Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

CLANNAD 第一期

2008-11-21 00:14:30 | アニメーション
CLANNAD第一期DVD最終巻に収録されている「智代編」を観終わって、思う。
CLANNADはやばいよね。これは「おもしろい」に「超」が付くよ。

「智代編」に限らず、CLANNADを観ながら胸が熱くなったことは何度あったか。特に風子のエピソード。これは泣きました。6話くらいまでは単に「まあまあおもしろいな」っていう程度だったのが、8話で感涙です。「病院で眠り続ける少女」「記憶喪失」「しかし忘れないもの」という泣かせる道具の定番をこれでもかと盛り込めば、そりゃあまあ、泣いてしまいます。「笑わせるのは難しいけど泣かせるのは簡単だし、それにちょっと展開がベタだよね」という批判は当然あるでしょう。今更セカチューでもないけれど、そういう大衆的な、泣かせてなんぼ、という映画や小説が低く見られがちだというのは、その通りだと思います。でもCLANNADは、そういう世間の常識など吹き飛ばしてしまうほどの透き通った哀しみと喜びに溢れかえったアニメーションです。

とにかく演出がいい。特に風子のエピソードでは、あの「星型」の彫刻がとても上手に小道具として用いられている。最初は、姉の結婚式に出てもらうための「ちょっとへんてこなプレゼント」に過ぎなかった。おそらく、多くの視聴者はあれを「よく分からない変なもの」程度にしか見ていなかっただろうと思います。それが、実は星ではなくヒトデだということが分かったとき、それは「ギャグ」になるわけです。しかし、「どう見ても星なのに、本当はヒトデ」というそのカラクリが、あとあと意味を持ってきます。次第に人々が風子の存在を忘れ始め、そして到頭完全に風子の存在を忘れてしまった後、その彫刻だけが手元に残ります。けれども、それが「ヒトデ」だと認識することで、皆の心の中に風子の思いが確かに沈殿していることが暗示されるんですね。

彫刻の役割の変化の仕方はすばらしい。はじめ伏線だと気付かせることなく、物語に溶け込んでおり、しかも最後に抜群の効果を発揮する。ぼくは『ワンピース』のクロコダイル編を思い出しました。戦いが始まる前、仲間だと識別するために腕に包帯のようなものをルフィたちは巻きますが、それが最後、仲間の王女との別れの際に、「仲間の絆」として機能する。こうした機能の変化が物語に動的な感動を生み出すんですね。

それと、智代がテニスの試合をしているときに明らかになる朋也の渚への気持ち。あのような短い時間に、流露した恋心と、朋也を慕う女生徒の気持ち、妹を想う姉の気持ち(ひょっとして姉の杏も朋也を?)が凝縮されて表現されており、叶精二だったら「文学的」と評するでしょうか。

個人的には春原が好きです。あのへたれっぷり(「番外編」で寝ながらペットボトルを逆さにしてがぶ飲みするだらしなさに妙なリアリティがある)、しかしときどき真面目になり、意外にスポーツ万能で(まあスポーツ推薦だけど)、猛烈なツッコミを会得していて、そして本当はすごくいい人な春原。かなり好きです。

女性キャラでは、どういうわけか智代が好き。「智代編」を観る前も、顔だけだったら一番、と思っていたんだけど、「智代編」を観た後では、まるごと好きになってしまった。で、その「智代編」だけども、観終わったあと、少し切なくて軽い放心状態。これは「智代編」だけのせいではなくて、CLANNAD第一期を全部観終わったせいでもあると思う。ぼくは、アニメーションを観て、放心状態になるほど感動したことが今までで5回くらいある。CLANNADがそれに加わった。

「智代編」は、智代が朋也の彼女という驚きの設定。しかし、何事に付け優秀な智代と、不良で学校のつまはじき者の朋也との間の関係は、周囲からは奇異な目で見られていた。あるとき、朋也は忠告される。「智代は高みへ登れる人間だ。あなたとは違う。あなたは智代の足を引っ張るだけだ。よく考えるんだ、自分がどういう人間と付き合っていて、自分がどういう人間なのかを」。ついに別れる二人。彼らは学校ですれちがっても声を交わすこともなくなった。やがて進学しない朋也の就職が決まったある日、街に雪が降る。桜並木で出会う智代と朋也。彼女は言う、私がお前の元へ行く、と。彼も言う、おれがお前の元へ行く。優等生とろくでなしが、互いに歩み寄る。これって古典的な身分や階級を越えた恋の話の亜流、なんでしょうけど、いいですねえ。

なんていうか、ベタな話なんだけど、人の感情をとても丁寧に描いていて、演出もその感情の起伏を強調し、感情移入しやすくしている。ありふれた話だから馬鹿らしくて感動できない、という意見もあるだろうけど、なぜか既視感はなく、胸の一番奥に迫るものがある。

とてもいいものを観た。今夜のAfter Storyが楽しみだ。