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渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

最近のナイフの傾向性

2020年06月04日 | open


最近のナイフの人気の推移には一つの
傾向性が見られる。
それは、ハンドルが従来の細いアメリカン
タイプではなく、中央部がゴンぶとのタイ
プのハンドルの物が人気を集めている傾向
だ。
これは、ナイフをアウトドアで実用品と
して使う人が増えて来たからだと思う。
ハンドルが細いナイフは日本刀の小柄小刀
のように細かい作業がやり易い。典型例
は食器のテーブルナイフの握り部分で、
細い握りは繊細な使用方法に適している。
武器である日本刀でも、硬木を使った
細い柄は剣術に長けた術者に多く好まれ
て来た。

これらの細い握りには意味がある。
野球のバットも日本刀の柄と同じく、
尋常ならざる程に細い。
しかし、テニスのラケットなどは逆に
ある程度太い物が標準仕様となっている。
北欧ナイフが一様にハンドルが太く、
中央部が太さを増しているのは、それは
北欧ナイフがスカンジナビアの歴史的な
文化と密接な関係にあるからだ。
手袋をしたまま細い握りのナイフを使う
ことはできない。

私がかなり昔にスカンジナビアンナイフ
を見た時には「げ!なんて格好の悪い
ナイフなのだ」と思った。
ブレードのシルエットは日本刀的で好感
が持てたのだが、いかんせん、このハン
ドル形状は何なのか、と。ボテッと太り
過ぎている。
だが、しかし!
これも大昔だが、友人が持っていた北欧
ナイフを使わせてもらったら、あら不思
議。木片を削る時に異様に削り易い。
なるほど、そういう使い方か、と得心が
行った。

細いハンドルのナイフは薪削りには向か
ない。


ただし、薪削りに適したハンドルを持つ
北欧ナイフのハンドルは、料理には向か
い。
これは包丁の握り部分を想像してもらえ
ば理解できると思う。
ゴンぶとの握りが料理に適しているので
あるなら、包丁の発達過程で料理包丁は
すべて北欧ハンドルのように進化していた
筈だ。現実はそうなってはいない。まる
で繊細な彫り物をするための刀である彫刻
刀のように細身の柄が包丁のハンドルと
なっている。これは世界万国で。

北欧のプーッコタイプのナイフ。


最近、日本国内のナイフの人気は従来の
アメリカンナイフから北欧ナイフへと
完全に移行しつつある。
これはアウトドアでのちょいとハードな
キャンプやブッシュクラフトという野営
活動の人気が急上昇したことが背景にある
と思われる。
キャンプについては傾向が二分化してお
り、グランピングと称する上げ膳据え膳
の豪華リゾートホテルを屋外テントで堪能
する富裕バージョンと、シンプルに野外
自活を目指す「森の生活」から学ぼうと
するブッシュクラフト系の二派に大別
されつつある。
今の北欧型ナイフの人気は、ハードキャン
ブッシュクラフトがモリモリと日本で
人気が出てきたことに起因することだろ
う。

北欧型ナイフは料理意外ではかなり使い
易いのだが、前述したように細かい作業
には向かない。
仮に北欧ナイフが「全般的に使い易い」
とする所見を持っているとしたら、それ
はその人が自分のスキルでナイフの欠点
をカバーしていることに気付いていない
といえる。
良い点は良いし、不適合な点はそれとし
て世の中の物品には存在する。
ナイフなどの実用刃物はそうした定理が
てき面に現出する道具だ。
そのため、多くのブレードグラインドが
あるし、それに見合った使用方法がナイフ
などの道具では重要になってくる。パター
でドライビングショットはできないので
ある。

概して、北欧ナイフは汎用性が高い。
北欧某国では日本刀のような武器として
も使用された歴史もある。
また、武器ではなく、日常的な必需品と
して誰もが腰に下げている北欧の国もあ
る。刃物と国民文化が融合している。

北欧ナイフは、総合力が非常に高い。
ただ、ひとつの弱点がある。
欠点ではなく弱点だ。
それは、北欧ナイフはスーツやタキシード
には似合わない(笑)。

『OK牧場の決斗』(1957)でのドク・
ホリディ(カーク・ダグラス)


『トゥームストーン』(1993)でのドク・
ホリディ(ヴァル・キルマー)

左ショルダーホルスターの横にアイボリー
グリップの細身ナイフを隠し持っている。


ギャンブラーナイフ(アメリカ)。
両刃のため日本では所持禁止。携帯禁止
ではなく所持が禁止である。

見て判るように、使用目的は刺突だ。
刺殺のためだけに存在する刃物であり、
これは道具というより武器になる。
日本刀のカテゴリーのうち、太刀や刀は
積極的戦闘武器であるよりもむしろ護身
や階級の象徴として存在した。刀が主力
武器として使用されたのは日本の歴史の
中では幕末の京都しか無い。
しかし、鎧通しのみは、甲冑武者を刺し
殺すのみの目的で作られた。武士の階級
的象徴などでもない。戦闘者の武器で
ある。
戦国時代中は、柄を下に向けて右側の
外帯に差した。
超絶接近戦での組み打ちの際に、右手で
逆手に抜いて、甲冑もろとも敵を刺し貫
くのが鎧通し=右手(めて)差しの使い方
だ。厚み=重ねは1センチ以上あるごつい
刺殺用の武士の短刀である。
使用目的は、ドク・ホリデイのナイフと
同じ。
映画『トゥームストーン』では、ドク役の
ヴァル・キルマーが絡んで来たならず者を
ブッサブサに刺し殺すシーンがあるが、
そういう使い方をするのがダガーであり、
ギャンブラーナイフであり、鎧通しだ。
アウトドアナイフではないので、ダガー
の両刃ナイフを日本では2008年から所持
禁止としたのは正しい判断かも知れない。
存在目的が目的だけに。
貝の殻剥きや牡蠣剥き用の業務用器具ま
でダガーであるとして摘発検挙した警察
の行為は行き過ぎといえるが。
日本刀は美術品なので別として、ナイフ
のダガーは国内には無くても人は困ら
ない。
やはり、日本国内でのナイフは、山海の
アウトドアやデスクワークで、人にとっ
て便利な道具として使ったあげたいとこ
ろだ。
思うに、ナイフの立ち位置は、ハサミに
似ていると思う。

日本では、浅沼稲次郎が右翼少年に刺殺
されて以降、刃物狩が進み、教育の場で
日本人に刃物の使い方を教育することを
放棄した。
以降、刃物の使い方を知らない人間が
包丁やナイフで人を刺したりするよう
になった。
出入りでゴルフクラブや釣竿を持って行く
ようなものだが、刃物であるだけに、包丁
やナイフは誤った使い方をされてしまう
不幸な面もある。
しかし、刃物は人を殺めない。
人が人を殺める。
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