Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

手紙(アンジェラ・アキ)

2008-09-11 00:51:14 | アニメーション
現在NHKで放送されている「みんなのうた」。
アンジェラ・アキの作詞・作曲(もちろん歌も)の「手紙」は、けっこういい。
ちなみにアニメーションは白組が担当していますが、絵が基本的に動かないので、これはアニメーションと呼んでいいのかどうか…。なお、イラストは少女漫画風のタッチで(瞳の大きい少年が水彩画で描かれているみたい)、意表を突かれます。

歌は、15歳の「ぼく」が大人の「ぼく」に宛てて書いた手紙の前半と、大人の「ぼく」が15歳の「ぼく」に宛てて書いた手紙の後半とに分かれます。このうち、少年である「ぼく」が未来の自分に宛ててメッセージを送ることは、よく見られる発想ですが、大人の「ぼく」が過去の15歳の自分にメッセージを送ることは、比較的珍しい気がします。

大人である現在の自分が過去の自分にメッセージを送ること。このことから、ぼくは一つの小説を思い出しました。新海誠『秒速5センチメートル』です。もちろん、『秒速』は新海誠監督のアニメーション映画ですが、監督自身がそれを基に小説化したことも知られています。この小説には、大人になった明里が過去を振り返る、次のような一節があります。

「(前略)あの日電車に閉じこめられていた彼に声をかけてあげることができるなら、と彼女は強く思った。もしそんなことができるのなら。
 大丈夫、あなたの恋人はずって待っているから。
 あなたがちゃんと会いに来てくれることを、その子はちゃんと知っているから。だからこわばった体から力を抜いて。どうか恋人との楽しい時間を想像してあげて。あなたたちはその後もう二度と会うことはないのだけれど、あの奇跡みたいな時間を、どうか大切なものとしていつまでも心の奥にとどめてあげて。」

明里は過去の自分にメッセージを伝えようとしているのではなく、過去の「彼」(貴樹)に向かって呼びかけています。それがアンジェラ・アキの歌とは違うところですけれど、似通っているのは確かなようです。

過去に向かって呼びかけるというのは、どういう心情なのでしょうか。未来へなら、分かる気がします。今とても辛くても、「未来の自分はどうですか?」と問うことで、元気でいてください、という願いが暗に込められている気がします。

翻って、過去の自分(あるいは友人・好きな人)に起こった出来事は、もう現在からは変えられません。そのときの気持ちを変えることもできません。そのようにあってください、と願うことはもうできません。それでも、過去は変えられなくても、「このような気持ちでいて」と願わずにいられません。「もっとあの人を信じて」とか「もっとあの人を大切にして」とか、願わずにはいられません。困難を目の前に控えている過去の自分を応援せずにはいられません。

でも、現在を肯定しているのとしていないのとでは、過去へのメッセージの内容も違ってきてしまうでしょう。その思い出と現在との繋がりも重要な要素であるはずです。場合によっては諦めが混じり、あるいは慰めが出てくることもあるでしょう。過去の自分にどういうメッセージを送るかによって、現在の自分が逆照射されるのです。そしてそれは、未来の自分への手紙にしても、同じことなのかもしれません。

拝啓。14歳の君へ。もっと学校生活を満喫してください。楽しいことを楽しいと認めてみてください。それはもう二度と帰らない日々で、最高の日々なのだから。