一身二生 「65年の人生と、これからの20年の人生をべつの形で生きてみたい。」

「一身にして二生を経るが如く、一人にして両身あるが如し」

西村玲

2019年04月25日 | 社会
 大きな研究成果を上げて将来を期待されながら、自ら命を絶った女性がいる。享年43歳。多くの大学に就職を断られ、追い詰められた末だった。
 西村玲(りょう)さん、2016年2月2日死去。
 東北大学で日本思想史を学んだ。江戸中期の普寂(ふじゃく)という僧侶に注目した仏教の研究で、04年に博士(文学)に。都内の多摩地区にある実家に戻って両親と同居しながら、研究に打ち込んだ。
 翌05年、日本学術振興会の「SPD」と呼ばれる特別研究員に選ばれた。採用された人に月額約45万円の研究奨励金を支給する制度だ。「これで(研究で使う)本がバンバン買える」と、両親に喜びを伝えた。「もらったお金の分は、研究成果で返さないといけない」
 年に論文2本、学会発表4本。自らにノルマを課し、経典などを大量に運び込んだ2階の自室にこもった。数少ない息抜きは両親と囲む食卓。箸を動かしながら、研究の内容を早口で熱く語った。「覚えたことが出ていかないよう、頭に巻き付けるラップがあればいいのに」。そう言って笑い合った日もあった。

実家で両親と暮らしながら研究に打ち込み、成果をまとめた初の著書が評価されて、
09年度に若手研究者が対象の賞を相次いで受賞。
恩師は「ほとんど独壇場と言ってよい成果を続々と挙げていた」と振り返る。

だが、特別研究員の任期は3年間。その後は経済的に苦しい日が続いた。

衣食住は両親が頼り。研究費は非常勤講師やアルバイトでまかなった。
研究職に就こうと20以上の大学に応募したが、返事はいつも「貴意に添えず」だった。
読まれた形跡のない応募書類が返ってきたこともあった。

安定した職がないまま、両親は老いていく。
14年、苦境から抜け出そうと、ネットで知り合った男性との結婚を決めた。
だが同居生活はすぐに破綻。自らを責めて心を病んだ。離婚届を提出したその日に自死した。

 父(81)は、「今日の大学が求めているのは知性ではなく、使いやすい労働力。玲はそのことを認識していた」と語る。

 90年代に国が進めた「大学院重点化」で、大学院生は急増した。
ただ、大学教員のポストは増えず、文科系学問の研究者はとりわけ厳しい立場に置かれている。
首都圏大学非常勤講師組合の幹部は「博士課程まで進んでしまうと、破滅の道。人材がドブに捨てられている」と語る。


内容紹介
「堕落」など、ネガティブなイメージが今なお根強い近世仏教。しかし、そこには個性豊かな近世独自の思想が育まれ、近代・現代の仏教にまで影響を及ぼしていた。

では、そういった思想はどのように深められていったのか。また、近世の仏教は、キリシタン・儒者・世俗の科学的合理主義者といった「他者」とどのように向き合い、どのような思想を提示し得たのか。

中国・明末仏教や次代の近代仏教までをも見据えた広角な視野から、“思想としての近世仏教”の姿を描いた論考16篇を収録した、学界待望の論文集。

入門的な論文から、各論に踏み込んだ専門的な論文までを収録し、当該分野を志す初学者から専門家まで、幅広い読者にオススメ!

第I部 近世仏教の展開
近世仏教論
教学の進展と仏教改革運動

第II部 明末仏教と江戸仏教
慧命の回路―明末・雲棲?宏の不殺生思想―
虚空と天主―中国・明末仏教のキリスト教批判―
東アジア仏教のキリスト教批判―明末仏教から江戸仏教へ―
明末の不殺放生思想の日本受容―雲棲?宏と江戸仏教―

第III部 キリシタンと仏教
近世思想史上の『妙貞問答』
近世仏教におけるキリシタン批判―雪窓宗崔を中心に―
仏教排耶論の思想史的展開―近世から近代へ―

第IV部 教学の進展
中世における法相の禅受容―貞慶から良遍へ、日本唯識の跳躍―
可知と不可知の隘路―近世・普寂の法相批判―

第V部 伝統から近代へ
釈迦信仰の思想史的展開―『悲華経』から大乗非仏説論へ―
須弥山と地球説

第VI部 方法と実践
「近世的世俗化」の陥穽―比較思想から見た日本仏教・近世―
中村元―東方人文主義の日本思想史―
アボカドの種・仏の種子―仏教思想は環境倫理に何ができるか―

西村玲略歴・業績目録
あとがき(末木文美士)
人名索引
※第I部「近世仏教の展開」では、近世仏教全体を通史的に概観し、第II部「明末仏教と江戸仏教」では、中国明朝末の仏教(主に臨済宗)とキリスト教との論争と、その論争と近世仏教の関係を、第III部「キリシタンと仏教」では日本における近世から近代までの仏教とキリスト教の論争を扱う。第IV部「教学の進展」では、中世の法相宗の禅受容、近世の浄土律僧・普寂の法相批判といった教学的な問題、第V部「伝統から近代へ」では、長い伝統をもつ仏教思想が近代の批判にどのように対応したのかという伝統と近代の相克を扱い、最後の第VI部「方法と実践」には、方法論的な問題を扱った論文を収録する。
内容(「BOOK」データベースより)
“近世思想”としての仏教。「仏教堕落史観」を克服し、中国明末仏教や近代日本仏教までをも射程にとらえた広角な視野から繰り出される新しい近世仏教の姿!
著者について
元公益財団法人中村元東方研究所専任研究員。専攻は近世日本仏教思想史。2010年に「普寂を中心とする日本近世仏教思想の研究」により日本学術振興会賞ならびに日本学士院奨励賞を受賞。著書に『近世仏教思想の独創―僧侶普寂の思想と実践―』(トランスビュー、2008年)がある。2016年逝去。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
西村/玲
1972年6月7日東京に生まれる。1996年3月東北大学文学部史学科卒業。1998年3月東北大学大学院文学研究科修士課程修了(文化科学専攻)。2004年3月同博士課程修了。博士(文学)。4月財団法人東方研究会専任研究員(~2005年3月)。2005年4月日本学術振興会特別研究員(SPD)(~2008年3月)。2006年4月プリンストン大学客員研究員(~2007年3月)。2008年4月財団法人東方研究会(2012年4月より公益財団法人中村元東方研究所)専任研究員。2010年3月「普寂を中心とする日本近世仏教思想の研究」により日本学術振興会賞ならびに日本学士院奨励賞受賞。2016年2月2日逝去。この間、東洋大学非常勤講師、東方学院講師、国際日本文化研究センター共同研究員などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)