウの体から何やら赤黒い妖気のようなものが立ちのぼっていくのが見える。果たしてこれから何が始まるのか!?

ただならぬ雰囲気にのまれ、折れた刀をかまえた三人は、ただただ体を凍り付かせたように動けぬまま、状況を見守ることしかできなかった。

つづく







きのこ忍法帖【カンゾウ伝 その一】

2023-08-13 12:09:18 | キノコ創作

「フッフ、とうとう見つけたぞ。貴様が例の忍者だな!」

ひとりの忍者を三人の忍者が取り囲んでいる。三人の忍者はそれぞれ赤、白、黄色の装束を身にまとい、さらにそれぞれ同じ色の小さな陣笠をかぶっていた。その傘のてっぺんは突起のように奇妙に突き出ている。

「我々はイボカサ三兄弟!貴様の命運もここまでだ。まずは名を名乗ってもらおう!」

取り囲まれている方の忍者は落ち着き払っていた。赤黒い装束をみにまとい、身じろぎひとつせず直立している。

「・・・カンゾウ。カンゾウだ。」

忍者は静かに名乗ると、身構えた。空手の構え。彼は武器を持っていない。

「自信家なのかバカなのか、度胸だけはいいようだな。いくぞ!」三人の忍者は互いに目配せすると、三人同時に刀を構えた。

カンゾウと名乗る忍者と一定の距離を置きながら円をえがくように回り始める。三人の動きは徐々に早まって、やがて目にもとまらぬほどのスピードになった。三つの色が混然とまじわり、ひとつの色となる。そして円陣がせばまり始めた。

「ヤァー!」「ヤァー!」「ヤァー!」

次の瞬間、すさまじい気合いとともに三人が同時に襲いかかった!

「キキキーン!!」

激しい金属音が響き、周囲にこだまする。三人は弾けるように跳び、元いた場所と全く同じ場所に降り立った。

「見たか!我々の三位一体の攻撃を!」

カンゾウは三人の攻撃を金属の手甲で全て防いだ。だが一糸乱れぬ同時攻撃に、反撃のスキは無い。防ぐので精いっぱいだ。そしてそれだけではない。カンゾウの右手首と左腕、右足首に、それぞれ赤、白、黄色のロープが巻き付いているではないか!

秘技「三色イボの糸」!!カンゾウの動きはこれで封じられた。


「よく今の攻撃を防いだな。だが次は無い。」

三人の忍者がみな勝ち誇るようにニヤリとする。三人は互いに目配せすると、再び円をえがいて回り始めた。三人の動きは徐々に早まって、やがて目にもとまらぬほどのスピードになった。三つの色が混然とまじわり、ひとつの色となる。そして円陣がせばまり始めた。

                                                   つづく

 


梅雨のキノコが減ってるのはナゼ??

2023-08-09 22:13:19 | キノコ知識
今年の梅雨は極端にキノコが少なかった。
今まで、空梅雨で出ないという年はあったけど、雨が降ってるのに出ないというのは初めてかもしれない。これは異変だと思う。
特に少ないのはイグチ・ベニタケ・テングタケといった大型菌根菌だ。彼らはブナ科(ナラ・カシ・シイなど)やマツ属の樹木と連係して地下に大きなネットワークを築くことで知られている。
 
そもそも、それらのキノコが減っているのは今に始まったことじゃないように思う。この10年、20年、年によって豊作凶作はあるものの、年を追うごとにだんだん少なくなっているように感じる。
なぜ減っているのか?原因を考えてみた。
 
①気象の不安定化(地球温暖化?)
②森林の高齢化が進んだ
③森林に落ち葉がたまりすぎた
④人が採りすぎた
⑤シカなどの動物に食われている
⑥松枯れ・ナラ枯れ
⑦キノコの発生に大きな周期性がある
⑧中国大陸からの大気汚染(PM2.5、酸性霧)
 
たぶん④と⑤は違う。
キノコ狩り人口がゼロに近い地域でもキノコが減っているし、獣がいない都市公園でもキノコが減っているから。

⑧は日本海側から松枯れやナラ枯れが進行したことを理由に、キノコの実地的な研究で知られる小川眞さんが提起していたが、根拠としては薄い気がする。
 
やはり⑥の松枯れ・ナラ枯れは無視できない。キノコが樹木を地下でつなげてネットワークを作るというのを拡張解釈すると、菌類は樹木の栄養貯蔵庫の役割を果たしているとも考えられる。松やナラが減れば、栄養の貯蓄が減り、キノコも細るはずだ。
 
②と③も地味だが大きい。
今、人里近くで見られるキノコは、その多くが里山に適応したものだ。
里山は長い間、人が落ち葉や柴、薪炭、材木を搾取し続けたために、木は大きく育たず、落ち葉もたまりすぎるようなことがない、やせた山だった。
しかし今、里山はおそらく何百年かぶりに、豊富な樹木と腐植(腐った落ち葉などが降り積もった層)を蓄えている。
やせた里山に適応したキノコたちはこの変化に対応できていないのではないか?
 
また、老木と若い木を比べたとき、キノコが多いのは若い木だと思う。木が切られずに高齢化した森それ自体が、キノコの発生にとってマイナスではなかろうか?
 
①は言わずもがな。
夏の極端な高温はキノコはもちろん、樹木にもマイナスだろう。
それにくわえて、暑いと単純にキノコの干からびたり腐ったりが早く、我々の山に行く意欲が失せるという点も見逃せない。
また、キノコにとって良い環境を作る朝霧や夕立ちは、ここ20年を見ただけでも極端に減った、というのが私の印象だ。
 
⑦の周期性は、私が適当に考えだだけなのであまり意味はない。もしかしたら松枯れやナラ枯れの流行は定期的に起こるかもしれないから、そういう意味では正しいかもしれんけど。
 
結論
キノコが減ったのは、②と③の森林環境の変化①気候変動⑥松枯れ・ナラ枯れが重なって、ナラ・松の菌根菌ネットワークが弱体化したからではなかろうか。